あらすじ
世界トップレベルの自動車メーカー・ゼネラルモーターズ。その生産工場が閉鎖したとき、企業城下町ジェインズヴィルの分断は始まった。元工員と家族、教育者や政治家、財界人にいたるまで、異なる立場の人々に行った緻密なインタビューが、事実のみならず心理まで克明に描写する小説さながらのストーリーテリングに結実。「住民のパーソナルな物語」を通して「二分した全アメリカの物語」を浮彫りにした、衝撃のノンフィクション!
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Posted by ブクログ
★GMジプシーの悲哀★リーマンショック後のGM城下町の苦境を追う。GMの工場が時給28ドルで中産階級を支えていたが、閉鎖になると半額程度の仕事しか残っていない。収入と家族の生活を守るために近隣の別の工場に出稼ぎに行き、週末ごとに戻る「GMジプシー」の姿が染みる。あと10年近くもこの生活を続けるのか。娘がアルバイトを掛け持ちして家計を支える例もある。
再就職のために職業訓練学校に政府が金を投じ、そこで懸命に学ぶ人も多い。再教育に対する米国の信念を感じる。ただ卒業してもいい職を得られるわけではなく、むしろ学ばなかった人よりも再就職が厳しいとの調査結果も示す。優秀な成績で卒業して刑務所に職を得た人が精神を病んでしまう例も。再教育の意義を問いかける。
一方で新しい職を作ろうとする経済界の主導者の姿も描く。楽天的にあろうと活動し、一生懸命であり活動に満足しているようだが、かつての中産階級を救うには至っていない冷静な筆致が厳しい。
終身雇用に守られた日本で、会社に頼らず働ける能力を磨けというが、ことはそう簡単ではないことが分かる。GMをすでに退職して年金で悠々自適の人もおり、時代の運不運も大きい。個人として備えられることが何か、そして地域としてどれだけの対応が可能か、突きつけられる。答えは出ないが。