【感想・ネタバレ】海と山のピアノ(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

水といのちのお話。陸は海、海は陸、生も死も一続きになって「うた」にのせてぐるぐる回る、そういう強いテーマが短編たちの間に貫かれていてとても統一感ある短編集だった。
「ルル」はちょっと反則だろう、と思いながらボロボロ泣いたけど、一番好きなのは「野島岬」だ。
「わかんねえからってびびっちまって、ちっちゃけえ理屈ぶっかぶせようってもよ、金魚すくいの網でメカジキ追っかけようってなもんなんだ。わかんねえもんはしゃんねえべ、オイラもオメエらも脳みそこんなだしよ。けどよ、パッと見意味なくって、わかんなくってもよ、どんぴしゃのアタリって、案外目の前にぶらさがってんみてえなもんじゃねえか、なあよ、オイ」
そう、私も脳みそこんなで、金魚すくいの網だから、いろんなことわかんないけどしゃんないよね、と思ってなんかすがすがしく、すっきりした。
漁師たちの台詞がまた面白くて、微妙に言葉が足りない感じ、繰り返される感じ、荒々しいリズムが、ああ海で生きている言葉なんだと思ってすっと入ってくる。これも「うた」かな。

解説も良かった。いしいさんの本の暗闇の話。私は「プラネタリウムのふたご」が大好きなんだけど、あれもどうにもやりきれない闇、かなしさが広がっていて、でもそれと共にある人間とおはなしの強さが暗闇にきらきら光っていた。言わんとすることすごくわかる。
「しかし本作では、それがけっしてただの悲しみとしては描かれない。……それら無数の境界を越えていく。」
確かに、どの話もすごく優しかった。大丈夫、暗闇の中でつながっている、続いている、ずっとずっと続いている、たまに入れ替わりながらも続いている。全部が当たり前だと思える、お話の力強さ。いしいさんだなあと思う。

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2019年12月11日

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