【感想・ネタバレ】暗い絵・顔の中の赤い月のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「暗い絵」――
ブリューゲルの絵の描写が印象的だ。

草もなく木もなく実りもなく
吹きすさぶ雪嵐が荒涼として吹きすぎる。
はるか高い丘のあたりは雪にかくれた黒い日に焦げ、
暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに
黒い漏斗形の穴がぽつりぽつり開いている……。

野間宏の卓越した筆致力。

この描写は、
特高警察監視下における
京大左翼活動家たちの苦境を
見事に表現している。

主人公・深見進介もまた活動家の一員だが、
他の仲間との距離感は複雑である。

仲間の一人は自分たちの行動を「仕方のない正しさ」と述べ、
活動の結果獄死を遂げる。

しかし、深見進介は言う。

「やはり、仕方のない正しさではない。
仕方のない正しさをもう一度真直ぐに、
しやんと直さなければならない。
それが俺の役割だ。
そしてこれは誰かがやらなくてはならないのだ」。

これは仲間と道を別ったうえでの発言ではあるが、
決して否定ではない。
そこには尊敬と肯定の想いがある。

これは深見進介=野間宏による、
そこに生じた歪みを引き受ける
苦渋の決断といえよう。

それは身が引き裂かれるような思いであったはずだ。
この畢生の決断と勇気を尊重したい。

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2013年04月05日

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