【感想・ネタバレ】人間のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

芸術を志す若者達のシェアハウスに住む主人公。
住人たちの才能の無さがしつこく描写されるので、ああこれは彼らを馬鹿にしている主人公が一番才能が無かったっていう終わりかなと思ったらそういうくだりは前半三割で終わった。えっ。

あとはもうひたすら過去に苦しみ続けて問答を繰り返す。自己愛と自己批判の連続。
又吉の小説は、自分にオリジナリティはあるか、才能はあるか、わざとらしく見えていないか、という自意識をずっと色んな方向から書いているな。
途中明確に又吉本人をモデルにした人物が出てきて、「芥川賞を取った芸人」に寄せられた批判への反論とかがあり、いや、こういう形でのアンサーってずるくない??自分の口で言いたくないからワンクッション挟んでるの??と思った。
後々「あの批判にも受け入れるべきところはあった」みたいなシーンもあり、本当は自分ちゃんとわかってますよってこと??又吉はそういうわざとらしさ恥ずかしがりそうだったので意外だな。

主人公の心が安定を失って時間や場所の感覚があやふやになる描写はわたしも騙されてすごく好きだった。結局それは最後まで続くんだけど、ラストは色んな狡さや格好悪さを持ちながら堂々と生きている両親を愛をもって見つめるという時間になるので爽やかな終わりだった。
中盤まではあんなに自己愛、芸術の探究と他者からの見え方、みたいなのを繊細にやりとりしていたのに、沖縄の父のガサツさの前には何もかも無力。沖縄に帰省してからほとんどそういうことを考えなくなっている。
主人公の中で、自分の人生に対するスタンスとあの両親のことを受け入れている部分とが大いなる矛盾となってるんだけど、矛盾こそ人間の深みなので、その矛盾があるから主人公は倒れないで生きていけるだろうなと思った。

芸能人への誹謗中傷のくだり、2019年に書かれた本なのに正確に現実を言い当てていて驚く。預言者か?

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2021年09月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んだ後なんとも言えないふわふわした気持ちだったから感想なんて書けるかなと思ったら意外と長く書いてしまった。

1頁目を読んだ時にこれは私の話だと感じて思わずレジまで持っていった。けど読んでいくうちにそれは永山の一部分に共感しただけだと気づいた。

好きな部類の小説だけど私は人間失格を読んでいないし、本を沢山読む人間じゃないからこの本の半分も分かってない気がする。難解な言い回しは読むだけで必死で、難しいなあと思いながらでも読み進めたくなるくらい面白かった。
仲野みたいに上辺を掬い取って器用に生きられないし永山みたいに深く考えて生きてきてないから、登場人物に共感することは少なかったかもしれない。でも凡人だから言葉が鋭く刺さる時があってハッとする。それも永山母みたいに時間が経つと忘れてしまうけど。
時間が経った後また読み直したら違う味わいがある気がする。



第一章は痛々しくてこういう青春もあるんだと思って若さが眩しく感じられたし、血だらけになっている永山は読んでてしんどかった。
心の支えにしていたのか、奥を思い出しては冷静さを思い出してそれでも抑えられない激情が気持ち悪くて、でも読み返した時は愛おしく感じた。それと読み返す時に影島の言葉を思い出しながら読むとやっぱり面白い。奥はどんな気持ちで部屋で聞いてたんだろうな。

第一章だけで結構お腹いっぱいだったから読み返した時にこんなに短かったかと思って驚いた。

第二章、過去に対する現在を描いているから、記憶の扱いを描くのは当たり前なんだろうな。
カスミっていう不思議な女性との出会い方がカスミの視点だと、永山視点で描かれていたものとは随分違って驚いた。
それから怖い話みたいな自作自演の間抜けな話をした後、ハウスでの事件が記憶の捏造で悲惨さが増していたことが分かって、間抜けな話を聞いた後だったから面白くなってしまった。
普通なら永山のことを気持ち悪いとか怖いとかと思いそうなもんなのに。
でもそれで被害を受けたのってあのどうしようもないハウスの住人達で、だったらいいかと思ったし影島が言ってたみたいに凡人Aの懲役が長すぎるから。

こんな大胆な記憶改変ができるのに自作に対しては俯くことしかできない、人間が下手だね。


ナカノタイチと影島道生のバトルで自分に矛先が向いてるように感じる永山は、凡人って部分でナカノタイチと繋がっているんじゃないかと思った。
仲野が永山に何も成し遂げられないと言ったのは仲野みたいに世間が求めてる普通をコラムにできる器用さがないからかもしれない。永山にそんな器用さがあってもそれをしないことが仲野との違いなのかな。永山は凡人であることを受け入れたいのかな。
仲野は前世がなんだったかなんてすぐに思いつくんだろうな。

奥との再会のシーンがとても好きだ。
なんで奥って呼んでたのか気になって読み返したら、部屋が奥の部屋で奥って張り紙があったからなのが2人の間に流れてる空気みたいな丁度いい緩さがあって良かった。
影島呼びが慣れない永山はやっぱり奥と影島がちゃんと同じ人間だって分かってなかったんだな。

影島が永山の指摘を焦点があってるから言うて、って言うところ。この2人だからこそ影島はゆっくり聞き出すし永山は言い淀むんだなと思って好きだった。
影島が永山の失態全てを面白がってくれてそこで流す永山の涙さえも面白いもののように扱うのが好きだった。
影島が奥だった頃、永山に向けていたんだと読み返して分かったサッカーの話が好きだった。

2人には共通点が多くて読み返した時に同一人物なんか?と考えてしまった。似ているからこそお互いお腹見せ合って慰め合えたんだろうな。
人間失格を祖父の聖書くらい読み込んでる影島はどうなったんだろ。死んでないといいなと思うけど死んでるかもしれない、沖縄に永山が行った時もしかしたら影島も沖縄にいるかもしれないなと思った。出てこなかったけど。

影島の膜の話、永山の作品タイトル脱皮。

ハウスは罪なんかな、影島と再会してエッセイを完成させて罪から脱皮した永山が沖縄で膜から脱皮して、いつまで続くか分からないけど解放を得ていたのが爽やかで心地よかった。
読み終わった後まだ永山の人生を眺めていたかったと思った。

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2021年05月28日

Posted by ブクログ

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芸人が書いた本という先入観みたいなのがあって避けていたが面白い本だった。
主人公視点では何か行き詰まった時に、過去を振り返りその事を思い出して感傷に浸っている。そして自分自身を傷つけて過去の傷と一体化しようとしているのではないかと思った。しかし耐えきれずに傷から逃げるように他者に癒しや傷のなすりつけをしている。
別の人の視点でも傷をつけている人やつけられている人の話があるがこれは作者の考えが強い気がする。
みんな一人一人自傷して、傷ついて他者に何かを求めている。自傷なんかせず他者に何も求めない。これが優しさなのではないかと読み終えて考えた。

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2024年04月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

沖縄編をどのようにとらえたらよいのか?

読みながらいろいろと考えていました。
それまでは、苦も無く読み進めていたのに沖縄編は正直いって冗長で飽きてきました。

ただ、最後の「私は人間が拙い」

ここまできて、作者の思いというかプロットというかわかるような気がしました。

序盤から中盤のハウス編や影島編は、沖縄編への「フリ」だったのかな?
そう思うと多少のカタルシスが得られました。

にしても、沖縄編は冗長に感じられました。


本文は、突如過去の記憶になったり、現在の記憶に戻ったり。過去の記憶でも戻るレンジが保育園の時期だったり、思春期だったり、小学生だったり、頻繁な記憶のスイッチバックを繰り返しており、ワチャワチャし過ぎて下手すると破綻しそうなところでしたが、ストレスなくすっごくうまくまとまっていました。
とても丁寧に書き進めていたのが伝わりました。

今の自分は「現在完了形」(うまく表現できませんが)で営まれている、っていうのをうまく表現できていると思いました。

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2024年03月19日

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