あらすじ
文雄と過ごすキラキラした時間は、いつか歳をとった自分自身への贈り物になる……。
2010年、東京。34歳独身で、雑誌を中心に活躍するフリーカメラマンの安藤シオは、3年前に飲み屋で知り合って以来たまに泊まりに来る41歳の映像カメラマン、文雄に思いを寄せている。
自分の私生活を語りたがらず、マメに連絡をくれない文雄との「恋人」とは呼べない曖昧な関係にモヤモヤしていたシオは、美大時代の男友達でイラストレーターの点ちゃんと偶然出版社で再会。周囲には秘密にしていた文雄とのことを話した帰り道、妻子のいる点ちゃんに不意打ちのキスをされる。
2011年3月11日、東日本大震災が発生。真っ先にメールをくれたのは、シオが連絡を待っていた文雄からでも、点ちゃんからでもなく、いやな別れ方をした元カレの角田だった。シオの心は揺れ動く……。
両親や友だちの目を気にして生きてきたシオが選んだ答えとは?
「大人になれないわたしたちを描きたかった」という著者による、せつなくてリアルな初の長編恋愛小説。
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Posted by ブクログ
てっきりずっと憧れていた写真家の人と結婚するものだと思っていたので思わぬ展開に声が出る。その後、BUBKAタブーで吉田豪さんによるインタビューを読むと本当に籍は入れていなくて別居婚状態であるとのことだ。結婚相手の彼に対してご両親が毛嫌いしている感じや、彼ご本人の態度のひどさも相当で、すごく生々しくてハラハラする。これまでしまおさんの本は何冊か読んでいるので、それらで読んだご両親の感じと結びつかなくて、相手によって感じが変わるのかそれとも創作だからなのだろうか。
主に3人の男性が登場するのだけど、どの人物も長所と短所が描かれている。よりにもよって特に短所というかくせの強い人と結婚していて、人生のままならなさを深く感じる。でも誰と結婚したとしてもつきあう時間が多いと短所が目立つのかもしれない。
Posted by ブクログ
角田と結婚したくない。随所に譲れない部分がでてくる。その他は幸せなんだろうが向き合いたくない奴。文雄の子であってほしい。結婚って勢いが必要なのかもしれない。
Posted by ブクログ
「大変なことになったねぇ」
「大変だねぇ」
周りに学生カバンを放り出し、二人ともセーラー服のままコタツに足を突っ込んだ。
猫の千世が、足にぶつかった。後ろではツカちゃんの妹が『小学4年生』を読んでいた。
「お姉ちゃん、ねえ『ぽんぽこ』のビデオ観てもいい?」
「ダメだよ、これからゲームやるんだもん」
「なにやんの?」
「ツインビー」
「えーぽんぽこ観たい~」
「あーとーで!」
「じゃあ、ゲーム死んだらすぐやらして」
「死んだらね」
「早く死んでね!」
……ツカちゃん、元気かな。 看護師になったって言ってたけど。
(p.142)
「わたしに言われても困るよ」
「 黙ってるのは推進派と一緒だよ」
「説教しに呼んだワケ?」
「……や、悪りい、そうじゃなくて。気晴らしをしようと思ってただけで」
腰にぶら下げたキーチェーンの先には「NO NUKES」の文字。
「 ワタシだって、イイと思っているわけじゃないよ」
「わかってるよ、ゴメン」
「エラそうに講釈たれるほど知識もないから……」
小難しい話をする人が増えた。 風紀委員みたいに振る舞う人が増えた。他人に、意見表明させたがる人が増えた。それに答えられないと「アッチ側」と言われたりする。
(p.161)
後日アキオは九つ下の彼女・イチコの二十六歳の誕生日に七万円のBMXを買った。
「約束しちゃったしさ」
アキオは電話口で言い訳をした。
「別にわざわざわたしに報告をしなくてもいいんじゃないの」
「や、なんとなく……この間話してたし」
「……ふーん。で、どうだった?」
「スッゲー喜んでた」
「ヨカッタじゃん。で?」
「やらしてくれた」
「サイアク」
「超やらしてくれた」
「しね」
(p.165)
「まとも? まともって一番ツマンなくないですか? ボク、確信しちゃいました。人から反対されればされるほど、その意見が正しいって思うタイプなんで」
(p.280)
・天才エッセイスト(と自分は思います)しまおまほによる初の長編小説。
・しまおさん世界の大きな魅力である「ぼんやり」。
主人公のそれが年齢、世相と共に周囲とズレが生じていく姿が切ない。ぼんやり生きてもいいじゃないですか。
・単行本化は相当な重圧だったらしく発売前に「不安で泣いちゃった」とラジオで語る。
・エッセイで輝いていた文体が小説として読むとあれ?と思う部分もあり。ただ、会話描写など変わらずしまおさんらしく周囲を切り取る鋭さが光る。
・後半の展開は個人的にはまさにホラー。主人公の体調不良の原因が判明するシーンでは思わず「ギャッ!」と声が出そうになった。
・自分の中にも確実に住む角田には気をつけなければと自戒。