あらすじ
伝統芸能に生きる父娘の葛藤と和解を描き、著者の文壇登場作となった「地唄」、ある男の正妻・愛人・実妹の3人の女が繰り広げる壮絶な同居生活と、等しく忍び寄る老いを見据えた「三婆」、田舎の静かな尼寺に若い男女が滞在したことで起こる波風を温かい筆致で描く「美っつい庵主さん」など、5作品を収録。無類の劇的構成力を発揮する著者が、小説の面白さを余すところなく示す精選作品集。
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Posted by ブクログ
1950年代後半から1960年代に文芸誌に発表された短編の集成。当時としては超ベストセラー作家でありました。
小説って、これだよな。と、思うのです。収録の「孟養女考」にみえる(当時の)新しい中国の形、とか、「三婆」に見える封建的社会の終焉、だとか、「美っつい庵主さん」にみえる(当時の)新しい若い男女の関係、とか、そらぁ含まれるテーマ性というのは、ある。そういう社会情勢に即した作品読解、というのも必要な側面はあるでしょう。だが、そうではなくて。
「本妻と、妾と、実の妹が一人の男が急に亡くなった後どうやって生きていったか」(三婆)とか、「姪の子が尼寺に訪ねてくるんだけど、女友達かと思ったら男じゃないか―!」(美っつい庵主さん)などなど、そういう「読ませる」文藝として、今現在のシーンでもまったく引けを取るものではなかったのです。
妙なリアリズムにこだわるよりも、「これは小説なんだぜ!」と明確に打ち出しているところが、とても小説で、小説家としてのプロ意識だと思いました。
今読んでみて、ハッとするところがあると思います。
Posted by ブクログ
周囲と世の中が有吉ブームなので私も乗っかかった。
女二人、和宮様、閉店に続いて4作目の本書は短編集。
地唄
デビュー作。渋くて硬い。
(直前に私が読んでいた、中島梓の「絃の聖域」三味線の芸の一族の話とリンクしている。まあ余談ですが)
計算し尽くされた話。
有吉氏、25歳でこんな話が書けるもんなのか。
娘の調律に気づく父、無音で肚の探り合いだ。ドキドキ。
ラストで、父(盲目、三味線の名手)が、女弟子の新関を車内で隣の席を外させる、その行為の意味を考えるとけっこう残酷だ。
検校(けんぎょう)という地位を知り勉強になりました。
美っつい庵主さん
面白かったー。こういうの好きだ。
女たちの共同生活のけっこうな本音だらけの社会に、都会から来た女子大生、しかも男連れが来て、あれこれ見ていく話。
楽しい。みんな人間だ。
ラストのマカロニもいい。
江口の里
私にはピンと来にくい話。
教会内の人間関係、政治力学も大変そうですね。
有吉氏はクリスチャンだったらしいから、取材先はそのへんかな。
三婆(さんばあ、と読んでたけど、さんばば なのか?)
これも好き。設定から楽しすぎる。みんなで亡男とお互いの悪口で盛り上がっててほしい。
孟姜女考
硬いタイトルだなーちゃんと読めるかなーと不安だったが、あにはからんや、私には本書でこの短編が一番面白かったです。
一応フィクションぽくしてるけど、完全に有吉佐和子が中国に行って見聞きしたこと、感じたことだよね。
冒頭は、「台湾漫遊旅行のふたり」を思い出しましたが、趙女士は再登場しないのね。残念だ。
激しく揺れ動く、中国の、60年代当時をそのまま読み取り、まっすぐ向き合おうとする作者の様子がよくわかる。
(当時はまだ国交再開前で、普通の日本人は入れない中国。ウン千年にわたる憧れの国であり、しかしこの百年ほどは弱体化して西欧どころか明治日本の後塵を拝してきた国であり、戦争では激しく日本に蹂躙された国で、新たな革命と支配者と価値の逆転を浴びて、文革・社会主義の嵐の吹き荒れる、超大国である。)
一緒に行ったのは井上靖なんだー、これもすごい贅沢だな。
これが作中の、中国史の先生であるところの「I先生」だよね。
日本で生まれ育ったわけではない有吉氏にとって、まっさらな目で見る、この不思議の国の60年代の「今」が、私にもへえーと新鮮に目に映るし、有吉氏の興味の持ち方が面白いなとおもった。
ラストで、即物的な絵画を見て、ギョギョっとする有吉氏だが、中国の若者らが茶化すでもなく、ただ真剣にそれに向き合う様子に非常に驚いている。
そして、中国が観光地としてすぐ、稚拙なもの(巨大で幼稚な造作の人形とか、歴史上の人物の足跡だとか、あからさまな、新しい、不恰好な作り物)を置いてしまう、風情が台無しじゃん、と思う感覚が私もよくわかる。
(いまでも、赤壁の岩壁に、デカデカとペンキで赤壁って書くの、やめて〜泣、と思う。なんで変な手を加えるの。そのままでいいのにさあああ)
今の中国を見たら、有吉さんはどう思うかな。
つまらなくなっちゃったな、と思うか、それとも、好奇心旺盛の彼女だからあれこれ面白いポイント探せるのかもしれない。