【感想・ネタバレ】スウィングしなけりゃ意味がないのレビュー

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Posted by ブクログ 2022年09月15日

大好きな作家さんの佐藤さん、今回は、ドイツ第三帝国下のスウィングボーイズの物語。
佐藤亜紀さんは、不幸な事件のせいもあって、あまり話題にはされてませんが、実は好きな人がメチャ多い作家さんです。最近だと黄金列車もすごく良かった。
ナチスに頽廃音楽とレッテルされた音楽や美術作品は多々あるなか、ドイツに浸...続きを読む透していたスウィングジャズにハマった悪ガキの物語、ゲシュタポの排斥が進むなかで、隠れてスウィングスウィング、ある意味楽しい青春譚が繰り広げられるものの、時代の流れは暗雲立ち込め、ハンブルク大空襲を山場に生活瓦解となるなかで、そのような陰鬱さを感じさせないスピードで悪ガキが走り続けた物語。悪ガキベースだからポジティブな文調であまり気分が重くならずに一気に読める。角川文庫版の須賀しのぶさんの解説の最後がよかった。
「心から自由を失った時、人は人でないものになりさがる。疑問も持たなくなるから楽かもしれないが、そんなものになりたくはない。
スウィングしなけりゃ、人生に意味はないのだ。」
最新作の「喜べ、幸いなる魂よ」は18世紀フランドルの物語。積読からいつ取り出そうか、楽しみです。

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Posted by ブクログ 2021年05月24日

戦時下の青春小説。

日に日に締め付けが厳しくなっていく戦時下、敵性音楽であるジャズをどうにかして聴き続けること。この話を貫いているものは反戦の精神でもなく戦争がもたらす教訓的なものでもなく、ジャズという名の人間性ではないかと思う。

主人公エディがつるんだり巻き込んだり丸め込んだりする人達は、ユダ...続きを読むヤ系、ユーゲントのスパイ、戦争捕虜、ゲシュタポなど立場を問わない。
エディにはイデオロギーはなく、ジャズを聴き続けるため、前線行きを逃れるためにあらゆるものを利用し、あらゆる理不尽に心を痛める。

ジャズを含むアーリア的でないもの全てを根絶やしにしようとイロニーのかけらもなく愛国精神を説くナチス。

馬鹿げた戦争をやりたいやつはよそでやってくれ、俺たちを巻き込むなという心の叫びは、国籍や年代問わず誰もが共感できるところではなかろうか。
そういった率直な人間性が、恋や人生の楽しみを歌うジャズナンバーに投影される。

佐藤亜紀作品の中では読みやすいほうではないか。(天使、雲雀などは登場人物も殺人的に多くて苦労した)とはいえこの作品も分からん単語が当然のように出てきてググりながら読まないと厳しい。
単語検索もそうなんだけどスマホ片手に読むのがおすすめ。ジャズナンバーが随所に出てくるので検索して聴く。ヒトラーユーゲントの歌も。
作中繰り返し出てくる「イロニー」の有無を、音楽を通じても感じることができると思う。

今回もほんとに登場人物が魅力的。

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Posted by ブクログ 2020年06月10日

「西暦二○○○年の人間はまた別な風に弾くだろう、って先生は言ってる。今みたいな音楽を普通に聴くようになった人たちには、ベートーヴェンはまた別のものに聴こえるだろう、先生が聴き始めてからでもずいぶんと変わったって。それはいいことでも悪いことでもある、って。得るものと失うものがあるから」

2017年に...続きを読む日本人の作家が大戦末期のドイツを描く。綿密なリサーチが彼らのステップを“歴史”から開放する。自由なステップは素敵な飛躍を生み、それが祈りを携えた小説となる。読者は史実の手触りと自分の足元が変容する感覚を味わう。読み終えた僕が思いを馳せたのは、遠いドイツの風景ではなく、もっとそばにあるファシズムの過去と現在についてだった。

『戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである』なんて言葉があるが、「執着する」の部分はおよそ美しくない、牙を向いて死に物狂いな態度で取り組まれなければならない。かっこ悪いくらいに足掻いて、“かっこよさ”を死守しろ。という意味なのかもしれない。血統よりイデオロギーより強固な“かっこよさ”で連帯すること。粋とは何かを理解しない者に手綱を渡すなと、この小説は伝えてくれている。

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Posted by ブクログ 2020年02月11日

この本は実在したスウィング・ボーイズの話です。私はスウィング・ボーイズなる存在を知りませんでした。ナチス体制のハンブルグで、ジャズによって規制に抗った少年たち。ナチスに抵抗した若者というと私は白バラしか知りません。スウィング・ボーイズもエーデルヴァイス海賊団も知りませんでした。だから小説としての面白...続きを読むさだけでなく歴史を知るという意味でも興味深く面白かったです。
白バラは反戦のビラを撒くのに対して、スウィング・ボーイズはただカッコいいことをしたかったり好きな音楽を聴いたり踊ったりしたいだけ。自由でいたいだけ。ビラを撒く恋人にエディは「それってユーゲントとどこが違うの?なんで青年が先頭に立って旗を掲げなきゃいけないんだ。ドイツよ目覚めよって、目覚めた挙句こうなってるんだろ?」と言います。
どんな手を使ってでも戦争になんて行きたくない、SSやゲシュタポのことをバカにしてる感じやブルジョワの子供らしい考え方や行動が痛快です。

佐藤亜紀さんについてもこの本についても、須賀しのぶさんの解説がまさにその通りです。佐藤亜紀さんの作品について私が思っていたことを言葉にしてくれていて嬉しかったです。この本については須賀さんの文章を引用します。

『押しつけられるものに目もくれず、ただ自分が選んだスウィングジャズで最後まで踊り続ける。それは、振り返ってみれば、あの時代において最も厳しい生き方だったかもしれない。しかし彼らは、何度選べたとしても、その道しか選ばないだろう。
 心から自由を失った時、人は人ではないものになりさがる。疑問も持たなくなるから楽かもしれないが、そんなものにはなりたくない。
 スウィングしなけりゃ、人生に意味はないのだ。』

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Posted by ブクログ 2019年07月02日

いやはや、佐藤亜紀かっけー、おもしれー。
ナチになびかなかった人たち、なんだけど、政治的な意図を持って抵抗するんではなく、ただやりたいことをやりたいだけ。ジャマするヤツにはなびかない、こびない、屈しない。ただやりたいことをする。かっけーわ、スウィングボーイズ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年07月09日

ボンボンが悪ガキしてるわー、というところから、時代そのまま地獄のような状況に突き落とされていく、その情緒の行ったり来たりが、『状況に酔う』ということのない視点を通じてなされ、読みふけってしまった。ちょっとだけ、些細なことだが受け入れがたいところはあった、けれども。

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Posted by ブクログ 2022年03月11日

実在したナチス政権下のスウィング・ボーイズ。上流階級のおぼっちゃんのかっこつけ、お遊びでありながら、音楽への熱狂や一体感がすごい。若くして戦況の変化に直面しつつ、己は常に自由たらんと踊り続けるかのような生き方を、ナチスドイツを背景にしながら鮮やかに描き切っているところも見事と思う。

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Posted by ブクログ 2019年07月26日

イカした小説だった。ナチスが幅を利かしていた時代のハンブルクを舞台に、ジャズにかぶれた連中(スウィング・ボーイズ)がしたたかにしなやかに生き抜いていく物語。
レジスタンスのように真っ向から抗うのも尊いけど、この小説のスウィング・ボーイズのように軟派を装ってカッコつけ、相手にしないようでいて器用に裏を...続きを読むかいているようなのって素敵だ。ナチスの時代というとすべてが灰色あるいは真っ黒に思われかねないけど、笑うときもあれば悦びのときもありながら人は生きていたはず。そんな一面を表現してくれているような気がするよ。
その極めつけのような聡い青年が主人公のエディだと思う(もう一人あげるとしたらマックスだね)。物事や世の真理、人の心理が直感的にわかってる世渡り上手(それでいながら嫌味がない)、楽しむことにも貪欲でありながらしっかり成果もあげられるタイプ。
エディやマックスの言動を読みながら、最近、男性作家の(日本人の)少年や青年を主人公にした小説2作品で、主人公の彼らが一歩引いたところから俯瞰的に物事を見ているような、いってみればずるいスタンスなのに、周囲の人から買われている様子なのってちょっとおかしいと思ったことを思い出した。それは、カッコいいとはいえない男性作家が自分と似たタイプを主人公に願望混ぜてそういうこういうキャラクターになっているんじゃないかなと思っているんだけど、この小説のエディはマックスは文句なし、ちゃんとうなずけるカッコよさがある。それって、女性作家の手になるからだろうか。
作家の力といえば……と話題を強引にもってきたけど、こんな小説を日本人が書いちゃってるのもすごい!
欧米(語)の小説の文調と日本語の小説の文調ってやっぱり違っていて、それって翻訳して日本語になった小説を読んだところで、外国ものは読みにくい、その小説の世界に入りにくいなと思ってるんだけど、この小説はそういう思いになることがない。馴れしみ込んでる日本語で一から書かれているだけあって、すぐに目の前に情景が浮かんでくる。そして題材自体の面白さもあってどんどん読んでいける。
これ、映画化(洋画)するといいのに。小難しいミニシアター系の映画とかじゃなくて、ハリウッドのエンタメ感ありありでつくったほうがいいなあ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年06月30日

第2次世界大戦前夜から戦中にかけ、いわゆる敵性音楽であるジャズに魅了されたドイツのティーンエイジャーたち、"スウィングボーイズ"の物語。
懇切丁寧なガイド付き小説とは違い、あれ、これについてなんか説明あったかな? とポヤポヤしているとあっという間に置いていかれそうな、まさしくイン...続きを読むプロヴィゼーションが連なるジャズセッションのような作品で、その音楽的なリズムとテンポが読み進むうちにドンドン心地良くなってくる。
政治的思想は持たなかったと言われているスウィングボーイズだが、戦時下という特殊な状況だからこそ、純朴な魂が発する叫びには説得力が籠り、物語中盤、ベルゲドルフに収容されたエディが目にする数々の理不尽に対し「お前から逃れるまで、僕はお前のことを考える」と呼び掛けて締めるくだりに、それは凝縮されている。
どこにも偏移せず、ひたすら自分がかっこいいと感じるものだけを追い続けた彼らの価値観が嫌悪とともに爪弾きにしたようなものは、絶対的に間違っているのではないですか、ということだ。
まあこうして駄文を綴って分析するのも野暮の極みと思われる、どちらかというと右脳で味わうような作品かも。

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Posted by ブクログ 2019年06月03日

ナチス政権下ドイツの、新たな局面を見せてくれる快作。大戦に突入する中、あくまで自分たちのやりたいことを貫いた青少年。戦時には避けられない不条理や死の描写も出ては来るけど、抑制の効いた筆致の妙もあり、いかにも”戦争もの”というところからは、一線を画す仕上がりになっている。終戦とともに迎える本作のクライ...続きを読むマックスも素晴らしく、ならではの読み応えある物語でした。

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Posted by ブクログ 2019年08月16日

西欧社会を舞台として純文学と大衆文学の間を自在に往来する独自の小説世界で知られる著者が、ナチス政権下のドイツで、政権への反発心から禁止されたスウィングジャズに耽溺した少年たちの姿を描いた一冊。

特に明確な政治思想があるわけではない。だが、ヒトラーユーゲントに代表されるようなナチスの姿は余りにも”ダ...続きを読むサすぎる”。だから自分たちはクールなスウィングジャズに耽溺する。少年たちを貫く思想はかのように、いたってシンプルである。

その生き方は当然のように政権から敵視され、収容所送りや一時的な拘留など、政権からの暴力を受ける。それでも、ゲシュタポの目をかいくぐってジャズのパーティーを開催し、終いには密かに流通が禁止されたジャズのレコードを自分たちで複製し闇で売りさばくことで、政権に舌を出す彼らの生きざまは、見ていて痛快である。同時に、自由を求めて戦う少年たちの姿に胸が熱くなる。

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Posted by ブクログ 2019年08月11日

佐藤亜紀さんの作品は10年前に読んだ『ミノタウロス』以来だと思います。相変わらずひとつひとつの文章の密度が驚くほど高くて、相当な力作かつ労作であることは疑いないのですが、自分の場合はあまり物語に入っていくことができませんでした。
それは一にも二にも登場人物の問題で、現代の「反戦平和」に何となく染まっ...続きを読むたような学生たちが、そのまま戦時下のドイツにタイムスリップしたような違和感が最後まで拭えませんでした。すぐ近くで空襲が起こっているのに妙に落ち着きはらった行動も?ですし、破天荒さも『ミノタウロス』の登場人物の悪漢ぶりに比べると数段落ちるような気が。もちろんそういう設定がダメというわけではないのですが、もう少し背景や内面について説明がないと、このクソ暑い中で読み身にとってはしんどかったというのが正直なところです。登場人物の心情や背景を細かく説明しないという著者の手法が、本作に関しては足枷になったように感じました。で、そうなるとストーリーにサプライズのようなものを求めたくなるところなのですが、それも大したことなかったですし、うーん、一言でいって残念だったのでした。
とはいえ、他の方の感想を読んでみると絶賛される方は一定数いらっしゃるようですので、自分はダメでしたがきっと「分かる人は分かる」作品なんだと思います。ま、相性が悪かったということで堪忍してください。

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