あらすじ
自らの扇子を忘れた前座が、楽屋にあった扇子を借りて高座に上がり、『道具屋』を演じている最中、短刀に見立てた扇子の中から血まみれのナイフが現れた!? 表題作「道具屋殺人事件」をはじめ、「らくだのサゲ」「勘定板の亀吉」を収録。
真打ちを目指し、日々修業に励む二つ目の・寿笑亭福の助が、脳血栓で倒れ、千葉県房総で療養中の元師匠・山桜亭馬春の助言を得つつ怪事件に挑む! “落語ミステリー”の異才が放つ珠玉の三編。
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Posted by ブクログ
二つ目の噺家、寿笑亭福の助を謎解き役とする落語ミステリシリーズ。
こちらが第一作とのこと。
福の助の元の師匠、山桜亭馬春が謎というか、無理難題というか、を解く糸口を与え、「芸の虫」の福の助が解く、という構図。
第二作の「芝浜謎噺」を先に読んでいたためか、作品の中にすっと入っていくことができた。
花山亭小喜楽という噺家が出てくる。
本作オリジナルの人物だ。
手がける噺の数も多く、玄人好みの渋い芸風ながら、人気があまりない、という人。
この人が物語冒頭には脳血栓で高座の上で倒れ、再起の見込みも立たなくなる。
そんな中で、この人物と殺人事件との関わりが浮上していくことになる。
地味で陰惨なイメージのまま、物語からフェイドアウトしていくのかな…と思っていた。
それが最終話までいくと、いい意味で裏切られる。
客席でカレーを食べ始めた客のために、すでに話し始めていたネタを変えてしまうという神業をしてのける。
おかげで読後感がかなりよくなった。
さて、こういうシリーズもの。
手慣れた作者さんは、途中の巻から読み始める読者にも優しい。
うまくこれまでの状況を説明しながら展開してくれる。
第二作の「芝浜謎話」もそうなっていて、それほど困難は感じなかったのだが、やはりこのシリーズに関しては第一作から読んだ方がいいな、と感じる。
あとがきを読んでおくと、もっと楽しめるかな、と思ったからだ。
例えば、登場人物のモデル(山桜亭馬春は春風亭柳朝をモデルにしている)が示されていたりする。
それ以外にも、このシリーズが愛川さんのスランプを打開した作品であったり、この本が北森鴻さんとの「合作」になりそこねたエピソードを知っていると、さらに味わい深くなるような気がする。