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Posted by ブクログ
ソ連が1950年代に消滅されている歴史改変の世界でも、人種差別や女性差別は変わっていないという設定。米国主導の宇宙計画が継続して進んだ世界の1950~60年代の黎明期の物語。女性差別がひどい宇宙パイロットの門に切り込んでいく主人公始め女性たちの力強い物語だった。重要な計算業務に女性が果たした役割は変わらないし、そこからの成り上がり物語は楽しいし、科学知識も最低限に抑えられてるし、あっという間に読める。女性差別のひどさが語られるかというと意外にそうでもないから、嫌な思いになることも少ない。
主人公はパニック障害による投薬治療が続いており、その弱さは少し気になったけど、そのあたりは緩やかなゴールが設定されており、ある意味納得できた。発刊時と違い、今は3作とも出ているので次作を待たなくても済むのが今から読むのによいところ。次作の舞台は遂にタイトルどおり宇宙(火星)へ。
Posted by ブクログ
巨大隕石が落下したことによって温暖化が起こり、地球は人類が住めない星になる。
そうなる前に人類は宇宙に移住先を探し、コロニーの建設をしなければいけない。
という背景は、この下巻では随分薄まっていて、ひたすら主人公のエルマが宇宙飛行士を目指す話に終始してしまった。
それというのも、解説によればこれは、エルマを主人公にしたシリーズ物というか、年代記なのだ。
翻訳された作品が少ないのが難だけど、既にエルマが火星に行った作品もあるらしい。
その中でこの作品は、宇宙飛行士を目指す女性として、能力を訓練しつつ、世間の偏見と闘うところに特化したものとなっている。
まず、女性には閉じられていた宇宙飛行士という狭き門。
どんなに飛行機のパイロットとして経験を積んでいても、飛行機とロケットは別物としてその経験は考慮されない。(だとしたら逆に、男性宇宙飛行士は何を考慮されて選ばれたのだろう?Y染色体一択?)
宇宙飛行士の訓練生に選ばれたときも、ロケット開発の広告塔としての役割しか与えられず、訓練はおざなり、でもスタイリストは付く、という状況。
この段階で、黒人やアジア系の女性は軒並み落とされる。
その反面基準に満たなくてもコネがあれば合格できる。(ただし白人)
外的要因と闘うのは当たり前として、エルマには幼いころの経験により、人前に立つというような極度の緊張を強いられると、呼吸困難や嘔吐などの症状が出るという問題を抱えている。
「病気ではないので、病院にかかる必要はない」と頑なに本人が拒むので、とりあえず精神安定剤を服用しながら症状を抑えているが…。
1950年代という時代はそうだったのだろうとはわかるけど、そのような状態で宇宙飛行士を目指すのは余りに危険。
些細な違和が大きな事故を起こす可能性の大きな宇宙飛行で、いくら宇宙飛行士になりたいからって、ちょっと世間に対してフェアじゃないと思う。
エルマはユダヤ人で、その設定の意味が最後にわかる。
ユダヤ人蔑視の発言を受けるエルマ。
差別はここにもあったのだ。
エルマが亡き母に言われ続けた「他人にどう見えるかを考えて行動しなさい」という言葉も、もしかしたらユダヤ的なバックボーンがあるのかもしれない。日本人的でもあるけれど。
母親はもちろんエルマのためを思って言った言葉だけれど、呪いの言葉のようにエルマの言動を封じ込めているのが見ていて辛い。
才能ある女性なのに目立たないように息を殺して生きてきたエルマが、どうしても叶えたかった夢――宇宙飛行士になること。
1950年当時、電子計算機がまだデカいだけのポンコツだったころ、宇宙飛行に関する計算をやってのけたのは「計算機(コンピュータ」と呼ばれた女性たちだった。
この辺は映画『ドリーム』に詳しい。