あらすじ
国際秩序の中で「帝国」化しつつあったアメリカを,未曾有の内戦が引き裂いた.連邦を二分した内戦の実態を,奴隷制,政治秩序などをめぐるさまざまな対立軸とともに描く.再建のなかの国民の創造と,「奴隷国家」から「移民国家」への変貌,そして金ぴか時代へ.一国史を越える視座から長い一九世紀を捉え,光と影が交錯する道程をたどる.
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Posted by ブクログ
1812年の米英戦争を通じて、アイデンティティをより強固なものにしたアメリカ。その後領土を西に拡張し、先住民を追いやりながらついには太平洋へと到達する。大陸横断鉄道も開通し、巨大な市場を形成するものの、独立時から棚上げにしていた奴隷制という社会の矛盾が国家を分断する。皮肉なことにその自己矛盾は黒人奴隷側から突きつけられるのではなく、北部・南部の産業及び政府の在り方に基づくものである。その時点で、奴隷制に関する問題は一市民や団体レベルでは人道的な面もあるが、基本的には政治的な問題であるといえる。奴隷制そのものではなく、領土が拡張し各地が州に昇格する中、新たな州が奴隷州となるか自由州となるかが国政における一番の関心ごとだった。奴隷解放宣言を出し結果的に奴隷制に終止符を打つことになるリンカン自身も、決して奴隷制廃止論者ではないというところからもそれが窺える。
南北合わせて62万人の犠牲を出した未曾有の戦争。後にも先にも、これほどまでの死者を出した戦争はアメリカ史上一度もない。しかもそれが他国とのものではなくあくまで内戦である点が恐ろしい。
南北戦争の中で、最もよく知られており最も注目されるのは奴隷解放宣言とゲティスバーグでリンカンが行った演説であろう。だが実は、奴隷解放宣言に先立って出された予備宣言が最も重要であると言っても過言ではない。この宣言でリンカンは、連邦に復帰するのならば奴隷制度については容認するという妥協を図る。しかし南部がそれに応じなかったため、結局は奴隷解放宣言を出さざるを得なくなる。その時から、南北戦争は奴隷制度という非人道的な制度を終わらせるための戦争となったのである。ただこのことは、欧州諸国が表立って南部を支援できなくなったという点では戦略的なメリットもあった。多大な犠牲を出しようやく終戦を迎えるも、ここからの道のりも決して平坦ではない。南部への処置をどうするかという点で揺れ、自由となった黒人への対処でも揺れる。
南北戦争を経てすべてが解決したかといえば当然そんなことはない。シェアクロッパー制度により黒人は結局のところ土地に縛られた債務奴隷となり、暴力で迫害するKKKも現れる。制度としての差別が解消された分、ここからは明確な「区別」の時代へと突入する。また、「金ぴか時代」と呼ばれる由縁となる政治腐敗も深刻化した。何より、先住民への迫害はさらに強まった。
Posted by ブクログ
本書は一番知りたかったアメリカという国の歴史の部分かも知れない。
世界の抑圧された民衆の新天地として
移民を受け入れ開拓されて行く大陸。
そこは移民、先住民、奴隷民が暮らす
大地となった。
理想を掲げる者の中に、人権の自由、経済の自由、宗教の自由、置かれている状況で、
いろいろ求めているものが異なる。
この人たちを満足させる国づくりの過程は
困難なことなのは、想像できる。
結果、求める体制が異なる南と北で戦争に至る。
これを舞台にした映画が「風と共に去りぬ」ということなので、この作品を観ておくことにした。
この時の大統領がリンカンで、
「人民の人民のための・・・」の名文句の
至った経緯を知ることができた。
先住民のことは、深く触れていないが
自分たちの道徳や論理を押し付けて
野蛮人と決めつけ、抹殺に近い状況に
陥れて、大陸の無用の土地へ移住させられる。
この事実を知っておかないといけない。
アメリカの抱える一つの黒歴史である。
そもそもこのことが、今も敵対する国々が
反発する理由の一つにも思える。
その他ゴールドラッシュ、未完の革命、
労働問題、資本主義社会、白人至上主義
これらのことを少し知ることができてよかった。
現代のアメリカを悩ます問題がここにあった。
Posted by ブクログ
既知の大統領はリンカンだけだったが、アメリカの宿痾ともいえる奴隷制度が深くかかわっており、彼の当選も奴隷に関しての民主党の南北分裂が勝因となっている."戦後"というタームが日本でも頻出するが、アメリカも同様で未だに南北戦争の影響が残っている由.リンカンの次のアンドリュー・ジョンソンが弾劾裁判にかけられたことは知らなかった.それほど物議をかもした人物だったのだろう.このようなまとめ文書は非常に役立つと感じている.
Posted by ブクログ
なるほど…改めて、南北戦争前後の歴史を知らずして、アメリカという国は全く語れないな…と再認識。よく南北戦争は「奴隷制の存否」を巡っての戦いであった、と言われますが、ではなぜ「奴隷制廃止」を主張した北軍、リンカン・共和党側が勝利したにも関わらず、真の黒人への差別撤廃(少なくとも法的な)までにはさらに100年もの時間が必要だったのか…?という、アメリカ史の表面を学ぶと生じる問いや、トランプ支持者はなぜ南軍旗を掲げていたのか…?等々、まさに本書の著者が「おわりに」で書かれているように、「アメリカは建国以来、南北戦争に向けて流れ、南北戦争から(現在まで)すべてが流れ出している」というのは言い得て妙と感じた次第。
Posted by ブクログ
学生時代、アメリカの歴史はほとんど習った記憶がないので勉強になった。
国の成り立ちが日本と全然違う。だから理解しにくいのかもしれない。
奴隷、黒人のことや州の独立運動や国の買収などなど。
Posted by ブクログ
アメリカを形作ったのは19世紀であること。そして現在抱えるあらゆる問題は南北戦争から派生していることが説明される。
理想国家となるべく誕生したアメリカが、南北戦争を特異点として変質していくことになるのだけど、多数の人間は多数であるが故に、勝手というか横暴な存在になるんだなぁ。聖書で語られるレギオンってわけだ。
Posted by ブクログ
アメリカって19世紀の頃から実力行使で勢力を拡大していくオラついている国家(普通に言えば帝国主義か)だったのだなと再認識。米墨戦争、先住民との戦争、米西戦争。そのオラつきが奴隷制の是非を火種として内に向かってしまったのが南北戦争とも言える。
奴隷制廃止を唱えた急進派は、現代で動物の権利を主張している人たちとかぶって見える。ラディカルな主張に見えてもそのうち力を持っていくものとして。
Posted by ブクログ
南北戦争は合衆国史における最も大きな分水嶺として位置づけられ、建国来、その歴史は南北戦争に向けて流れ、南北戦争からすべてが流れ出したとも言われてきた。本書は、未曾有の内戦がもたらしたアメリカ社会の統合と分断、奴隷国家から移民国家への大転換を描く。
南北戦争勃発まで、親奴隷制の連邦政治が南部奴隷主の政治家たちによって担われた。大統領職を例にしても、初期は"ヴァージニア王朝"であるし、第二代と第六代のアダムズ親子を除き、みな奴隷所有者であった。
南北戦争に至るまでには、自由州と奴隷州との微妙な政治バランスが、版図拡大に伴う西部領土の連邦組入れを巡って揺さぶられ、対立が深刻化した経緯があった。当初は、南部奴隷制への不干渉で南部連合の連邦離脱を防ごうとしていたのが、戦況の推移で奴隷解放のための戦争に変質した、というのは、これまで知らなかった。
北軍勝利で戦争は終結し、奴隷制度を廃止する憲法修正13 条も成立したが、黒人は経済的に自立することはできず、選挙権の制限により政治進出もままならず、差別はほとんどなくならなかった。そして時代は移民の急増期を迎える。
南北戦争による奴隷解放から公民権運動までの100年に及び黒人差別が解消されなかったのは何故なのか、これまで良く分からなかったが、理由の一端がある程度理解できた。