【感想・ネタバレ】AIの時代と法のレビュー

あらすじ

仮想通貨、データ取引、シェアリングエコノミー……。AIをはじめとするデジタル技術の発展は、これまでの「法」ではとらえきれない事態を生じさせ、さまざまな課題をつきつけている。近代社会を規律してきた「法」のゆらぎは一体何を意味するのか。ビジネス法の最前線で起きている問題を取り上げながら考える。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

目次 
第1章 デジタル技術に揺らぐ法
第2章 AIとシェアリング・エコノミー
第3章 情報法の時代
第4章 法と契約と技術
第5章 国家権力対プラットフォーム
第6章 法の前提と限界

感想
昨今、AIをテーマとした本は巷に溢れており、玉石混交といった状況であるが、その中でAIがこれからの社会に与えるインパクトを法律との関係で具体的なイメージを与える本を読みたいならば本書がおすすめである。以下、各章で示唆された問題と個人的に考えたものを記す。
第1章ではAIをはじめとする「デジタル技術」が人間の身体という物理的制約を超えて可能性を広げるデバイスという側面の他に、『ターミネーター』などで描かれるように深層学習を繰り返して自ら問題を解決する自立型の「強いAI」と幅広く想定される中、従来は倫理的な問題にとどまっていた「トロッコ問題」の現実化、これに対する法律の対処の問題点が示されている。変化という切り口であれば、➀取引の形態につき「モノからサービスへ」、②取引の対象につき「財物からデータへ」、③取引ルールにつき「法/契約からコードへ」という流れに分類されて生じるといわれ、以下の章では身の回りで起こると考えられる変化を既に各企業が実施している例を挙げながら見ていくといった流れである。
第2章では自動運転車の事故と法的責任の所在が興味深いテーマであった。有事の際には人間がAIのキルスイッチを押せる状態にしておくといった手法はすぐに思いつくところではあるが、これは無理に責任の所在を明確にしたためにAIの採用による作業効率化を阻害し、本末転倒の解決策であるとして問題点を的確に指摘している。冗長性による解決が提案されているが、損害賠償責任の所在については明らかにされていない。本書の随所に書かれているが、自動運転については無過失責任としたうえで販売会社の所属する自動車業界(OSの設計者も含む?)全体で保険を設立し、あらかじめ販売価格に保険料を一定程度上乗せなどもありうるところかと考える。
第3章では新時代の石油と称されるデータが誰のものか、これを巡る欧州での法制とこれを踏まえた日本の対応が描かれている。欧州では知的財産法を参照して「データベース権」が1996年にディレクティヴの形式で定められたが、GAFAと肩を並べるような欧州発のプラットフォーム企業が未だに存在しないことから、先見の明はあったものの政策としては失敗であったとまとめられている。確かにローマ法以来の権利ベースでの検討は難しいように思われる。AIスピーカーといった例においては、電源を入れて立ち上げる際に個々人のIDチップ等で認識させるのはどうかとも思われたが、国家による情報収集を許容し難いと考えられる現状においては、そのようなチップは各企業が作成せざるを得ず、標準規格のように利用者情報が共有されない限り有意義なものとはならないだろう。
第4章では変化③が問題として前面に出てくる。欧州でも日本でも原則やガイドラインとして定められるように、厳格な規律としての法による管理が向いておらず、将来的には技術的にできない、いわゆる「コード」による別種の規制がなされると予想されている。確かに技術的に不可能なように設定すればそのような事態もありうるだろうが、改竄不可能といわれたブロックチェーンを用いた暗号資産も、管理元から流出してしまえば第三者の手に渡ることはありうることが奇しくも実証されたし、技術的に可能なことであっても使い方によっては害を及ぼすことはありうると思われる(そのような例を挙げることは容易ではないだろうが)ため、あくまで法の領域の縮小・棲み分けの変化の問題にすぎず、法が完全に必要とされない将来は未だに考え難いと感じるところである。
第5章では第2章でも言及のあった巨大プラットフォーム企業のGAFAを巡る法制や暗号資産、キャッシュレス決済の分析がなされている。現状、ビットコインなどの暗号資産は貨幣としての価値の安定性を欠き、あくまで投機の対象にとどまっているが(FACEBOOKのリブラもその例に漏れないか否かについては知識不足のため判断がつかない)、GAFAの合計資産は本書の出た1年前の時点でロシアに匹敵するといわれ、四騎士が独自に通貨を持ち流通すれば、米ドルのように小国の貨幣の役割を奪い、多数の小国での流通貨幣としての地位を得て、ゆくゆくは一大貨幣経済圏を築くこともありえそうなところではある。他方、日本で急速に広まりつつあるキャッシュレス決済は究極的には自国の通貨を信用の基礎としており、どちらかというと暗号資産への国家側の対抗策のようにも感じている。ところで、GAFAに対する各国の取り組みのうち、アクセス制限を行っている間に自国の企業を成長させた中国にはやはり目を見張る点がある。第4章で挙げられたアリババの子会社の芝麻信用が実験的に取り入れたAIによる信用スコアリングは先日「世界まる見え!テレビ特捜部」でも紹介されたが、ネットでも様々な反響があった。その中でも多いのがディストピア社会を描いた「PSYCHO-PASS」を連想した上で生きにくさを感じたものである。中国では基本権の遵守が欧米諸国ほどはされておらず、ビッグデータの集積をGAFAと同様のレベルまで短期間のうちに推し進め、プラットフォーム企業として一躍成長した。もっとも、中国という地域で成長したBATがGAFAと同様に世界でも受け入れられるかは微妙であろう。欧米諸国では少なからず基本権の意識が広まっており、中国で実施していた個人情報の吸い上げに対する反感は進出以前から抱かれているであろうし、国家によるプラットフォーム企業の規制は一段と強くなることは予想される。日本としても独占禁止法をはじめとする諸法制によるGAFAへの対応と同様にBATについても対応を迫られるであろうし、眼前の利便性だけを求めて個人情報を差し出すことのリスクを見誤らないように常に意識していきたいとも思われた。
第6章では各国においてAIの管理をガイドライン等で対処が進む中、日本の独自の意義が再考されている。日本独自のコーポレートガバナンスの在り方や、従来から歴史的経緯を共有し得ない欧米法を取り入れてきた経験などから、日本には権利ベース以外でのアプローチによるAIの管理が見込まれると述べられている。バランスを重視する日本の相場感覚がどのように活かされるかは今後の対応を見守るほかないだろう。

以上のように、現代を生きる人間として、これからの社会の在り様の劇的な変化の中で生じる問題について自分なりの検討を行い、思索を巡らすにはうってつけの本であったと思われた。

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2020年10月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

AIの時代って何時のことなの?って思うとタイトルはかなりおかしいが,内容は至極まっとうで,ディジタル技術の進歩と法の関係がよく分かる。


三省堂(池袋;西武)で購入

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2019年12月05日

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