あらすじ
子供も大人も精神の不調を抱える現代、自分とは違う「棲まい方」をしている他人の世界を知ることで、自身の「棲まい方」や生きづらさを相対的にとらえ、共生を目指す入門書。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
表現が適切かどうか分かりませんが、とても面白く、ためになりました。心の病気とはどういうものか?どうやって''治す''のか?心の病気でも暮らしやすい社会とは?一つ一つ丁寧に解説してくれます。統合失調症、うつ病、PTSD、発達障害、認知症など、それぞれ心の中で何が起きているのかや、それに対してどう接するべきかなども説明されており、非常に「実践的」な内容でした。
Posted by ブクログ
いろいろな心の病気の中身をわかりやすく知ることができるます。
でも「わかりやすく」とはいっても、
それなりの硬度のある内容だから、
読み応えがあって大人でも知的満足感が得られると思います。
心の病気っていうのは、
親とそして親以外をも含む過去の対人関係の影響、
そして現在の対人関係での相互作用での影響でなるものであって、
当人だけの問題では決してないことがわかります
(外的な強い心的衝撃によるPTSDという種類の心の病気もありますが)。
僕の身近に心の病気の人がいることもあって、
この場などに書評や感想を書いていなくても、何冊かそういった本を読んできました。
それらは勉強になるよい本でしたが、それらと比べても本書はより良書のほうだといえます。
「この本がひろく知られるとほんとうに社会がよくなる。」
と思えるほどの、とっつきやすい適度な内容の厚みと範囲の広さです。
精神科医やカウンセラーたちがどうやって心の病気を診断し、わかるのか、
といったところから始まり、
統合失調症、うつ病、そううつ病、強迫症、摂食障害、PTSD、
転換性障害(かつてはヒステリー)、不登校、いじめ、発達障害、認知症の
それぞれの症状や背景、
そしてそれらをふまえた上で、社会をどうしていったらいいかのヴィジョンに終わっていきます。
読んでみると知らなかった知識も多かったです。
自分は貧しいと過度に思いこむ「貧困妄想」、
几帳面さゆえに自分でルールを次々と作り、
それにがんじがらめになってしまう「インクルデンツ」などが主にそうでした。
なかでも、「インクルデンツ」は僕の身近な人にもその傾向があり、
たぶんその人はそううつ病と強迫症と、
その背景に自閉症スペクトラムがちょっとあるのではないかと、
素人判断では思い浮かぶ人なのですが、
自分で決めたルールを周囲の人にも適用させようとする強制力が強く、
すごく大変になるんです。
ここに強迫観念も加わって(つまり背景に強い不安がある)、
どうしてもルール通りにしないと気が済まない、というのがある。
まあ、強迫症の人なんざ、そこいらじゅうにいるなと思うところなのですが、
強迫症の人は、その症状ゆえに周囲から嫌われ、信用を失くしていくと書かれている。
また、そううつ傾向の人もそうなんです。
パニックみたいに気分が変わったときに、
それまでの理性が吹っ飛んでしまい、抑制が効かずに行為をしてしまったりします。
それらが合わさると、約束も破られるし、一線も超えられてしまいます。
だから、信用してはいけない人物に認定されて、
大事なことを話してはならない人物として扱われていくことになります。
本書によると、そううつ病も強迫症も同じ薬が効くそうで、
病院にさえいってもらえると解決にぐっと近づくのでしょうが、
病院にかかること自体が偏見などで高いハードルだったりもしますし、
そもそも自分が心の病気だと自覚できていない場合もありますし、
身体の病気のようにはすんなりいかないことが多いと思います。
僕の個人的な場合だと、
地域包括支援センターに協力を仰いだことがあって、
強迫症をケアすることで、うちの介護もうまくいくから、と主張し、
向こうもなんとなく頷いていましたが、
失敗するリスクを恐れてだと思うのですが、
やるもやらないもなく、うっちゃられてしまいました。
前に保健所の人に来てもらった時にもさじを投げられてしまい、
解決策も無いまま、連絡がプツンと途絶えたのですが、
どうもこっちの役所ってそういった感じなんです。
精神医療のオープンダイアローグや、
福岡市でも役所が取り入れたユマニチュード、
ほか、アサーションなどの技術を
地域包括支援センターなどの公務員のひとたちに身につけてもらって
被介護者だけじゃなくて介護者のQOLを考えた上で、
介護者を指導しケアする、というようにしてほしかったんですが、
面倒がられたみたいです。
家族が促しても、病院やクリニックに行こうという気を起こしてもらえないので、
家族以外のひととのつながりを作ってもらい、
その繋がりをいくつか作り、多方面からうながしてもらえるとうまくいくのでは、
と役所で話をしてきたのですが、流されて終わりでした。
行政にしても、
川の下流で起こっていること、つまり現場ですが、
そこばかりみて対症療法的に策を講じようとし、
策が講じられないなら見ないふりをするというように見えてしまいます。
そうではなく、川の上流で起こっていること、
つまり何故現場でそのような事態になっているか、
背景を辿っていく、ということをしたうえで
策を講じるようじゃないと救えるものも救えなくなる。
そういったことにしても「前例がない」で片付けていたら、
なんのための仕事なんだ、って言いたくなってしまいます。
ちょっと話が脱線してしまいました。
本書が広まってくれたなら、
または、本書の言いたいことが知られていったなら、
困った人のケアもできないような硬直が解きほぐされるのではないか、
そういう期待感を持ちました。
こういう本を書いてくれる人がいる、
出版してくれる会社がある、
読む人がそれなりの数、いる。
それだけでもちょっと嬉しいものです。
本書は中学生対象の質問箱シリーズの一冊です。
僕としては教科書として採用されたらいいのに、
と思えるくらい、推したい一冊でした。
Posted by ブクログ
鬱病は過去を重視する農耕民族。統合失調症は未来を先取りする狩猟民族。の話はすごく腑に落ちて全体を通して言えることだけど分かりやすく興味を持ちながら読み進める事ができてとても良かった。
摂食障害の成熟への拒否も分かりやすい。
著者が素晴らしいのかもしれないけど難易度的にちょうどいいので中学生の質問箱シリーズ他のも読んでみたい。
Posted by ブクログ
『心の病気ってなんだろう』
統合失調症、うつ、PTSDなどの精神医学の極めてやさしい概略本。
精神医学の治療で重要なことは、原状復帰ではなく、病気になる前とは異なる形になること。病気になる前と同じ状態に戻ってしまうと、また何かのきっかけで再発してしまう。再発しないような形に寛解していくことが重要。
転移という治療法も興味深かった。一般にトラウマとは、現在では操作不可能(記憶さえも抑圧されて、ない場合すらある)な心の傷である。そのままでは、治療できないが、治療しないと別のところで回帰してしまい、病状として現れる。その場合、精神医は心の傷が起こった当時の人間関係をそのまま精神医と患者の形にすり替える転移という手法を使う。例えば、母子関係に問題があったのであれば、患者にとっての母なる存在に精神医がなる。そうすることで、操作不可能な傷を現在に引き上げ、操作可能にする。母子関係の断裂が原因であれば、一度母子関係を再現した上で、病状に現れないような正常な形で分離を図る。こうすることで、新たに関係性を作り替え、寛解させる。映画「バタフライ・エフェクト」のブラックアウトはトラウマの一形態ではないかと思う。(主人公は自分で過去を改変することで、治してしまったが…)。
うつ病と統合失調症には時間感覚と関係性があることは興味深かった。
うつ病では、時間がどんどんゆっくりになっていくという制止という症状が現れる。時間がもっとゆっくりになっていくと、最終的には心を使う活動ができなくなる。意識ははっきりあるが、全く動けない、全く話せないような状況。これを昏迷とも呼ぶ。人間が体験している時間というのは新しい「今」が次々現れているような時間であり、さっきの「今」は、次の瞬間には過去になっている。逆に、「今」があるということは、「未来」があるということ。しかし、制止や昏迷になると、今がのっぺりと今のままに留まってしまい、未来がやってこない。今が今に留まってしまい、未来がなくなると、相対的に過去の比重が高くなる。そうして、自分の過去に目を向けると、自分に自信をもたせるような過去は既にだめになっているので、過去の些細な悪いことに目が行くようになり、罪悪感などの妄想から動けなくなってしまうという。自分の中の、記憶や知覚において、過去の存在がどんどん大きくなってしまった時に、人はその時間が止まってしまう。うつ病に限らず、人間にはあること思う。
現在、うつ病における治療は休息が中心と書いてあるが、この時期は相当つらいのであろう。
Sumikaというバンドにカルチャーショッカーという歌があるが、その中の、「過去の清算が今を止めちゃう前に」というフレーズがとても好きなのだが、まさにうつとは、過去の清算が今を止めてしまう状態のことなのであろう。
Posted by ブクログ
非常にわかりやすい。研究者が観察して得た知見だけでなく、心の病の当事者が発した言葉も重視しているため、極めて共感的だ。思うに、発達障害やうつ病など、目に見えない心の状態を浮き彫りにした精神医学は、我々の認識を刷新しただろう。こういった心の状態は現実にその状態なのであって、受け入れたくなくても、現実なのだ。しかし、心の状態の認識を獲得したら、我々はこれに向かい合い、当事者を理解できる。当事者にしても、心理学や医学などの学問の恩恵もあって、自分の状態を言語化して表明でき、相互理解が可能な社会が準備されつつあると言ってよい。とはいえ、個人個人の状態は千差万別であり、学問の抽象概念で一括りに理解してしまうのは早計である。つまり、我々はもっと当事者の言葉に耳を傾け、行動を見守り、彼らを追体験して受け入れられたらと思う。何々病とか、何々障害でレッテル貼りするのではなく、今ここにいるその人を見つめることだ。この時に重要なのが、彼らを追体験するではないか。
Posted by ブクログ
興味深く、ほぼ一気読みで読んでしまいました。
心の病気は本当に心だけの問題なのか、体の病気とどう違うか、どのように治療していくか、それぞれの病気の症状はどんなもので、患者さんはどう感じているのか。とても分かりやすい言葉で書かれていて一気に読み進めてしまいました。
私は過去にうつ病と診断され、現在は躁うつ病(双極性障害)と診断されているので、その辺についての知識はあったのですが、統合失調症や認知症、発達障害についてはまだまだ知識がなく、なるほど。と思いながら読み続けていきました。
病気だとその人すべてが病気と思ってしまいがちなところですが、人間らしいところが残っているからこそそれが症状として出てきたり、自分を守るために外から見たらおかしな行動をとったりしているという事が分かってとてもよかったです。
発狂という言葉に対義語がなく、行ったら行きっぱなしという点から精神疾患が悲劇のものと見られているという視点にも、なるほど。と思わされました。
最初の章で精神科病院やそれらを取り巻く環境の歴史についても触れられていて、興味深かったです。
心の病気の回復と体の病気の回復では回復の意味が異なるというのが今回の本でグッと来た部分です。私もいい回復していけるようになりたいものです。
Posted by ブクログ
「中学生の質問箱」シリーズとのことだが、大人向けの入門書という扱いでちょうど良いのではないか。精神医学の基礎的な内容が、専門家じゃない一般読者にわかりやすく解説されている。