【感想・ネタバレ】点子ちゃんとアントンのレビュー

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Posted by ブクログ 2023年07月27日

物語は、大金持ちの娘「点子ちゃん」と、病気の母を支えながら学校に通う、今で言うヤングケアラーの「アントン」の素敵な友情に加えて、点子ちゃんの家族のあり方を、ユーモラスながら、とても真摯に描いているのが印象的で、これだけでも充分楽しめるところに、本書では、作者「エーリヒ・ケストナー」自身が、各章毎に書...続きを読むいた『立ち止まって考えたこと』が合わさることで、実はフィクションとして存在していた物語が、現実の世界を救うノンフィクションのような存在へと立ち替わる、この作り方には、最初、作者が物語に介入してくるような面白さを演出しているのかと思っていた自分が、思わず恥ずかしくなるくらい、直向きで切実な思いが宿っていたのだった。

池田香代子さんの訳者あとがきによると、この作品が書かれた、1931年、ドイツは大恐慌に見舞われ、物価は上がり、貧しい人々は追い詰められる一方で、革命騒ぎや暴動があり、更には、ナチスが不気味に勢いをのばしていた、そんな時代において、実に多くの人が、こんな社会はなんとかしなければ、公正さを実現しなければと考えていたそうです。

そして、ケストナーはどう考えたのかというと、公正さを実現する為には、まず、

『子どもたちを説得すること』

がいちばんだということで、本書は、その為に書かれたのだということを知ったとき、私の中では、時に厳しく説教臭い雰囲気があった、『立ち止まって考えたこと』は、彼の未来へと向けた、公正な世界を実現するための真剣さの表れだったのではないかと思った。

例えば、点子ちゃんの空想好きに対しては、ときに命に関わるから、素晴らしい性質ではあるけれど、しっかりコントロールしないといけないと述べていたり、点子ちゃんを脅迫していた男に対して、アントンが毅然とした態度で注意を促し、殴りつけた勇気に対しては、それは勇気ではなく蛮勇だと、すっぱり切り捨て、勇気はげんこつだけでは証明されない、頭がなくてはいけないと諭し、それに対して、気球で未到達の成層圏を目指した、スイスの教授の例を出したのは、天候不良で中止にしただけで、彼を嘲笑するネタになったとばかりに新聞は嘲笑ったけれど、教授は、たとえ嘲笑われてもバカなことをするよりはマシだと考えるほどの思慮深さがあり、それは、無鉄砲でも、頭に血が上っていたわけでもなく、ただあったのは、何かを研究したいという気持ちだけで、別に有名になりたいわけでもなかった、そんな点に、ケストナーは勇気を見出していたのである。

また、特に私には身につまされた思いだったのが、「友情について」、私だったら、おそらく、私があなたの為にやったんだよと言いたくなるところを、
『自分がそうしたことが、そのまま自分へのごほうびであり、ひとを幸せにすることが、どんなに幸せかを知る人になってほしい』ことと、
「尊敬について」、子どもは何が正しいか、学ばなければいけなくて、その為には物差しが必要であるはずなのに、その物差しを、友情や好意をよせるあまりに、誤った『ばかやさしい』判定をしてしまうと(叱るべき所を、何故か許してしまう)、子どもは、叱られると思ったのに叱られない、そんなことが何度も続くと、子どもたちはだんだんと、その人への尊敬を失っていくといった言葉に、何でもかんでも優しくしたって、その子の為にはならないんだなということを思い知り、それは私が、その子のことを真剣に考えていないということにもなる。

そして、その中には、「誇りについて」のような、『男の子が料理をすることを、みんなは当たり前と思うだろうか』といった、今で言う、価値観の多様性を問い掛ける内容にも、当時、それが著しく欠けていたというより、そうした見方がまだ少なかった時代では、逆に奇特な存在に思われていたであろう、ケストナーの、ものの見方に対して、彼の、「まえがきは、なるべく手短かに」で書かれた、

『じっさいに起こったかどうかなんて、どうでもいいんです。たいせつなのは、そのお話がほんとうだ、ということです』

に、一瞬「えっ?」と思われた方もいるかもしれませんが、これにはまだ続きがあります。

『じっさいに、お話のとおりのことが起こるかもしれないなら、そのお話はほんとうなのです』

これにどれだけの気持ちや願いが込められているか、分かりますか?

おそらく、ケストナーが『立ち止まって考えたこと』で書いてきたことは、時には、当時の価値観とは異なる、時代を先駆けたものも含まれていたのかもしれないし、いちいち、そんな堅苦しいこと書くなよと思われる内容もあったのかもしれませんが、それは、『生きていくのは、きびしく、むつかしい』という本書の言葉のように、ここでケストナーがいくら書いたところで、本当にその通りの未来が待っていたり、世界になるとは限らない、単なる可能性の話なのかしれない。

しかし、それでも彼は、最後の『立ち止まって考えたこと』でお詫びしているんですよ。

『ぼくたちは、充分にはうまいこといかなかった』って。

それでも、その後に、

『みんなは、ぼくたちおとなのほとんどよりも、きちんとした人になってほしい。正直な人になってほしい。わけへだてのない人になってほしい。かしこい人になってほしい』

と、書いてある、そのケストナーの本気の思いに、私はとても心を打たれて、世の中には平気で、子どものことを軽く見た大人が多いのに、彼は、子どもたちに自分達の至らなさをお詫びした上で、正々堂々と等身大の目線で、子どもたちにお願いしていて、正直な気持ち、こんな人、世の中にいるんだって思った。詩人であり作家である以前に、世界を変えたいと思う、その気持ちの本気さの度合いが、あまりに他者の比では無いことに、目頭には思わず熱いものを感じ、これは、児童書という名を借りた、老若男女が読むべきである、世界に再び天国を取り戻す為の学びの書であることを、ケストナーのその後の文章からも感じさせられた、永遠の名作だと思う。

『この地上は、かつては天国だったこともあるそうだ。なんでも、できないことはないんだ』

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Posted by ブクログ 2022年08月10日

点子ちゃんとアントン 
エーリヒケストナー 岩波少年文庫

この童話は少し古い倫理観の時代に
描かれたモノなので
違和感があるかもしれない

思いっきり頭の良い子達は
俯瞰した視野を持ち
心も澄んでいるらしい
ところで
本名をルイーゼというのに
点子って名前はどこから来たのだろうか?

作者が各章毎...続きを読む
「立ち止まって考えたこと」
と言う項を設けて
「僕は〜」と文中に顔を出すのを良しとするか?
これが
この小説の評価を二分するかもしれない

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Posted by ブクログ 2019年11月28日

読後の爽快感
ハッピーエンドのお決まりの結末だったが 児童文学なら許せる
章の最後に、(立ち止まって考えたこと)その1から16まで 本文のストーリーとは別に哲学と言うか 人生訓 と言うか 子供のしつけ と言うか、 そんな風な文章がある
ここだけを抜き出してみても意味がある

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Posted by ブクログ 2016年04月03日

ユニークだけど、純粋で友達思いの点子ちゃんの行動に、とてもワクワクさせられた
そしてそんな点子ちゃんの友達アントンもとても行動力があり、誰かのためにと動ける人
各章の最後には作者のコメントがある。単純にお話を楽しむのではなく、点子ちゃんやその他の登場人物の行動を振り返り、考えさせられるのがより暖かい...続きを読む気持ちにさせられた

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Posted by ブクログ 2015年01月04日

児童向けだけれど、大人が読んでも十分楽しめる。
童心に戻れるって、なんて幸せなんだろう。
おちゃめな点子ちゃんと、心優しいアントンの友情物語。
点子ちゃんのお家にいるお手伝いさんたちが、とてもいい味出してます。
各章の終りに小さな字で書いてある「立ち止まって考えたこと」は、読んでみて身につまされる思...続きを読むいがします。
粋で機知に富んだケストナーの発想は素晴らしいです。
物語に登場する主役の男の子は、ケストナーの分身なのかもしれませんね。

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Posted by ブクログ 2014年04月06日

ハッピーエンドなのが良い。
これを読んだときの思い出です。

当時小学生6年生で、家庭が経済的な事情で困窮し、父が単身赴任することになって家からいなくなったことがありました。
(この本は父が学生時代に、ドイツ文学だかドイツ語の勉強の為に読んだとかで家にあり、勧められたのです。本には線がひいてある箇所...続きを読むも。)

学校でも、クラスの女の子内で仲間別れがあり、友達をかばったら次の日から突然1人になりました。3学期、卒業式まで1人でいました。

ショックなことが重なりましたが、この本のおかげで割と平気でした。

アントンに共感していました。どんなことがあっても境遇に文句を言わず、まっすぐでいることって大切だ、と思ったことが私の原点となった本です。

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Posted by ブクログ 2012年11月17日

お母さん思いのアントンに胸を打たれたり、点子ちゃんの天真爛漫さに微笑んだり。こんなに素敵な二人はいないと思う。

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Posted by ブクログ 2011年12月27日

これを洋書で読みたくてずっと探してるけどない。。。
アメリカではドイツ文学が人気ないのだろうか。
「二人のロッテ」もないしなーーー。

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Posted by ブクログ 2011年10月18日

ケストナーの作品は子どもの頃に是非読んでおきたいと思わされます。僕自身が子どもの頃に出逢えなかったから、より一層そう思いますね。
お金持ちだけど親に構ってもらえない点子ちゃんと、貧しくとも母親思いのアントンの物語。登場人物みんながいいところばかりではなく、それぞれがそれぞれの味を持ってます。その中で...続きを読むも空想好きでお茶目な点子ちゃんがいいですね。ただ単に天真爛漫という訳でなく、アントンのことを思って起こす行動に思慮深さも表れます。また各章の終わりに作者からの教訓じみた一言があるのですが、それがユーモアに富んでいて、ただ単なるお説教になっていないのも素敵です。人生の大切なことをしかつめらしく言うのでなく、楽しい物語に織り込んで伝えることこそ児童文学の妙ですね。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2011年08月07日

子供をほったらかしにする親。
子供の友達づきあいの中で、家族からは得られない情報と経験を積み重ねていく。
それでも、家族の絆の大切さもにじませている。

最初は、あまりよくわかりませんでしたが、
映画(DVD)を見て、筋が分かってから、文庫を読んだら、よく分かりました。

人によって、文庫...続きを読むが先の方がいい人と、
映画が先の方が良い人がいるかもしれません。

文庫をよんでピンと来ない人は、ぜひ、映画(DVD)をごらんください。

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Posted by ブクログ 2011年08月20日

子供の時に読んで以来の再読でしたが、いかにもお行儀のいい女の子というのでない、ユニークな点子ちゃんの発言や行動がとても魅力的!アントンも、かっこいいけど、失敗もするところが親しみを感じます。そして、大人も同じく失敗するけれど、子供に対して対等に正直に話す、点子ちゃんのお父さんが素敵でした。

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Posted by ブクログ 2011年06月28日

お気に入りの本。元気な点子ちゃんも、毎章末のやさしいコメントも大好き。点子ちゃんみたいな環境はさびしそうだけど、お嬢様はなんでもできて良いな~(笑)

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Posted by ブクログ 2023年08月04日

いつでも点子ちゃんの
あとをついてまわる、

ちよこまかとカワイイ
ダックス犬のピーフケ。

ぴょこぴょこ跳ね回る
姿が目に浮かびます。

さて、ナチス政権下の
ドイツに生きた作者の
ケストナーさん。

ケストナーさんは言い
ます。

いつでも公平に物事が
運ぶわけではないよと。

隣の人の答案を写...続きを読むした
生徒ではなく、

写させてあげた生徒が
罰せられるようなこと
があっても、

あまり意外に思っては
ならないよと。

でも、だからといって
それでよいというわけ
ではなく、

公平な世になるように
心がけてほしいと、

新しい世を築いていく
子どもたちにやさしく
呼びかけています。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年05月19日

2022/05/18
エーリヒケストナーいいなぁ、、、。個人的に飛ぶ教室がナンバーワンだけどこの話もアントンの健気で勇敢なところと点子ちゃんのお転婆なところが好き。ただラストが「え?」ってなった。別に二世帯が同棲する必要なかった感じがする。

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Posted by ブクログ 2021年02月03日

天真爛漫な点子ちゃんと、誠実で賢いアントンは魅力的なキャラだ。大人が読んでも楽しめる、解説のような“立ち止まって考えたこと”というコーナーがある。

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Posted by ブクログ 2020年05月25日

1931(昭和6)年に発表された児童文学。舞台はベルリン。
楽しいお話だった。
訳されたのもその頃(1936)のものを今回読んだので、なんせ言い回しが古くて読みにくかったけど、でも当時としては抜群におもしろい読み物だっただろうな。
点子ちゃんはハツラツとしててかわいいけど、両親に放っておかれて寂しい...続きを読むんだろうなと親の立場では考える。
また1931年の時代背景もとても気になって調べてしまった。
この4年後にオリンピックがベルリンで開かれ、さらに4年後に第二次世界大戦が始まったのだった。
点子ちゃんがかわいい、とか友だちっていいな、とかだけではない、余計なことまで考えてしまう。

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Posted by ブクログ 2019年03月06日

ケストナー独特のいいまわしがしんどいような、おもしろいような。
広すぎる心のこととか、尊敬についてとか、反省することしきり。

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Posted by ブクログ 2015年08月30日

むかし、むかし読んだんです
新鮮でわくわくしたことは覚えているのに内容はすっかり忘れていました
懐かしくて楽しくて、やはりワクワクして読みました
戦前のドイツ
この時代に生きて捜索したケスナー
他の作品も愉快です
子供たちも大きなものを背負わされて、でも明るく生きていく
また他の作品も読み返してみよ...続きを読むうかな
≪ まっすぐで 人を愛して 点子ちゃん ≫

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Posted by ブクログ 2015年03月23日

重松清の作品を読んだときも、「こんなに子どもの気持ちを覚えている大人がいるんだな」と心から思ったものだが、ケストナーもそうだった。
子どものころに読んだらもっと面白かったかもしれない。
面倒見のいいアントン。
子どもが生まれたら、ぜひ読ませたい本。
ずーっと読み継がれていってほしい作品。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2013年09月08日

母親想いの心優しいアントンと、おてんばで奇想天外な点子ちゃんが繰り広げるものがたり。
アントンみたいなやさしい男の子は素敵だなぁと思いました。

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Posted by ブクログ 2012年12月06日

やっぱり、ケストナーは好き。エーミールと飛ぶ教室が一番好きで、これはちょっと一章ごとについている説明がうっとうしい人もいるかもしれないが、これは、ケストナーが大人に言いたい事だと思って、とばしてもいいので、読むこと。

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Posted by ブクログ 2012年07月22日

私がケストナーを知ったのは、大学生になってからのことであった。読んで猛烈に後悔した。なんで、なんでもっと早く私はケストナーに出会わなかったんだろう! と(ちなみに、後藤竜二さんも似たようなことを思った作家だった)。

ケストナーは、決して、絶対に、子供をなめない。見くびらない。そして、甘やかさない。...続きを読む
一人の思考する人間として、子供に対等に接する。真摯である。それでいて、愛情に溢れている。
彼は彼の持てる全てのモラルと、誠実さと、愛情を持って、子供たちに語りかけてくれる。
しかしそれは、子供にとって、自分の話を聞いてくれることに等しいのだと思う。ケストナーは語りかける、けれどそれと同じくらい、真剣に私たちの話を聞いてくれるのだ。

何が正しいのか、ということの難しさと、何を大切にするのか、ということのありがたさ。
それはいつでも、私達の胸の中にある。けれど、それをきちんと教えてくれる人は、少ない。

自分が一人ぼっちだと感じたら。何かおかしいと思うことをあったら。
いつでも、ケストナーに相談してごらん。
きっと彼は、あなたの話に、真剣に耳を傾けてくれるよ。

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Posted by ブクログ 2011年11月15日

点子ちゃんはとってもお茶目で可愛い女の子。でもアントンのお母さんにちゃんと気配りができたり、すっごくいい子だと思いました。章の終わりに挿入される、ケストナーの人生訓みたいなものが、すっと頭の中に入ってきて、とても面白かった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年08月01日

点子ちゃんは、誰もが持っている子供心を集約したようなおもしろおかしい女の子。
アントンは、勇敢でかしこく、正しいことをできる男の子。
ふたりの友情がふたりを救いハッピーエンドへとむかう。
お父さんのポッゲ氏も素敵。

2020.7 再読。

ユーモアのある少女点子ちゃんと、正義感の強い少年アントンの...続きを読むお話。面白く読み進むのだけど、それぞれのキャラクター通じて筆者が読者に考えて欲しいこと(人生で何を大事にするか、とか)がたくさんあるんだろうなあ、と感じた。小4娘も一気に読んでました。

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Posted by ブクログ 2012年10月03日

エーリヒ・ケストナー
「飛ぶ教室」がすきだったくせになんで読んだことなかったのかなぁ

あんまり覚えてないけど「エーミール」は1冊くらい読んだことあるような

点子ちゃんの名前の由来が、
点みたいにちっちゃかったからってのが(笑)
点みたいって!あはは

アントンがかっこよくてよい子でかわいい
点子...続きを読むちゃんもかわいくて楽しい

しあわせなハッピーエンドだし
作者の「立ち止まって考えたこと」も、すごく正論で含蓄がある

面白かったな〜
ケストナーいいなぁ

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Posted by ブクログ 2023年10月29日

子どもの頃読んで、点子ちゃんの名前の由来が印象に残っただけで内容は覚えていなかった。恐慌が起き、ナチスが台頭しつつあったベルリンが背景になっていたことを知って再読。

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Posted by ブクログ 2021年09月22日

うーむ。
人物の造形はおもしろく、点子ちゃんなんかとてつもなく可愛いんやけど、、、ちょっと好かんかな。なんか説教くさいっつうか。
勧善懲悪とまで言うとおおげさやけど、でも、そう。ひねりがないって感じ?
ほかのレビューを少し見ると、説教くさくない、と書いておられる方も多いけど。私には、しっかりと説教く...続きを読むさかったです‼️汗

正しい人、、、アントンや点子ちゃんやお父さんによき結末があり、自分勝手な母親、ナニーを騙していた婚約者の泥棒は憂き目にあう。
まあ、そうして終わってくれた方が、安心できるけどね。こどもにとって、ワクワク面白く読める教育的なストーリーかな。そこがきにくわない笑

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Posted by ブクログ 2020年04月24日

岩波少年文庫版ケストナーの最後は『点子ちゃんとアントン』。点子ちゃんという魅力的なキャラクターでソフィスティケートされてるけど、これはけっこう問題作なのでは。

お金持ちのお嬢さんである点子ちゃんと、貧乏で病気のお母さんを支えるアントン少年。ふたりの格差を考えるとラストはハッピーエンドなのだろう...続きを読むか。
点子ちゃんのお母さんの育児放棄ぶりとか、アンダハトさんが点子ちゃんにさせていたことだってよく考えるとけっこうひどい。

説教くさいケストナー節が今回は炸裂してるのもこの物語自体が問題提起だからなのかと思ったり。1931年という出版年を考えると「かしこい大人になってほしい」というケストナーの願いは切実なものな気がしますね。

点子ちゃん(本名ルイーゼ)が「双子だったら」と夢見る場面がありますが、これがのちに『ふたりのロッテ』(ふたごの名前はロッテとルイーゼ。ケストナーのパートナー、ルイーゼロッテから命名)になるわけですね。

黒柳徹子がこの話を朗読してるそうですが、点子ちゃんの不思議ちゃんぶりはたしかにトットちゃん。点子ちゃんと比べるとアントンはちょっといい子すぎるよな。

以下、引用。

「じっさいに起こったかどうかなんて、どうでもいいんです。たいせつなのは、そのお話がほんとうだ、ということです! じっさいに、お話のとおりのことが起こるかもしれないなら、そのお話はほんとうなのです。おわかりですか? これがわかれば、みなさんは、芸術の重要な法則を理解したことになります。わからなくても、まあ、べつにどうってことはありません」

点子ちゃんは、もしふたごだったら、と想像して、満足そうに、ふうとため息をついた。
「あたしなのか、もうひとりなのか、だあれもわからない。あたしかと思ったら、もうひとりのほうで、もうひとりのほうかと思ったら、あたしなの。あーあ、そうだったらよかったのになあ」

アントンは、勇気のあるところを見せた、と考える人がいるかもしれない。でも、これは勇気ではない。蛮勇だ。このふたつは、ひと文字ちがうだけでなく、ちょっと別の物だ。
勇気は、冷静であってこそ、持てる。
教授は、あざ笑われたって、ばかなことをするよりましだ、と考えるほど、勇気があったのだ。
勇気は、げんこつだけでは証明されない。頭がなくてはいけない。

ベルリンはすばらしい。とりわけ、この橋の上はすばらしい。それも、夜がいちばんすばらしい!車は、フリードリヒ通りを、押しあいへしあいしながら走っていく。ヘッドライトがまぶしい中、舗道には人があふれて、どんどん流れていく。汽車は汽笛をひびかせ、バスはけたたましく走り去り、車はクラクションを鳴らし、人びとはおしゃべりをし、笑いさんざめく。ねえみんな、これこそ、生きてるってことなんだよ!

生きていくのは、きびしく、むつかしい。もしも、うまくいっている人がうまくいっていない人に進んで手をさしのべなかったら、未来は暗いものになる。

ぼくは、みんなひとりひとりが、いい友だちにめぐまれるよう、願っている。そして、みんなひとりひとりが、友だちの知らないところで、その友だちのためにひと肌脱ぐめぐりあわせにめぐまれるよう、願っている。みんなには、ひとをしあわせにすることが、どんなにしあわせかを、知る人になってほしいのだ。

ちがうんだよ、みんな、そんなことをしてはいけないんだ! なにかしてしまったら、おちついて考えて、申し開きをしなければならないのだ。罰がこわいなら、なにかするまえに、よく考えるべきだ。
自制する心は大切だ。注目すべきことに、自制する心は、学んで身につけることができる。アレクサンドロス大王は、われを忘れて軽はずみなことをしないように、いつもまずは三十まで数えることにしていた。ね、これはいいやり方だろう? 必要なときには、やってごらん。
もっといいやり方もある。それは、六十まで数えること。

それよりも、みんなが大きくなったとき、世界がましになっているように、がんばってほしい。ぼくたちは、充分にはうまいこといかなかった。みんなは、ぼくたちおとなのほとんどよりも、きちんとした人になってほしい。正直な人になってほしい。わけへだてのない人になってほしい。かしこい人になってほしい。
この地上は、かつては天国だったこともあるそうだ。なんでも、できないことはないんだ。
この地上は、もう一度、天国になれるはずだ。できないことなんて、ないんだ。


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Posted by ブクログ 2015年09月22日

アンダハトさんを救ってあげられる人がいたらよかったのに。


ケストナーさんの教訓部分をどう見るか、ですね。
子供たちにとってはむしろ蛇足なのかもしれない。
まあでも、そう感じたら読み飛ばしちゃったらいいだけなのかも。

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Posted by ブクログ 2012年07月06日

ケストナーの作品は本当に好き。
「点子ちゃんとアントン」は物語の合間に覚え書き風に大切な事が書かれている。お金持ちであることと貧乏であること。世の中の不公平さにまっすぐ目を向けて、でもその不公平さを諦めずに良い方向に持って行っている。点子ちゃんとアントンの友情が一生続きますように。

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