あらすじ
技術者が陥りやすい「自分の技術は正しい」「正しいことを理解できない相手が悪い」という固定観念がコミュニケーションにどう悪影響を及ぼしているか、それがエンジニアの隘路になって問題解決をこじらせ、仕事の量を増やしていくという「働き方改革」まで言及し、その解決策を具体的に示した、エンジニア必読の書である。
技術的能力が高くても、その成果を関係者や世の中に伝えることができなければ存在していないのと同じである。多くのエンジニアは技術力ばかり向上させているが、仮に技術力が200%(2倍)になっても、「伝える力」がゼロなら、数式は次のようになる。
技術力(200%)×伝える力(0)=真のパフォーマンス(0)
「伝える力」を強化すれば、少ない努力でパフォーマンスが改善しやすい。
本書では、多くのエンジニアが陥りやすいコミュニケーション上の問題点を取り上げ、問題が起きる要因を明らかにするとともに、どう改善していけばよいかを著者自身の実例を上げて解説した。
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Posted by ブクログ
本書の概要
『最強のエンジニアになるための話し方の教科書』は、エンジニア特有のコミュニケーションの課題に着目し、話し方と傾聴、ラポール形成を通じて職場やチームでの信頼関係を築くための具体的な方法を示す実践的なガイドである。事実の共有、感情の言語化、意味の深堀り、そして在り方の確認というコミュニケーションの階層構造を意識しながら、いかに相手と心を通わせるかを体現的に解説している。
本書はエンジニアが陥りがちな「正しさ」や「専門用語重視」の話し方や、感情の軽視がもたらすズレを指摘し、傾聴を中心とした新しい対話スタイルを提唱している。
私の気づきと体験
私自身、無意識に本書で説く階層的コミュニケーション(事実→感情→意味→在り方)を実践し、ファシリテーションやコーチングで活用してきたことに気づいた。孤立しがちな技術者をつなぎ、複雑な利害や異なる視点を整理しつつ、インテンションを維持する能力は本書の知見を体現したものだと実感する。
一方で、実践の中で大量の懸念や感情を一度に吐露される状況に直面し、その整理や内面モデル化、視座を上げる問いかけに十分対応できなかった経験もある。これは本書の表面的な技術だけでは補いきれない、高度なコーチング的知見や心理的ラポール形成の重要性を痛感させるものだった。
本書の限界とエグゼクティブ・コーチングとの連携
本書は「事実確認」や「感情の言語化」といったコミュニケーションの基礎を丁寧に示すが、複雑な内面のモデル化や高機能クライアントの心理的抵抗への対応、腹落ち感を促す深層アプローチには踏み込んでいない。ここはエグゼクティブ・コーチングの理論や実践が補完すべき領域であり、両者の連携によってコミュニケーション力が質的に飛躍すると気づいた。
大量話への対応技術と階層的対話
大量の話を整理するには「即時要約」「焦点化の質問」「グルーピング」「沈黙の活用」「メタ言語的確認」などの技術が重要となる。これらは本書が説く「事実→感情→意味→在り方」の階層を意識し、柔軟に順序を変えながら使い分けることが望ましい。
特に「感情言語化が不足している場合は感情を優先的に確認」「意味や価値観の探求は事実・感情の共有後」が重要なポイントであり、視座を上げてほしいというクライアントの要望は「意味・在り方の深堀り」に該当することが理解できた。
今後への示唆
本書の具体的かつ即効的なコミュニケーション技術と、エグゼクティブ・コーチングの深層心理的アプローチは補完関係にあり、両者を統合的に学び実践することがより高度な信頼関係構築と問題解決につながる。
また、視座を上げる問いかけや内面モデル化のスキル向上、リレー形式のコーチングでの役割理解と協調なども今後の重要な課題である。
私自身のファシリテーションとコーチング力をさらに磨く過程で、本書の知見は良き土台となり、深層アプローチを補いながら相乗効果を生み出すだろう。
この読書と対話のプロセスを通じて、技術者や経営者が抱えるコミュニケーションの課題を乗り越え、真に理解し合える職場環境づくりの一助にできればと願っている。