あらすじ
『こち亀』は現代の「浮世絵」だ!
庶民の金回り、地価変動と田舎ディス、テクノロジー信奉とガジェットの変遷、サブカルチャーの地位と文化系ヒエラルキー、ビジネス・アイデアとハック思考、漫画的表現とポリティカル・コレクトネス
……大衆社会を定点観測し続けた連載40年、全200巻の偉業から昭和~平成日本の歩みを追う。
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『こちら葛飾区亀有公園前派出所』とは?
◎秋本治による国民的漫画
◎「週刊少年ジャンプ」1976年42号から2016年42号まで連載
◎コミックス全200巻はギネス世界記録
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浮世絵の特徴は大きく3つ。上から目線の芸術ではなく大衆・庶民のための娯楽であったこと、「時代の今」「大衆のニーズ」を素早く取り入れていたこと、精緻な描き込みによる史料的価値があること――だ。
『こち亀』は、この3点を完全に満たしている。世俗を非エスタブリッシュメント、すなわち生活者の目線で描き、社会や人々の生活・気分・好奇心を、濃厚なまま、希釈することなく、過剰な装飾で見栄え良く整えることなく、できるだけその時代の空気をとじこめる形で、そのまま史料保存した漫画作品。それが『こち亀』だ。
<略>
『こち亀』はバイオレンスポリスアクションであり、マニアックな男の子ホビーやサブカルの啓蒙書であり、ブームやトレンドや新製品をいち早く紹介する情報漫画であり、さまざまな職業を疑似体験させてくれる体験レポートであり、社会や経済やビジネスの仕組みを子供にもわかるよう噛み砕いて説明する解説本であり、あらゆる知識の教養書であり、雑学書であり、下町文化の広報メディアであり、下町人情物語であり、東京の都市論だ。そして、以上の要素のかなり多くが、その時代ごとの世相を完璧に──すべて大衆目線という完全定点観測という手法をもって──反映された形で作品に盛り込まれている。
<「第0章 「浮世絵」としての『こち亀』」より>
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『こち亀』が何より大事にしているのは、常に、「昔」より「今」だ。描かれた時点が、『こち亀』にとっては常に最高の今。時に昔を懐かしんだり、ノスタルジーに耽ったりしても、両津は「昔と違って今は苦痛」だとは言わない。今を憂えて鬱に沈んだりもしない。
もし、この時代に不満があるなら、両津は変えようとする。変えようとしてきた。世の中の仕組みを、古臭い慣習を。そのためにビジネスを興し、街ごと作り変え、国政に出ようとまでした。両津は時代を精いっぱい肯定する。否、肯定できる世の中に変える努力をしてきた。両津は世捨て人や孤高の隠居生活を善 しとしない。
時代にコミットすることに苦痛を感じるどころか大きな喜びを感じる両津は、最新のものに飛びつき(初物好きであり)、今を享楽的に生きる(宵越しの銭を持たない)。それは両津が生粋の江戸っ子であると同時に、圧倒的に現在を肯定している証左でもある。
<「第8章 『こち亀』とはなんだったのか」より>
【目次】
第0章 「浮世絵」としての『こち亀』
第1章 庶民目線の生活と経済
第2章 住宅と都市論からみる東京の昭和・平成史
第3章 『こち亀』が添い寝した技術立国ニッポン
第4章 逸脱者を嗤え
第5章 文化教養リテラシー植え付け装置
第6章 ビジネスの教科書
第7章 ポリティカル・コレクトネス考
第8章 『こち亀』とはなんだったのか
あとがき
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Posted by ブクログ
2022年の「映画を早送りで観る人たち」で衝撃の出会いをして2023年「ポテトチップスと日本人」でさらに驚かされた著者についてのさかのぼり読書です。今度は2020年の「『こち亀』社会論」。今度は両さんか!とその振り幅に戸惑いますが、ある特定のジャンルの歴史から社会の変化をつけ出す、という手法は一貫しています。まさに「社会論」。特に「ポテチ」と「こち亀」については自らの世代である「団塊JR」についての分析として素晴らしいものがあると思いました。学問の世界では、例えば考古学で南極の氷や太平洋の底の堆積物を深く深くボーリングしてその長いサンプルから地球の環境変化を発見する手法があります。それと同じことを1976年から2016年の間、一度も「少年ジャンプ」を休載されることなく続いた「こちら葛飾区亀有公園前派出所」に当てはめたアイディアに拍手!まさに1960話(スピンオフを数えずに…)の厚みは、まさに時代の地層。同一の主人公というマーカーの設定も社会変化を浮かび上がらせるのに最適でした。冒頭に提示される「大衆文化の定点観測」、これが一貫して成し遂げられています。しかも、これがアカデミズムの結果でなく読み物としての面白さを意識した著者のライター魂の発露を感じます。いやいや…両津勘吉の変化は、実に自分の変化でもあり、「不適切にもほどがある」時代のことを思い出し冷や汗が流れました。こういう長期連載コンテンツから炙り出す社会変化って、まだまだ出来そう。読んだことないけど「ガラスの仮面」とかでも出来るのかな?
Posted by ブクログ
1976年から2016年まで約40年間、少年
ジャンプで連載された「こち亀」。
ギャク漫画というジャンルでくくられてし
まいますが、内容はその時代時代の世相が
反映されていて、当時の流行や生活スタイ
ルを知ることができる一種の学術的な要素
も併せ持っています。
この本では、そんな要素を浮世絵と同格に
とらえています。
現代の日本は浮世絵を通して江戸時代の生
活用式を知ることができます。それと同じ
です。
今では「サブカルチャー」でとして地位が
確立されたアニメなどが、この40年間で
どのように扱われていったのか、スマホと
いう小型のコンピューターがどういう歴史
を経て我々の必需品となったのか、などが
「こち亀」で知ることができるのです。
昭和、平成の風俗史を振り返ることができ
る一冊です。