【感想・ネタバレ】ヒトの社会の起源は動物たちが知っている 「利他心」の進化論のレビュー

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Posted by ブクログ 2020年08月07日

エドワード・O・ウィルソン(1929年~)は、20世紀を代表する、米国の昆虫学者、生態学者、進化生物学者のひとり。特に、アリ研究においては世界的な権威である。
1975年に発表した『社会生物学』では、アリから人間に至る全ての動物の社会行動を進化理論で説明すること提唱して物議を醸したが、その後「社会生...続きを読む物学」は、生物の社会行動が自然選択の元でどのように進化してきたかという、行動の進化的機能を扱う生物学の一分野となっている。(ウィルソンとの見解の相違から「行動生物学」と呼ぶ研究者も多い)
ウィルソンはプロローグで、「人間のありようについての問いはすべて、結局は次の三つに行き着く。私たちは何者なのか、何が私たちを創り出したのか、そして私たちは最終的に何になりたいのか。三つ目の問い・・・その答えを知るには最初の二つの問いに正確に答えなければならない。・・・哲学者は概して確固たる答えを出せておらず、その結果、三つ目の、人類の将来に関する問いにも答えられずにいる。」と記し、その答えを示すことが本書のテーマだと述べている。
そして、本章で、地球上に生命が誕生し、長い歳月をかけてより複雑な生物へと進化し、やがて社会が、そして言語が発生するまで、進化の歩みを大きく6段階に分けて、それぞれのプロセスに遺伝学的・生物学的視点から迫り、生物多様性、利他主義、真社会性(社会性が高度に分化し、集団内の分業化によってメンバーが利他的行動に及ぶような状態)など、ウィルソンの科学的知見と生涯にわたる研究成果を凝縮させて、そのテーマに挑んでいる。
本書の原題『Genesis』は、聖書の最初の書『創世記』と同名のタイトルであり、副題『The Deep Origin of Societies』は、ダーウィンの『On the Origin of Species(種の起源)』を意識したものと思われるが、ウィルソンにとって本書は、まさに進化生物学に基づく新たな「創世記」なのであり、それによれば、ヒトをつくったのは神ではなく自然選択、なかんずく集団選択による利他主義であり、ヒトは度重なる集団間闘争を通じてアリのような真社会性を獲得しただけでなく、遺伝子と文化の共通化によってその力を拡大したということになるのだ。
ウィルソンは、マルチレベル選択において、現在の主流である血縁選択・包括適用度理論ではなく、集団選択を重視していること、また、ヒトを真社会性の動物と位置付けていること(これにも賛成する学者は少ない)において、主流の見解とは言い難いが、人間の社会性を進化の観点から分析するアプローチの重要性は疑われることはないだろう。
人間社会の分断が顕著な今、稀代の進化生物学者の集大成として手に取る意味はある。
(2020年8月了)

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Posted by ブクログ 2022年04月02日

<目次>
プロローグ
第1章   人類のルーツを探る
第2章   六段階の進化
第3章   進化をめぐるジレンマと謎
第4章   「社会」はいかに進化するのか
第5章   真社会性へと至る最終段階
第6章   利他主義と分業を生み出すもの
第7章   ヒトの社会性の起源

<内容>
進化生物学者の重...続きを読む鎮。小冊子ながら(150㌻ほど)、ヒトの社会が出来上がる過程を、進化から説いている。アリやハチなどの真社会性を基に、「利他心」=自分のためでないのに、その社会のために働く心、がなぜできるのか、科学的に説明している。そのから人間の社会までについては、二足歩行と火の使用、それに伴う肉食(つまり栄養が高まる)が大事だと説明している。解説の吉川浩満氏によれば、一部現在の学会の主流の学説ではないそうだが(著者は、生物進化における集団選択を重視するが、学界では血縁選択・包括的適応度理論が主流)、論理的に破綻がなく、抑制のきいた文が説得力を与えている。

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Posted by ブクログ 2020年10月18日

行動生物学、社会生物学をテーマにしたエッセイ的な読み物。客観的な事実だけではなくエドワード・O・ウィルソンの思想や主張が多いので楽しく読める。しかし、エッセイと言う割には内容は濃い。

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