あらすじ
東京から深澤が転校してきて、何もかもおかしくなった。壮多は怪我で「鹿踊り部」のメンバーを外され、幼馴染みの七夏は突然姿を消した。そんな中、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る自転車旅に出る。花巻から早池峰山、種山高原と走り抜け、三陸を回り岩手山、八幡平へ。僕たちの「答え」はその道の先に見つかるだろうか。「青」のきらめきを一瞬の夏に描く傑作。
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出だしの掴みと章の変わり目の場面の変化があるから全然飽きない。旅する後半なんか最初に工程出してるからわかるのがどんな作用するのかな〜と思ったけども上手ですね。そして最後の謎解きの数々がまた入ってくるし、答えが出た感じが凄くする。深澤は全く悪くないし、七夏の謎解きかなと思ったら壮太の事だったとか、2人は子供の頃出会い繋がっている所が良いです。何より土台に宮沢賢治の銀河鉄道の夜を置くのがワクワクする。地学でも文学でも天体観測でも宮沢賢治が探せるという、地元でも知らない世界、4回も書き換えられた事実も斬新な。
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圧巻。伊予原先生の理科的な見識を活かした作家性と、銀河鉄道の夜の世界観、そして等身大の高校生らしい青春の要素が上手く合わさって、独自の世界観になっている。中心になっているのは銀河鉄道の夜だけれど、他の作品にもスポットが当てられて、モチーフとして作中に散りばめられているのが面白い。これは賢治好きにはたまらないだろう。読後感も爽やかで、彼らのこれからに希望を持てるような物語でした。
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『「はい、『銀河鉄道の夜』の――」「ジョバンニとカムパネルラが、白鳥の停車場で途中下車して、銀河の河原に行く。それが、プリオシン海岸。そこで化石採りの学者たちと出会うわけです」』
空想上の、ただし明らかにモデルとなる実在の高校がある、「花巻農芸高校」の地学部に集まった高校生たちの「銀河鉄道の夜」の舞台となった場所を探る旅は、不思議な転校生の秘かな想いや幼馴染の男女の過去の物語と錯綜しつつミステリー風に展開する。舞台となる花巻や細かなエピソードのあれこれが宮澤賢治の世界を指し示すものばかりであることからも、作家の宮澤賢治に対する熱量が伝わってくる。とは言え、物語そのものはどこか瀬尾まいこの書きそうな青春群像劇。若い主人公たちの言葉はどれも直球でひねたところがない。それ故、謎解きの仕掛けは上手いと思うものの、その舞台上で踊る登場人物たちが演技をしているようだ。だが、そのストレートな語り口が賢治への文学へオマージュとしては必要な要素だったのかも知れないとも思う。
「銀河鉄道の夜」は詳細を覚えていない程昔に読んだので改めて読み返してみた。大人になって(多少、地学の基礎知識も備えて)読むと、色々と気付くこともあるものだと感じる。星座の順番や、橄欖石の輝き。宮澤賢治がそれらに観ていた何かを少しだけ身近に感じることもできる。そしてそんな科学的な知識を身に付けていた人が同時に如何にロマンチストであったかも。もちろん、賢治は当時としては最新の科学を学び実学に生かそうとしたプラグマチストでもあった筈だけれど。
賢治も学んだであろう地球科学は、目の前の対象となる岩石なり地層なりを眺めて、その成因を探し当てることを目的とする。地層の同定だけでなく、化学分析や年代測定、あるいは岩石の組織的特徴や構成物の分析など一応科学的なデータを手掛かりにするとはいえ、物理や化学のように実験で再現することは出来ない現象を相手にする為、タイムマシンで過去に戻って観察することが叶わない以上、所詮それは想像、そう言って悪ければ推理の結果でしかない。最終値から逆算できる初期値は一つに定まらないのが一般的なのと同様、成因は判明したように見えても現実には幾つもの想定の上に立脚する。だからだろうか、地球科学を専らとする人にはロマンチストが多いような気がしてならない。そしてそれは賢治同様にこの「青ノ果テ」の作者にもまた当てはまることのように思う。その多少センチメンタルな色彩が物語全体を覆い包む。
そう言えば社会人になってからいつの間にプリオシン(Pliocene)とは言わなくなった。新第三紀最後の地質時代区分、漸新世。賢治の時代まで戻るまでもなく大学の講義でもそう呼び習わしていたし、ひょっとしたら今でも? しかし英語では少なくともプライオシンと発音する。ギリシャ語のpleion(=more)とkainos(=new)が語源となっているらしいので、やはりiはアイと発音するものだろう。初めてイギリス人と地質の話をした時に通じなかった記憶が蘇る。ただし、日本人の苦手とする無声子音の発音が曖昧だと次の地質時代区分である第四紀の最初の時代であるプライストシン(Pleistncene)と混同しそうにはなるね。
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素敵な作品でした。じわじわと感動が広がって、涙が出そうになりました。
地元岩手なのに、まだまだ知らないことがたくさんあって、賢治先生のこともっともっと知りたい!!
と思いました
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深澤のように星が好きだったこともあって、この本を購入した。
名作『銀河鉄道の夜』を以前読んだことがあり、作中で深澤が嫌いな理由を述べているが、私も同意見である。あんな終わり方、あるだろうか…。あの作品が未完成なのは、話をまとめられなかったからだと思っていたが、違うらしい。ボツにした原稿がたくさんあったことを初めて知った。何度も書き直し続けた…そして、最終稿を仕上げなかった。
宮沢賢治は、どんなラストを望んでいたのだろうか。
深澤、壮多、七夏の3人の巡り合わせにも驚いた。
運命というものは、時に作られるものである。
「僕達は本当のことなんて1ミリも知らなかった。」
……その本当の意味を、読み終わる頃に初めて知ることになった。
湿地の奥の丘が、本当に「銀河鉄道の丘」なのか。
また来年、彼らが丘に辿り着けることを読者として祈るばかりである。
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レビューを拝見して知った本です。ありがとうございます。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、山田正紀さんの『カムパネルラ』を読んだばかりだったので、繋がりがある部分もあって面白く読めました。
花巻農芸高校に東京から深澤北斗が転校してきます。
高校二年の江口壮多は幼なじみの佐倉七夏のフルネームを深澤が知っていることを不審に思います。
怪我で、「鹿踊り部」のメンバーを外れた壮多は深澤と先輩の三井寺、一年生の川端文緒らのおこした地学部に入ることにして、その夏、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に沿って賢治ゆかりの地を自転車で巡る、巡検に出ることになります。
花巻から、早池峰山、穂山高原、三陸を廻り、岩手山、八幡平へ。
一方、七夏とは連絡が取れなくなり、行方不明です。
なぜ七夏は姿を消したのか?
七夏と深澤との関係は一体何なのか。
七夏からは一度だけ連絡が入ります。
<わたし青の果てがどんな色か、わかった気がする。でもわたしにそれが描けるかどうかわからない>
巡検で深澤は「『銀河鉄道の夜』だけは特別なんだ。特別に嫌いなんだよ。カムパネルラが、川で溺れ死んだあとジョバンニは大急ぎで家に帰ったんだよ。親友のカムパネルラが ついさっき 川で死んだのに だぞ」
と意味深なことを言います。
そして、最後は思いもかけなかったラストがあります。
巡検の旅は、壮多にとって七夏のための旅でもありましたが、自分自身のための旅だったのです。
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岩手県人はもちろんだけど、星好き、宮沢賢治好き、鉱物好き、登山好き、いろんな人が楽しめるストーリーだった。
薄々深澤が花巻に来た理由は分かったけど、荘多の地下鉄の記憶がこうつながるのか…!とグッときた。
深澤のアルバイト先のバーガーショップもわざわざ店名を出す理由があったのも納得。七夏の行動力が尋常じゃなかった。
あと三井寺先輩の3つ目の夢を知って、やるせなさに悶えてる。でも彼は自分の道を自ら切り拓いていく人だと思う。学びの方法も夢を実現する方法も一つではないことを知っている三井寺先輩にエールを送りたい。
ぜひ岩手で撮影して欲しい。
Posted by ブクログ
宮沢賢治作品を緻密に読みたいな、再読すると印象が変わるだろうな、と感じさせられた作品。高校生だからできることにうらやましさを感じながら読みました。生まれ故郷の郷土の伝統や、先人の残したもの、実際に言葉を交わすことがかなわぬ人への想いもあふれていて、ぐいぐい読みました。人との関係、自分の心の内、納得できないものへの反発、そして、知りたいと思う気持ち、いろんな感情も感じさせてくれます。
Posted by ブクログ
高校生たちが抱える、将来や家族への思いや不安。何を目印に進めばよいのかもわからない、寄る辺ない感じ。
そして、顧問の先生や旅先で出会う大人たちが、彼らにそっと差しのべる手の温かさ…
うまいなぁ…。
後半は特に引き込まれました。
宮沢賢治の作品は、好きではないのに、気になって何度も読んでいます。賢治作品の解釈が作中に何度も出てきます。知らなかったこと、共感する部分などもあって、二重で楽しめました。
地学って以外に幅広い‼️
Posted by ブクログ
地学部の生徒から推薦されて読みました。たしかに「地学」の要素が全くないわけではありませんが、むしろ高校生の夏休みの冒険旅行と、その過程での成長を描いた青春小説として楽しむことができる作品だと感じます。
著者は、少し前に別の生徒から『月まで三キロ』を勧められて、短編集ながらその巧みな心情描写や舞台設定に感心した記憶がありますが、その雰囲気を長編小説でも味わうことができました。
男三人、夏休みに自転車で巡検の旅行というのはなかなか実現することは難しそうですが、「ザ・青春」という感じがして素直に羨ましく感じました。
Posted by ブクログ
ちょくちょく岩手には行くので地名が出てくる度にちょっと親近感。ああ、あそこもイーハトーブだったのか。
カムパネルラはジョバンニを連れて行きたかったのか。ジョバンニにとってはそれよりも父親だったのか。
Posted by ブクログ
感&動★★★
どの本でもそうなんだけど、
ほんの序盤を読むのが苦手、、
よく分からなくて、退屈で、、
でもこの本の読み終わった後のスッキリ具合は
サウナでトトノッタ時以上のスッキリ感。
思わず読み直しちゃった、ざ青春のお話です。
宮沢賢治をもっとちゃんと知ったけばー、、
もっと面白い話だったと思う。
でも知らなくてもきっと最後は号泣すると思うよ
Posted by ブクログ
岩手県を舞台にした青春の物語。
宮沢賢治が鍵になっていて、「銀河鉄道の夜」を始とした色々な作品や、作品に関連する地学、天文学、文学などが散りばめられている。
私自身は宮沢賢治には詳しくなく、特に好んでもいないのだが、それでも十分に楽しめたし、この作品を読んだことで、宮沢賢治の本を改めて読み返してみたいような気にもなってきました。
自転車に乗って賢治ゆかりの地を旅し、化石を探し、山に登り、星を見る高校生たちのフィールドワークを読むのも楽しかった。
僕たちの答えを探す旅、ほろ苦さを含んだ青春です。
Posted by ブクログ
今すぐ岩手に行ってイーハトーブを探しに行きたくなりました。
今度実際に行くので、参考にしたいです。
夏に部活仲間と自転車で巡る…アオハル、ですねえ。
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科学を題材にした小説が多い著者だが、
こちらは宮沢賢治を題材にイーハトーブを舞台にした高校生の物語。
脇役の地学部部長がなかなか良い味をだしている。
宮沢賢治の物語について初めて知ることも多く、
東北を旅している気分になれた。
Posted by ブクログ
大好きな宮沢賢治の世界に触れながら、現代青春物語としても成立する作品。かなり楽しんだ。
改めてわかることがある。賢治は童話作家や詩人や教師になるずっと前は、単なる石好き山好きの青年だったのだ。そして、幾人かの友人を持っていた。
多感な10代に見ていた世界が、仏教的世界観、科学の世界、友人との別れと肉親との別離の悲しみ、それらが一緒くたになってゆく中で脳内で結晶化し「銀河鉄道の夜」やイーハトーブ世界に変化していった。だとしたら、
「賢さ、なしてこんな丘で野宿するべさ」
「そこに三角標があるべ。こんなこと考えねか。
これから二千年も経つころ
新たな測量技術が発達して
気圏のいちばんな上層、
まるであのイギリス海岸みたいに
すてきな化石を発掘したり
あるいは白亜紀砂岩の層面に
透明な人類の巨大な足跡を
発見するかもしれない
その三角標のそばのトロッコ跡から
銀河鉄道が飛びつような気がしないか。
だから今晩は此処に泊まろ」
「宇宙(そら)を見ながら、か
ま、いいべさ
今日は天の河がよく見えるし」
というような、賢治たちの会話があっても
決しておかしくはない。
そんなことを妄想した東京の賢治ファンが
こんな小説を妄想してもおかしくはない。
この作品を読む間ずっと、30年ほど前初めて花巻を旅した冬の日、大沢温泉の混浴露天風呂や、小岩井農場で見たミルクをこぼしたような天の河を思い出していた。そうそう、花巻農業高校に移築していた羅須地人協会の二階で、半刻ほど昼寝をしたことなども思い出していた。一階はちょっとしたコンサートもできる板敷の広間なんだけど、二階は和風の四方和風ガラス窓付きの畳敷の部屋だった。賢治の生活を思いながら大の字になっていると、寝入っていた。と、何故昼寝などできたのか盗み入ったのか?と、ふといろいろ思い出していたら、あの日はすっかり雪景色で中に入るのに高校の職員室から鍵を借りなくちゃいけなかったのだけど、この日観光客はおそらく私1人で、先生方も大目に見てくれたのだろう、などと推察する。そんな花巻だから、七夏や三井寺や文緒のような賢治マニアの学生や、芳本先生のような詳しい大人が農業高校にいても決しておかしくはない。そこから、此処にあるように、イーハトーブ世界を確定する「巡検」が行われても決しておかしくはない。むしろ、参加したい。そう思わせる小説でした。
5月2週らむさんのレビューを読んで紐解いた。
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宮沢賢治もの。賢治の読み方は時代が出る。こういうのを読むのにいい歳になりましたね。薤露青と来た時には泣けました。私はジョバンニに強力なカンパネルラとの一体感を感じたので、深澤君の読みは結構衝撃だった。でも、こっちのほうが説得力ありますね。いろいろ、なんか違う読みをしてたなあと思う。いや、だからといってそれが違っているというだけなのだけれど。
Posted by ブクログ
この人の本、読むたびにほんとに同じ人が書いてる?と思いたくなるほど印象が違う。根本に理系の知識が散りばめられてるところ以外全部違う。これはまぁおばちゃんになった今ですら、今だからこそなのかもしれないけど、眩しいくらいの青春ものだった。東北に旅したくなる。
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いい意味で予想を裏切られた。もっとライトな作品かと思っていましたが、宮沢賢治に関する考察やイーハトーブ巡行は、綿密な文献調査と現地取材に基づいて書かれているようで、なかなか読みごたえがあります。銀河鉄道の夜を読みたくなりますし、中盤以降描かれる巡行は旅情を掻き立てます。青が象徴的な本作ですが、映像で見たいなぁ。
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宮澤賢治がかつて奉職していた実在の農業高校がモデル。
物語では花巻農芸高校と名前を変えてあるけれど、学校名や登場人物以外はほぼ実在どおりなのでご当地物としても楽しめます。
『銀河鉄道の夜』をはじめとするいくつかの作品が物語に登場し、
その中でも未完の物語『銀河鉄道の夜』の異稿がストーリーに大きな役割をはたしています。
この本のタイトルも賢治の詩の一片から取られています。
賢治の好きだった星座や鉱物の話題もでてくるのでファンにはたまらないでしょう。
ストーリーそのものはシンプルで爽やかで嫌味がなく、気軽に読めました。
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宮沢賢治をテーマにした地学部。
イーハトーブとはをもとめて夏休みに自転車でフィールドワークの旅に出る。
終盤は動きが大きくなって、色々な点が繋がって面白くなるがそこまで辿り着くまではなかなか読み進められなかった。
銀河鉄道の夜のきっかけになった場所に出会ったところはとても浪漫を感じた。
難しいというのが正直な感想。
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宮沢賢治に関して地学の面で調査するといったのが主な話だが、宮沢賢治を全く知らないので専門的知識過ぎて入り込めなかった。
宮沢賢治好きは興奮して読めるかも。
人間ドラマ的には面白かったけど、主人公の深澤くんに対するあたりが強くてそこは嫌悪感。
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伊与原新の2作目。『月まで三キロ』のシャープさは感じなかった。
悪い人は一切出てこないいま風のやさしい高校生の話だった。
読書して気分が悪くなるのは望まないが、いいひとだらけの作品にも不満を感じてしまうのは勝手すぎるのか。
いままで知らなかった格言「絶望とは愚者の結論である(ベンジャミン・ディズレーリ)」が耳に残った。
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宮沢賢治が教鞭をとった学校がモデルとなっている
花巻農芸高校の地学部を描いた青春小説。
地学部の活動として、
宮沢賢治の物語に出てくる岩手県内の各所を巡っていくのだけど、
知っている地名ばかりなので、面白かった。
(ただその距離感が分かるだけに、
そんなに長い距離を巡るなんて、すごすぎる高校生だな…とも思った。)
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転校生、三角関係、自転車旅、そして突然消えた幼馴染 ー
作品を構成する要素を聞いただけで、胸がキュンとしませんか?
夏休みに読みたい青春もの!
ミステリー的要素もあり、読後は、かなり爽やかです。
「カムパネルラの死なない世界」を探す旅の話。
だから、宮沢賢治さんの「銀河鉄道の夜」は事前に読んでおいた方が、読書の深みが増すと思います。
僕は「銀河鉄道の夜」まだ未読なんですけど…笑
そういえば、島本理生さんの「星のように離れて雨のように散った」を読んで、「銀河鉄道の夜」を読まねばなあ、と思い文庫本を購入したんだったな…。残念ながら積読中。
しかし、いいおじさんになって、「銀河鉄道の夜」読んでいないなんて、「趣味:読書」失格だと思った。
早よ読まないとね。
青春のいじわる/菊池桃子(1984)
→青い花/ブランキー・ジェット・シティ(1994)
Posted by ブクログ
宮沢賢治と花巻と地学をもっと知りたくなるような、高校生の青春物語でした。大人と子供の領域を行ったり来たり、一番揺れ動く年代ではないかなと思いました。
Posted by ブクログ
「賢治先生、好きなの?」「宮沢賢治――むしろ、嫌いだね」
【感想】
・登場人物それぞれの屈折をそれぞれが乗り越えたときの解放感。
・単純すぎる言い方になるが、伊与原版『夜のピクニック』ってとこかも。
・新潮文庫なのにスピンがない。もしかして、とうとうなくなったの?
【一行目】
カムパネルラは、ここで死んだ。
【内容】
・七夏と深澤の間には何か関わりがあるのか?
・七夏の母の、地学部あるいは山登りへの抵抗感。
・行方不明になった佐倉家の人々はどこに?
・宮澤賢治の「天気輪の丘」はどこ?
・深澤の宮澤賢治への屈折した想いは何故?
・ケガをした壮多の鹿踊り部での活動は?
・壮多と深澤は仲わるいままか?
・夏休み、地学部の「巡検」はどういう顛末となるか?
・誰がカンパネラで誰がジョヴァンニか?
▼簡単なメモ
【井川】漁業組合で漁場管理をしている。巡検中の地学部と出会う。
【イギリスサンド】食パンに砂糖とマーガリンをはさんだもの。宮澤賢治の「イギリス海岸」とは特に関係ないらしい。壮多によると青森が発祥なのだとか。ちなみに名前は異なるとしても同様のパンは全国にあると思われる。
【伊藤】鹿踊り部の女子部員。壮多がケガした原因となったが彼女の責任ではない。
【川端文緒/かわばた・ふみお】→文緒
【賢治先生の家】「羅須地人協会」を復元したもので学校の敷地内に建っている。
【困難】《この先、彼の人生にも様々な困難が待ち受けているだろうけれど、そのすべてに打ち勝ってほしいとは思わない。》p.221
【沙紀/さき】クラスメート。七夏の友人。茶道部員。
【鹿踊り/ししおどり】岩手と宮城に伝わる伝統舞踏。十五キロある装束で跳ね回る。鹿踊り部はバリバリの体育会系。壮多は《自分には鹿踊りしかない》p.18とまで入れ込んでいる。
【巡検】夏休みに地学部は宮澤賢治ゆかりの場所を地学的視点から約二週間ほどフィールドワークしていくことになった、そのこと。
【絶望】「絶望とは、愚か者の結論」という言葉を壮多の父と、深澤が口にした。
【壮多/そうた】江口壮多。主人公。二年。鹿踊り(ししおどり)部員で鹿踊りにすべてをかけている。ぶっきらぼうなタイプだが他者を嫌っているわけではない。ただ、知り合ったばかりの深澤くんにはなぜか攻撃的で七夏に近づけまいとしているようだ。たんに七夏をはさんだ嫉妬というのではなさそうなので何か不穏なものを感じているのかもしれない?
【壮多の父】山好きのせいで離婚して出ていった。もう何年も会っていない。
【地学】三井寺によると《アマチュアでも十分楽しんだり、活躍したりできる分野なんですよ。》p.187
【七夏/なのか】佐倉七夏。二年。壮多の、姿を消した幼馴染み。絵を描くのが好き。美術部員。夜になりかけの空の青の色が決まらないと言っていた。その色が「青の果て」。なにか悩み? があるらしい。「これは、わたしの問題。だから自分で何とかする。壮多も、鹿踊りができなくなったからって、わたしに寄りかからないで」p.127
【七夏の母】壮多の母と仲がいい。なぜか七夏が山に登ることを執拗に嫌がる。
【花巻農芸高校】宮澤賢治が教師をしていた花巻農学校が前身の高校。宮澤賢治を「賢治先生」と呼ぶよう指導している。
【花田】鹿踊り部の顧問。
【フィールドワーク】三井寺いわく「自分が今どこにいて、何を見ているか。まずはそれをちゃんと意識するのが、フィールドワークの第一歩なんですよ」p.145
【深澤北斗/ふかざわ・ほくと】転校生。イケメン。又三郎のようでもカンパネラのようでもある。壮多は最初から反感を抱く。《物言いたげで熱のないあの独特な目》p.60をしている。宮澤賢治はむしろ嫌いだという。
【文緒/ふみお】川端文緒。文芸部を立ち上げたいと言っていた一年生。小柄で前髪ぱっつんどこかこけしを思わせる女子生徒。宮澤賢治のファンで非常に詳しい。文芸部には希望者がいないので次善の策としては宮澤賢治研究会をと考えていたが地学部でもいいかと考え入部した。紫外線に弱く虫にもかぶれるのでアウトドア活動はせず文献研究に特化する。ゆえに「巡検」には参加せず論文書きにいそしむ。テーマはざっくり言って「イーハトーブ=クトゥルフ神話」。おー、それはかなり斬新かも。
【三井寺修平/みいでら・しゅうへい】土木造園科三年。地学部を立ち上げようとしている。鉱物研究が趣味。ひ弱な鉱物オタクっぽいと思われたが壮多はしだいに敬意を表するようになっていく。
【夜間登山】宮澤賢治は御来光を花巻農学校の子どもたちに見せるためを岩手山夜間登山をしたらしい。当時はいい照明器具もなかったからすごかっただろうなと思う。個人的には一度だけ夜間登山したことがある。やはり御来光拝みに大山(だいせん)で。家の近所の四百メートル級の山なら何度も夜間に上っていたが。
【山下】鹿踊り部の二年生部員。ケガをした壮多の代わりに全国高等学校総合文化祭に出場、活躍した。《壮多のようなダイナミックさはないが、人の目を惹きつける美しさがある。》p.199
【芳本】新任の国語教師。宮澤賢治のファンらしい。地学部の顧問となる。
【亮平/りょうへい】壮多の友人。
Posted by ブクログ
花巻農芸高校で、伝統芸能「鹿踊り部」のメンバーとして晴れ舞台を控えていた壮多。
東京からやってきた転校生・深澤が、幼馴染みの七夏を何故か知っていることが気になって、心穏やかではない。
ケガで鹿踊り部の活動をあきらめざるを得なくなり、成り行きで七夏や深澤とともに「地学部」のメンバーに加わった上に、『イーハトーブ』を探す旅に出ることになってしまう。
そんなとき、七夏が謎の言葉を残して失踪してしまう…
宮沢賢治が好きな人ならたまらないだろうなぁ。
小学生の教科書と、宿題のために買ってもらった全集でしか読んだことがなかった私は、たぶん半分くらいしか愉しめていない。
それでも、恋じゃないけど特別でいたいモヤモヤ、気に食わないけど気になるモヤモヤ、好きなのに理解できない親へのモヤモヤなどなど、矛盾するようだけれど、モヤモヤを鮮明に描いてとにかく瑞々しい。
高校生×部活×夏旅。
ここは素直に、まんまとやられちゃっていい。
「銀河鉄道」の登場人物、ジョバンニ・カムパネルラ・ザネリになぞらえられる3人がもちろん主要人物なのだけれど…
静かに熱い三井寺くん、いいなぁ。
彼こそ、賢治の心を、心と身体で受け継いでいるひとでしょう。
伊予原新さん、初読。
フォロー中のmofuさんの星4つ…でもネタバレのレビューを読むのは我慢して、表紙のイラストでジャケ買い?で手に取った本。
読み終えてから、レビューを確認して、またぐっときました。
ありがとうございました!
理系の目を生かしたストーリーということで、ご贔屓の川端裕人さんに近い味があるのかも?
何作か読んでみたい。