【感想・ネタバレ】白の闇のレビュー

あらすじ

突然の失明が巻き起こす未曾有の事態。「ミルク色の海」が感染し、善意と悪意の狭間で人間の価値が試される。ノーベル賞作家が「真に恐ろしい暴力的な状況」に挑み、世界を震撼させた傑作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

初作家。この作品の成功により、ノーベル文学賞を受賞。人間とは、個人と文明について、善悪とは・・・etc。あらゆる物事を全人類(ほぼ)失明という事象を用いて寓話的に淡々と、時に神の視点を挟みながら記された天から人類に齎された(——作者曰く、突然"全人類が失明したらどうなるのか"という…)書物ではなかろうか。作中一切キャラクタ名が出て来ず『医者の妻』『サングラスの娘』『黒い眼帯の老人』…等、眼が見えない世界では名前など不要ですものね。また台詞には「」が使用されておらず、最初は誰が言葉を発しているかわからず、大変読みづらい。しかし二つの事柄を合わせて考えてみると、読者をよりこの世界に取り込む(→読者すらこの物語の登場人物のひとりのように)のに大変効果的なことに気付かされた。結末はまた新たに生まれ変わった"新"人類の誕生(?)で幕を閉じた——。
(※続編もあるようだが、翻訳されておらず…残念だ。)
人によっていろいろ考察しながら読める、素晴らしき作品!全人類必読の書である。星五つ。

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2024年04月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ある日突然、失明が伝染していく。視界が白の闇に包まれる。
失明も怖いけれど、全ての人が盲目になった世界で一人だけ目が見えているというのも壮絶です。
何も見えない世界で理性を保てるのは、その人自身の理性なのか、やっぱり「彼女には見えている」という“見られている”意識なのか……。
一人だけ失明しない人物である医師の妻は、支援と介護とのプレッシャーも、目の当たりにしている悲惨な世界のストレスも、自分の目もいつか見えなくなるかもしれないという恐怖もかなり強かっただろうと思います。ラストの不穏さも印象に残ります。
地の文と会話文の区別がつけられてない文章で、会話も何人もいるけど誰がどの発言をしているかも書いてないところもありはじめは戸惑いましたが、それでもぐいぐい読まされる力がありました。考えさせられて目が止まる一文もサラッと書いてあって、読む度に深まっていきそうな作品です。
映画「ブラインドネス」も観ました。原作を読み終わる前に観てしまったけれど随分とコンパクト。でも壮絶さはありました。最初に失明した男とその妻を伊勢谷友介さんと木村佳乃さんが演じられててびっくりでしたが不思議としっくりきます。

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2022年05月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

わたしたちは目が見えなくなったんじゃない。わたしたちは目が見えないのよ。目が見える、目の見えない人びと。でも、見ていない。

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暗い作品の得意な私でも読むのに少々骨が折れた作品だった。読んで、考えて、手が止まる。とても面白く、そして恐ろしい作品。現在のパンデミック下で、状況は違えど同じようなことが起こっている。得体の知れない脅威と背中合わせの生活。いつまで続くかわからない、まさに「闇」だ。

ある時突然視力を失った男。
男を助けたあと男の車を盗んだ車泥棒。最初に失明した男の妻。眼医者の診療所にいたサングラスの娘、斜視の少年、白内障で眼帯をつけた老人。次々と失明していく。失明した人々の視界にはどこまでも続く、ミルクをこぼしたような一面に広がる白い海。彼らは使われなくなった精神病院の病棟へ隔離され、外に出ることは許されない。満足な食糧も提供されない上に、饐えた匂いのする水しか出ない水道、生きる上で必要なものはほとんど揃っていなかった。
目の見えない人々は増え続けて、三百人ほどの人が病棟へ収容された。
人が人らしく生きていくことを忘れる者。人間的でないならせめて動物的にならないようにしようとする者。
当然のように起こる想定しうる最悪の出来事。

医者の妻だけが、最後まで失明しなかったのは何故なのか。
ある日突然人々が白い闇から脱出することができたのか。
わたしたちはずっと、盲目だったことだけは確かなようだ。

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2022年04月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【ケア労働の重責】
 突然、失明する病が感染爆発する――その中でたった一人、視力を失わない人がいたら……という設定が実に巧妙。しかも、視力を失わない人間が女性ということがストーリーに深みを持たせる。
 感染抑制を最優先する政府は患者と濃厚接触者を廃病院に隔離するだけで中の環境が失明者に向いてないことも考えない。そのため、あっという間にトイレは故障、そもそも見えないためにトイレまで行けず廊下で排泄する人も続出する。約束されていた食料も配達が滞り、環境は悪化する一方……たった一人、視力を失わない「医者の妻」は夫である医者にだけその事実を伝え、失明した患者たちをさり気なく支援する。
 彼女が抱える葛藤が実にリアルだ。「見える(=状況が分かる、知っている)」ということは常に責任を伴う。まして、相手が障害や病を抱えているとなおさらのことだ。現実の社会を見ても、介護や保育、支援の問題が生じた時にそれらについて素人である人が「家族だから」「その場にいるから」「できそうだから」という理由だけで重すぎる責任を負わされているのはよくある光景ではないだろうか? そして、それらのケア労働を負わされるのは常に女性なのも。
 糞尿が溢れる劣悪な環境を文字通り「目の当たり」にしながら、医者の妻にできることは限りなく少ない。夫が失明するまで彼女はただの主婦で、ただ隔離される夫を案じて嘘を吐いて一緒に来ただけなのだから。それでも彼女はできることは無いか、正直に言うべきではないかと葛藤する。ケアできる(=せざるを得ない)立場に立たされた女性の心がとてもリアルに描かれている。「いっそ目が見えなくなったらどんなに良いだろう」とは全編で彼女が何度も呟く言葉だが、ケアを負わされた経験がある人にはこの「いっそケアされる側になりたい」「もう責任を負いきれない」という感覚は馴染みのあるものだろう。
 一方で、ケアの放棄には凄まじい罪悪感が伴う。「できるのにしていない」「自分がやらなければ相手は困る」「やらないと人に迷惑をかける」……内面化された倫理と自分の健康を天秤にかけて、潰れるまで前者を選ばざるを得ない人は確実にいる。医者の妻もラストまで夫とその仲間たちを見捨てられず、たった一人で荒廃した世界を見続ける。
 そして、ここまで読んでもきっとこう言う人がいるだろう。「嫌ならやらなきゃいい」「自分でケアすることを選んだくせに」「ケアしてくれなんて誰も言ってない」……そう言う人に一言。「何も見えない、見ようともしないクソッタレ!!」

【コロナ禍に重ねて】
 パンデミックを題材にした小説なので、どうしてもコロナ禍に重ねてしまう。患者たちが隔離された廃病院の描写が本当に読んでいて辛い。トイレはすぐに故障し糞便まみれ、失明に慣れていない患者たちはトイレに行けず廊下で排泄、洗剤も着替えも無く、食糧すら満足に届かない。この劣悪な環境を作り出した責任は確実に政府にあるのだが、隔離施設を選定する会議がたった一ページにも満たない簡潔な語りで終わるのはゾッとずる。そこには、患者とその家族がこれから味わうことになる苦痛と不安への配慮が一切無い。代わって議論されるのは施設の広さ、市民の動揺、経済界からの反発……ここで既に既視感を感じる人もいるはずだ。新型コロナへの政府の対応と同じではないか、と。一たび気づいてしまえば、もうこの小説は他人事として読めない。そもそも、登場人物には固有名詞が無く「最初に失明した男」「目医者」「医者の妻」「サングラスの娘」等と呼ばれるため、誰でもあり誰でもない。つまり、あなたでもあり私でもある。
 第五波の時に自宅療養者を取材した映像を見た。肺炎の進行により命が危ぶまれる状態になっても入院先が見つからず、遠方から駆け付けた患者の母に医師が「ECMOの順番が来れば何とかなるかも」と宣告するシーンだった。それだけも痛ましいのだが、それ以上に印象的だったのは部屋を埋め尽くしたゴミの山だった。「一体どうしてこの人はこんなことに……」と思ってすぐに気づいた。重度の肺炎を抱えて綺麗な部屋を保つなどほぼ不可能ということだ。食事はできても片付けをしてゴミ捨てに行く体力も気力も無い。着替えはできても洗濯はできない。結果、部屋にゴミと汚れ物が溢れかえり、看病してくれる人もいない……小説では廃病院への隔離だったが、何のことはない、患者各自の家での自宅療養で同じことが起きていたのだ。
 もちろん、感染抑制は社会的課題であり最優先で取り組まねばならない。どんな政府にも限界はある。だが、その「最優先」「限界」の中身を決めるのは誰なのか、どう決めているのか、そしてそこに「私」や「あなた」は本当にいるのか……作中に何度も繰り返される「見えない」と「見える」……この意味を何度でも問い直さねば、人間の尊厳を否定する結果しかあり得ない。
 この小説は1/3にEテレで放送された『100分deパンデミック論』で紹介されていた一冊だが、Twitterに「パンデミックに際して苦渋の決断を下す指導者の物語を読んでみたい」との感想が投稿されていた。私はどうしても「決断を下す指導者はいても、苦渋の決断を下す指導者はいないってもう証明されたと思いますがね」としか言えない。

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2022年01月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最初の1ページから、これは面白いぞ!という予感。「」のない台詞も、違和感なく、というか、むしろ引っ掛かりがなく流れるように読めた。時々、あれ?これは誰が言っている?となる時もあったけれど。

眼の見えない人々の(時々滑稽にも見える)動作が、演劇や映画を見ているように思い浮かべられる。目が見える医者の妻を通して伝えられる、嗅覚や触覚の表現も、とてもリアリティを持っている。
レイプや殺人シーンの描写があまり具体的でなかったのはよかった。もし他のシーンと同じように描かれていたらちょっとトラウマになりそう。

絶望感漂うストーリーだけれど、なんだかんだで悪人は粛清され、最後は突然に人々の眼が見えるようになって話は終わる。

眼が見える、という土台の上にこの社会が成り立っていることはよくわかった。では、眼が見えない人の社会というのは、どのような可能性があり、どう構築され得るのか?結局そこまでは描かれなかったのは残念。しかし、それは読者が考えることなのかもしれない。

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2024年08月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あまりにグロテスクでなかなか読み進まなかったが、それが人間の負の部分を表していたのだと読後に納得。それでもやはり自分にはグロテスク過ぎた。見えることが全てではない、見えないから見えるものもある。

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2022年09月23日

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