【感想・ネタバレ】レイシズムとは何かのレビュー

あらすじ

「日本に人種差別は本当にあるのか」。そのように疑問に思う人も多くいるだろう。だが日本にも人種差別撤廃条約で禁止されている差別が現実に起きている。間違えていけないのだが、現在の人種差別は人種を表に出せないかわり、文化の差異などを理由に差別を扇動しているのだ。なぜそのような差別は起きるのか? 日本ではそれが見えにくい理由は? レイシズムの力学を解き明かす。

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Posted by ブクログ

評価をできる身ではないので評価は星5。とてもわかりやすくて、今の日本に起きていることがどうして起こってしまっているのかがものすごく腑に落ちで、読んでよかったと思ったし、自分が何ができるのかをよく考えることができた。
読んでいてハッとして、恥ずかしくなったのは、ナショナリズムとレイシズムが日本では節合しているのだということ、日本には反差別の法的な規制がなく、反差別は加害者の差別を止めることだという当たり前のことが自分の中にきちんと存在していなかったこと。今の日本でヘイトスピーチが横行して極右が政党として台頭していることに憤っているのに、その根本的な原因がどういうところにあって、歴史で何が起こっていたのか、理解できてよかった。知らなかったことがはずかしい。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

後半に入るに従って、現代が抱える問題に唸らされながら読むこととなった。本書は、レイシズム(とりわけ日本の抱える危うさ)およびそれと闘う手段について私たちが主体となって考える、いわば入口の役割を果たしてくれているのではと感じる。前半はその発生過程(西欧含む起源)、後半は問題の実例を洗い出していると思う
どうせ変わらないという無気力なニヒリズムに陥らないためには知識と根気が必要だし、傍観者にならないためには勇気が要る。
それでも、差別を受けたまま消費されるマイノリティとしての「被害者」に閉じこもらないためには、発信を続けていくことが肝要だろう。
知識を根底の武器においてさえ相当の勇気と根気が必要で、変わらない世に絶望することも多い、だろうが。
私は本書を何度も何度も読み返して私なりに飲み込みつつ、私の物語に投影していきたい。

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2021年06月13日

Posted by ブクログ

認識(実践)には「本質把握」と「概念的把握」というレベルがある。
「帝国主義は侵略性という本質をもち、我国のこれこれの振舞いはその本質に合致している」ということが「分かった」からといってそこから一歩先に進めるものでもない。しかし「帝国主義は資本主義のどん詰まりの姿であり被抑圧人民の国際連帯によって打倒されることがその真理である」というように、対象を全体性と発展性(歴史性と云っても良い)において捉えるなら、そこに主体の立ち位置はどうなんだということも含まれてくる。このレベルでのモノゴトの把握の仕方を〈知識〉とか〈理解〉よりも高次の〈概念〉と呼ぼう、というのがヘーゲルの言葉遣いだ。この〈概念〉を基点に判断と推理を重ね仲間とディスカッションを重ねることで世界を作り変える道筋も見えてくるというものだろう。
ヘーゲルの『論理の科学』は、〈概念〉〈判断〉〈推理〉を扱った「主観性」という章に続いて「客観性」という章を立てている。
これが何なのかということが分かりにくかったのだが、「実装」ということなのでは? という着想を得た。
辞書的には、「実装」は工学の言葉で「何らかの機能(仕様)を実現するための具体的な装備や方法のこと」である。必要とされる機能が明らかになったとしても、それは理念上の存在でしかない。その段階にとどまる何らかの機能を、実際に動く具体的なものとして現実世界に出現させる=具現化することが「実装」と呼ばれる。

梁英聖『レイシズムとは何か』(ちくま新書)を読んで、ガツンと頭を打たれた。
著者は、レイシズム(人種差別)の本質論を語ることにはワナがある、と喝破する。なぜなら〈人種〉は生物学的にも社会的にも実体のない疑似概念にすぎず、「ありもしない〈人種〉をつくりあげ人間を分断する」作用としての〈人種化〉があるのみというのが真相だから。しかしこの疑似概念は人種差別を引き起こすチカラ(人種差別という行為を可能にする権力関係がその実体だろう)として作用することで、我々の前に実在性をもって現れてくる。これはちょうど〈神〉がそれを崇める人々の行動を通じて確かに威力を振るい実在性を帯びるのと同様だろう。
このレイシズムに対しては、戦後国際社会はファシズムと戦争の防止のために克服すべきものという規定(「概念的把握」に該当するだろう)をし、世界人権宣言や人種差別撤廃条約にて、各国の市民社会がそれと闘うことを義務としている。
ここからもう一歩、梁英聖は探求を進めた。
レイシズムの存在が都合の良い勢力による「差別アクセル」と、人間のあるべき姿を目指す「反差別ブレーキ」の対抗関係を掴み取ったことは大きな前進だ。
本来人間の頭の中にしかなかったものが、実際に世界の中で威力を振るい、人間を貶しこめ社会を壊していく実体的関係を作っていってしまう、そのへんのメカニズムは、ある勢力によって意図的に仕掛けられた「実装」として掴むべきだ。(梁英聖は「実装」という用語は用いておらずこれは僕の解釈だけど) 従って、そこから人間の尊厳を守っていこうというカウンターもまた「実装」のレベルで組み立てられていかねばならない。
この梁英聖の投げかけは極めて具体的で、そして我々をエンパワーしてくれると思った次第である。

レイシズムの存在が都合の良い勢力とは、言うまでもなく、摂理を踏みにじった利潤追求をし際限なく格差を拡げていく資本主義(新自由主義)である。
梁英聖の分析に学び理論武装した上で、武建一『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』を読むと我々の敵の姿がいっそうくっきりと見えてくる。

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2022年01月17日

Posted by ブクログ

レイシズムとは何か、というタイトル通りのことがしっかり書かれている。「人種は存在しないが、人種差別は存在する」「レイシズムとは、人種化して、殺す(死なせる)、権力である」など重要な指摘多数。差別をなくしていくためには、「差別アクセル」(差別する自由を作り出す)を公の場からはっきりと除いていかなければならない。日本型反差別は、加害者の差別する自由に手を付けず被害者を尊重しようとする点で問題があるという指摘も、もっともだと感じる。日本は人種差別撤廃条約に1995年に批准(世界で146番目)したが、条約が義務づける包括的差別禁止法もつくらず、差別統計もとらないまま条約違反を続けており、このことが日本におけるレイシズムを見えなくしているという指摘は重要。

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2021年04月10日

Posted by ブクログ

この間BLMから端を発していくつか人種差別についての書籍を読んだが、その中でもまさに「レイシズムとは何か」について正面切って答えている、タイトルにふさわしい良書。

私自身はこの本に出会うまで、この間BLMから端を発していくつか人種差別に関する書籍を読んできた。(アメリカへの入植から始まり黒人の辿った歴史や国としての成り立ち、その中で生まれた監獄ビジネス、啓蒙思想がもたらしたもの、公民権運動、白人ナショナリズム、優生思想、科学と人種・・・)

これまでたくさんの良書に恵まれたが、個別には「人種差別とは何か」を考える上での1つの側面を切り取ったもので、自身の中では、アメリカの人種差別を中心に見てきたけど、「自分の生まれて今住んでるここ(日本)ではどうなの?」
という思いがどんどん膨らんできた。

日本における人種差別に対する反対運動が何故これほどまでに起きていないのか?
そもそも差別すらないことになっているのか(ここが重要)?
「私」と「人種差別」を結びつけた観点で考えてみたい、と思ってたころにこの本に出会った。

この本が取り扱うテーマはタイトルが表す通り、「レイシズムとは何か」について正面切って答えている(2回目)。しかも新書サイズで。
それはつまり少なくとも上記のような非常に多岐に渡る事例、研究分野を横断しながら、エッセンスを摘み取り、更にそれらを用いた上で自己の主張を乗せて、首尾一貫した流れを成立させなければならないことを意味している。
半年間ほどしか学んでいない初学者の自分でも、そんなのできるの?と思ってしまうが、それが出来ているのが本書であり、著者の各方面への造詣の深さには頭が下がる。

特に第二章ではこの間の人種関連読本でモヤモヤとしていた抽象的な情報を、極めて論理的に整理してくれて、大きな気づきを得る事ができた(レイシズムのインフレ・デフレ、高等戦術化、権力とレイシズム)。

そして何より本書の後半で日本における人種差別・反差別不在の歴史について学べたことは自身にとって大きなターニングポイントとなった。
差別の是非や歴史認識についての議論は絶えないが、差別アクセル・反差別ブレーキ、見えない「日本人」など、多くの人にとって根本的な理解を促す内容が効果的な図によって非常にわかりやすいのも、本書の特徴。
あと巻末の参考文献は大変にありがたい。

その他にも、

・生物学的に「人種」は存在しておらず、用いることで分断を生む要因になるのであれば、その指標(人種という言葉そのもの)を現在も使うことは正しいのか?
・アファーマティブアクションに対する逆差別という非難をどのように考えるべきか?

といったこれまで抱えてた疑問にも見事に答えてくれてて、思わず膝を打ってしまった。
本書はどうやっても新聞やWebなど他メディアで、まして無料で得られるような情報ではないので、ちゃんと買ってじっくりと読むことをお勧めします。

最後に、著者あとがきにおいて、下記の文章が心に刺さった。
「社会正義としての反差別規範なしにマイノリティを承認しようとする多文化共生や、差別する自由を守りつつ被害者に寄り添おうとする日本型反差別こそ、私たちの絶対的沈黙状況を背後から支える権力関係なのである。」

なるだけたくさんの人にこの本を読んでもらいたいし、自身も差別を止めるために3つのDの実践と、学ぶことは続けていきたい。

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2020年12月02日

Posted by ブクログ

目的:
差別が暴力に結びつくメカニズムを知るため。
資本主義が差別と密接な関係であることを理解するため。

要旨:
差別と言っても、本書が取り上げるのはレイシズムである。極端な例としてはナチズムによるユダヤ人虐殺が挙げられるが、日本で言えば在日コリアンへの差別がある。本書では、これらの事例を検討し、差別が暴力へと昇華されるメカニズムを明らかにしている。

感想:
日本でもレイシズムが存在すると喝破する筆者の意見に驚いた。
反レイシズム規範が存在する欧米諸国と比較すると、反差別規範の存在しない日本では差別を禁止することができない。そのため、「表現の自由」だと言い逃れすることができる。そんな世の中は果たして自由なのだろうか?

メモ:
ナショナリズム(国民を分ける線)とレイシズム(人種を分ける線)の癒着
(本来別個のもの)
→国籍の有無、人種的差異によって差別が生まれる

資本主義が差別を強化し、反差別を平等の定義を資本主義的なものに改変することで骨抜きにするなどする。

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2021年04月04日

Posted by ブクログ

日本における差別について考察した新書。日本では反レイシズムのブレーキがないという特徴があり、ここが欧米と構造的に大きく異なる。主要極右が生まれにくいのもこのため。これらは反差別のカルチャーが浸透していないことでもあるので、政府やメディアによる積極的な介入が求められるところ。

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2021年09月19日

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