【感想・ネタバレ】紫の山のレビュー

あらすじ

8年前、スイスの国境近い町で、自動車事故にあった夫。車を運転していたのは、日本人女性だった。その死に納得がいかないまま暮しに追われてきた歳月の中で、男との逢瀬が祥子の胸に、忘れていた甘い安らぎと希望を満たしていく……。という表題作のほか、「白萩」「変身」「隠れ谷」「双生」「二つの棺」「晩秋」を収録。揺れ動く微妙な女性の心の襞を細やかに描き上げた、全7作の名品集。

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Posted by ブクログ

◼️ 芝木好子「紫の山」

うまいな、と思う。30代40代の女が抱えている鬱屈を丹念に描く短編集。

芝木好子は「幻華」でほう、と思い「湯葉・青磁砧」で唸った。芸術方面を題材としつつ、主人公となる昭和の女性を主軸に、巧みでクセのある設定と細やかで、ともすれば通り過ぎてしまいそうな心情を丹念に描く作家さんというイメージ、さらにいえば色や音などをうまく織り込む人、という印象がある。

珠子は姉の優子との間に双子ならではの繋がりを持ちつつ、性格の違いを感じていた。優子はさっぱりしていて、珠子はナイーブ気味。仲の良いいとこ同士、優子の息子・修と珠子の1人娘・が結婚させて欲しい、と言い出し、珠子は優生学的な理由から反対する。しかし2人の意思も固く、結論を出すため姉妹は一泊旅行に出かけるー。(双生)

冒頭の「 白萩」は兄弟に見合い写真を見せて、兄の方は主人公・秋子に興味を示さず、ぜひと言ってきた商社マンの弟と結婚する。しかし兄は自分の初恋の男に似ており、趣味も合った、というもの。兄の結婚、その後も描かれている。最後の弟のひと言が短い物語を締めている。

「変身」
ひとまわり歳が違い、先妻との子がある山陰の寺僧の夫のもとに嫁いだ秋子が主人公。秋子は染色の活動で認められつつあり、1年に1度東京に帰って工芸展の準備などに没頭する。夫の由信も理解はしているが、常に雅子が寺に戻ってこないのではという危惧を抱いている。

「晩秋」では高校の頃憧れていた先輩が画家となってパリに渡っており、結婚後夫の出張に伴って行った洋子が訪ねていく。

「隠れ谷」は奔放な女性陶芸家の微妙な男女関係の話、表題作「紫の山」はスイスに出張した夫が女性とともに乗っていた車の事故で亡くなった鬱屈を抱える祥子がその地を知る海外特派員の記者と親しくなり、理解される悦びと新たな出会いに華やぐ。

どの短編も30代から40代の女性が主人公で心のどこかに人生上、生活上の鬱屈を抱えている。昭和50年代に書かれたもので、女性の立場が昭和、と捉えられるが、だから現代とのギャップとそれでも変わらないようなものがあるのでは、との感慨を同時に抱く。言葉で紡がれる主人公の心情がシンプルで刺さってくる。

人の心は単純でしかし屈折もある。人それぞれのこだわりもある。成り行きの人生を振り返った時、失われたものと、でもこれだけは、という想いと、現在地、そしてこれから。

ちなみに芝木好子さんは宇野千代さんの前に文化功労者として顕彰された人。

芸術と社会と女性。品格のある言葉遣いも含めて、滋味があふれる作品だとしみじみ思う。自分は最近、若い方々の作品に触れる機会もあったりして、年長の繰り言かも、という遠慮もありつつ、読んでみてごらんなさい、なんて言いたくなっている。

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2026年11月01日

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