あらすじ
白人至上主義と自国第一主義が結びついた「白人ナショナリズム」。トランプ政権の誕生以降、注目を集めるオルトライトをはじめ、さまざまな勢力が連なる反動思想だ。反共、反多文化主義、反ポリティカル・コレクトネスといった旧来の保守と共通する性格の一方、軍備拡張や対外関与、グローバル資本主義を否定する。社会の分断が深まるなか、自由主義の盟主アメリカはどこへ行くのか。草の根のリアルな動向を現地から報告。
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コロナ禍、トランプ政権、大統領選挙と今読むには打ってつけの内容。
排斥する側の歴史から見る思想だったり、今まで起きた事例をびっしり書かれていて読み応えがあった。
本書でも何回か書かれていたが、この事象(何百万単位の移民がくるようなこと)が日本でも起きた場合、リベラルな立ち位置を保持しできるか、甚だ疑問が残るという考えだ。
とりあえず、より、大統領選挙は注目したくなる本だった。
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また渡辺靖氏の現代アメリカ研究に耽溺した。
最後のコロナ影響への言及まで、止まることを知らないアメリカの変化と懸念が、白人ナショナリズムを通じて明確に浮かび上げていく。
そして日本への眼差しも忘れない視点が素晴らしいです、毎回。
自分達がこれまでグローバリズムの恩恵を受けてきた事とこれからのナショナリズム勃興への危惧を感じ、その前提でどのように行動すべきか問われていると自覚した。
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昨今の米国を覆う、従来の保守主義でもない、なにか。なにがトランプを生んだのか。なぜトランプは従来の常識ではありえない行動をとっても支持され続けるのか。本書が紹介する、米国における白人ナショナリズムは、日本にいる我々にとって不可解な現在の事象の背景を説明するものである。本書により、これまで異端に思えた思想が裾野を広げている現実や、突拍子もない陰謀論の発端となる思想への理解が深まる。
白人至上主義といえば、KKK に知られるように素頓狂な格好をする非常に尖った思想である、といったイメージはもはや古い。筆者が取材した会合では、ネクタイやジャケットの着用が義務で、参加者はみな社会的地位をもち不自由ない暮らしをしながら、白人を守るという思想に駆り立てられている。本書は白人至上主義者と呼ばれるのを嫌う彼ら (※ほとんどが男性) を「白人ナショナリスト」と呼ぶ。彼らは主張をソフト化し、またイデオロギを直接表面に出さず、インターネットやネットミームを駆使して、「オルトライト」と呼ばれる層を形成して裾野を広げる。
白人ナショナリストが理想とするのは、第二次世界大戦後が終わり公民権運動が始まる前の1950年代の、白人ミドルクラス中心の社会秩序である (Paleoconservative)。グローバリズムや「行き過ぎた多様性」により、本来の米国の魂を理解しない移民たちが白人たちの築いた社会を「侵略」し、白人たちの誇りを奪っているとして、“It's okay to be white.” をスローガンに活動する。日本社会のことを、移民・難民が少なく人種的均一性が高い社会として高く評価する。生理的な理由によって白人以外を差別しているわけではなく、知能指数や脳容量などの表層的なデータによって理由を作り白人の優秀さを誇る。強烈なユダヤ人差別感情を持ち、グローバリズムはユダヤ人の策謀であるという論を中心に、様々なユダヤ系陰謀論を唱え、ナチズムを支持する。
彼らは旧来は公民権運動、最近では Affirmative Action を契機に白人ナショナリズムに流れ、Political Correctness に反対し、連邦政府や二大政党制に不信感を抱いている (その点で Libertarian に誤解されることもある)。
本書で特に勉強になったのは、トランプの「米国第一主義」「メキシコ国境に壁を」といった主張はすべて、トランプによる唐突なアイデアではなく、それまでに白人ナショナリストが打ち出していた論であることである。彼らはトランプを支持しているわけではなく、信念のない政治屋だと考えているが、共和党を変えてくれるとして投票する。トランプは彼らの界隈のミームを投稿するなど迎合し、カジュアルなオルトライト層を取り込む。
これらの層は今や異端と軽視できない。世論調査によれば、ナチズムやオルトライトを明確に支持する者は米国人の1割に満たないが、それらを明確に否定しない者は米国人の3割近くに及ぶという。第二次トランプ政権の異常な DEI 排斥は、こうした現状を映し出しているものと考えられるだろう。
以上のような、日本で過ごしているだけではどうしても理解できない大衆的な変化を、筆者は取材も駆使して丁寧に説明していた。章分けが情報源ベースで話の行き戻りの多さが若干の読みにくさを生んではいるものの、その分重要な内容の繰り返しも多く、かつ平易な文章で読みやすい。日本における参政党の躍進の理解にも役立つかもしれない。読んでおいて損はない一冊。
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トランプが支持される理由がよく分かる本。単に白人ナショナリズムだけで支持されてるわけじゃなく、アメリカでこれまで連綿と続いてきた反権威主義と反知性主義などが悪魔合体したキメラみたいなものとして具現化している。
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アメリカ(さらにヨーロッパ)では、保守とリベラルを超え、またリバタリアニズムと権威主義とが複雑に絡み合って、白人至上主義が台頭している現状と、その社会的・文化的な背景が実地研究を踏まえてわかりやすく解説されている。
白人ナショナリストは、自らの民族・文化的なアイデンティティがリベラルな多文化主義、国際協調主義によって脅かされていて、むしろ自分たちこそ「被害者」であると考えている。この点に、問題の根深さがある。このことがよくわかった。
文化的に同質性のある日本人には理解しづらいが、今後、外国人の入国・在留が増えてくる中で、日本人はなお多文化・多様性の尊重を唱えることができるのか。これを鋭く突きつける一冊。
本書は2020年コロナ感染拡大の直後に書かれているが、コロナ禍によって、米国ではグローバリズムよりもナショナリズム、国際協調よりも自国第一主義の助長が予想される旨を示唆している。これは見事に当たってしまったと言わざるをえない。もっとも、この予想は、アメリカだけではなく、ヨーロッパ、さらにもはや日本にも妥当してしまっているような気もする。
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Black Lives Matter 運動が起こるきっかけになった白人警官による黒人男性の射殺事件。
それまでも同様の事件が頻発し、とうとうこの運動が大きな波となった時、まだ運動の根底にある問題やアメリカの実情は全く知らなかった。漠然とイメージにあったのは、人種差別、反移民、白人至上主義、白人ナショナリスト=暴力的な集団。。
この”白人ナショナリスト”について当初は暴力的で理解しがたい別世界の人たちだと思っていたのに、読み進めるうちに理解できることが多くて驚いた。
アメリカの人口の大半を占め、アメリカの礎を築いてきた白人は、今や移民の流入等により米国に占める割合がどんどん減っている。そして、これに対して、自国を乗っ取られたくないという思いがある人たちがいる。。白人ナショナリストの人にとって日本は、同質性の高い社会として尊敬されているとのこと。
もし日本で移民や外国人労働者の受け入れが大幅に増加した時、自分はどんな考えを持つだろう?コロナ前に訪れた観光地が、中国からの観光客で溢れていた時、マナーの違い等から少なからず不快な気持ちがあった。また道ですれ違う外国人労働者に対するちょっと距離をおいてしてしまう気持ち。。
勿論、暴力を擁護することは決してないけど、白人ナショナリストの人たちの考えを自分も持つ可能性は大いにある。本当は、そもそも人種や出身国で人を見ずに個人として捉えなければいけないのかもしれない。。
とにかく、この本を読んで、遠いアメリカの出来事だと思っていた問題が日本でも起こりうる問題として自分ごとで捉えられました。
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白人至上主義と自国第一主義が結びついた「白人ナショナリズム」
「どうしてそういう思想を持つに至るのか」という疑問から読み始めたのだが、第1章のジャレド・テイラーの言葉「もし日本に外国人が数百万単位で入ってきたら〜」に衝撃を受けた。中国人観光客が大量に押し寄せてきただけで、我が町の商業施設はその様相を変えた(具体的にはドラッグストアや安売り店だらけになった)これが移民ということになったら、町はさらに形を変えるに違いない。それを受け入れるのか拒むのか。白人ナショナリズムを極々小さな規模まで落とし込むと、こういう話になるのだと思った。
一方で、白人至上主義者が日本に対して好意的なのにも複雑な気分になった。クールジャパンと言われている文化や行動に対する好感触が、実は単一民族による文化保護への評価(中身の良し悪しは関係ない)ではないかとさえ思えてきた。
考え方は色々で、今すぐに自分の中で答えは出せないが、引き続きこの問題について考えていきたいと思わされた一冊。
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アメリカ、そしてヨーロッパで起きていることの一面の理解に。ルポルタージュ的内容で、著者自身はどちらかというと反トランプ的なようですが、中立的に書かれていると思いますので、参考になりました。
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ナショナリズムはグローバル化する世界への反動なんだろうけど、文化的同一性の高い日本人が批判するのは簡単よね
アメリカは大変だろうと思う。コロナ禍によってグローバリズムとナショナリズムの関係はどうなっていくのか
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20200725ー0801 題名の『白人ナショナリズム』とは、白人至上主義と自国第一主義が結びついた反動思想だと言う。著者はトランプ政権下での草の根のリアルな動向を伝えている。コロナ禍に世界中が見舞われているなか、アメリカではBLM運動が炎上している
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BLMが正義であり、KKKに代表される白人至上主義が悪である、という単純な理解がまかり通る日本において本書が刊行される意義は大きい。読後に、白人ナショナリストたちが理想とする「単一民族」日本の実態とは?白人から見れば同系民族である朝鮮人を差別するのはなぜなのか?移民が確実に増加していく将来のあり方は?、と自問することになる。
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彼らが強まっている力学、というよりは内部からの声に真摯に向き合ったという印象で、どういう理論で彼らが発言しているのか、というのが判断抜きで語られる。
その点、とても中立的で真摯な印象をうけるし、その上での筆者の判断もそれとわかる形で明示されているので押し付けがましくなく、とても読んでいて気持ちがいい。
この本を選んだ問題意識はなぜ白人ナショナリズムの高まりがこれほどとなっているのか、だったがそれ自体の答えは明示されず、筆者も考えている、という印象。
現在進行形の問題に対してはこういう態度が実は一番紳士的で、読者にとっても、考えて今を分析するツールの一つになるのだなぁと気がついた
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アメリカ研究の第一人者。今、最も良質なアメリカウォッチャーといえばこの方になるのかな。
白人ナショナリズムはリバタニアリズム同様、現在も生成過程にある概念で、その在り方は多様であり、実に様々な団体が発生しているとのこと。
これらが、個別的で断片的な事例の記述にとどまっているのは、現段階では学問的体系にまとめられるような状況ではないからであろう。そのことがアメリカ社会が混沌としていることを示唆しているかのよう。
私なり大きくまとめてみる。白人ナショナリズムは優生思想からくる他人種への蔑視という側面ももちろんある。だが、一方で、白人自体がマイノリティ化する中で、白人の権利が侵害されているという被差別意識が白人ナショナリズムを台頭させているという面もあるという点が重要だと思われた。差別は被害者意識が生む。すべからくどのような差別にも、それを行う当人に加害者意識はない。
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白人ナショナリズムとは、白人至上主義と自国第一主義が結び付いた反動思想である。
反多文化主義である一方、軍備拡張や対外関与、グローバル資本主義は否定している。
アメリカはどこへ向かおうとしているのか、考えさせられる。
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「白人ナショナリズム」が、欧米で広がりつつある。白人至上主義と自国第一主義が結びつき、ネオナチや極右など、様々な勢力が連なる、この反動思想の動向を報告した書籍。
現在、米国において白人至上主義の指導者的存在とされるのは、雑誌『アメリカン・ルネサンス』主宰者のジャレド・テイラーである。彼の支持者は、自分たちはリベラルな社会秩序の「犠牲者」だという意識が強い。
白人ナショナリストの政党として「米国自由党」(AFP)がある。「米国人を第一に」をモットーに、「自由、主権、アイデンティティ、伝統」を重視する。その考え方は、トランプ大統領が掲げる「米国第一主義」に近い。
近年、欧州で極右・右派勢力が台頭している。これらの勢力は、自国第一主義やグローバリズムへの反発などを共有しており、米国と欧州で互いに共鳴し合う関係にある。
白人ナショナリズムの拡大に伴い、極右の過激派によるヘイト犯罪やテロが増えている。これまでのテロ対策はイスラム過激派に偏重していたが、今後は白人ナショナリストによる過激主義の脅威が安全保障の重要な課題になってくる。
米国では、白人人口が減るにつれ、白人ナショナリズムが増大している。今後、白人が過半数を割り込むとされる2040年代半ばに向け、さらなる過激化の可能性がある。
白人ナショナリズムの隆盛は「米国の分裂」を招く。昨今の米国社会は、トライバリズム(政治的部族主義)の様相が濃い。特定の部族=支持基盤の利益だけ重んじ、抗う部族を敵視する。他の民主主義国家でも世論の分断は進み、人権、多文化主義などに基づくリベラルな国際秩序が揺らいでいる。
Posted by ブクログ
でてくる人,団体が多すぎて,学術的には必要かもしれないが,読んでいてフォローしきれない.団体にいちいち略語(アルファベットの頭文字で略したもの)を付けているが,一般の読者にはいらないのではないかと思う.全般に羅列すぎて,では著者の立場はどうなのか,があまりない.
Posted by ブクログ
「彼らと同じ言い分」を、最近、日本でもほんとうに多く見聞きする。トランプ大統領の誕生とヘイト犯罪の増加の関連性は、安倍政権の存在が引き起こしている数々の事態と決して無関係とは言えない。読んでいて、そんな薄気味悪い感覚に襲われた。白人ナショナリストの「人種思考の強さ」を指摘した第4章は、人種の本質を考える上で必読!