あらすじ
「ミミヲキリ、ハナヲソギ……」日本中世の猟奇的風俗の謎に迫る!
なぜ「耳なし芳一」は耳を失ったのか。なぜ豊臣秀吉は朝鮮出兵で鼻削ぎを命じたのか。史料博捜と耳塚・鼻塚の現地踏査の結果、日本史上最も有名な猟奇的習俗に隠された意外な真実が明かされる! 耳鼻削ぎ図版と「爪と指」に関する論考を増補。身体部位から、日本社会の豊穣なシンボリズムを拓いた画期的論考。解説・高野秀行
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Posted by ブクログ
耳塚、鼻塚の考察から始まり、耳鼻削ぎの歴史を語る異色の日本史。史実からの考察も秀逸だが、世界における耳鼻削ぎの歴史を俯瞰し、そこから東アジア、そして、日本と焦点を当て、日本の耳鼻削ぎの習慣の特殊性を説いているところも秀逸。さらに、指、爪の論考が本編に負けず劣らず、光を放っている。
全体的にストーリー展開のうまさで、グロテスクな内容ながら、読後感は良い。
Posted by ブクログ
日本における耳鼻削ぎの刑罰とは?
その歴史と、各地に残る耳塚・鼻塚についてを
様々な史料や文献から解き明かしてゆく。
・はじめに 耳塚・鼻塚の伝説を訪ねて
第一章 「ミミヲキリ、ハナヲソギ」は残酷か?
第二章 「耳なし芳一」は、なぜ耳を失ったのか?
第三章 戦場の耳鼻削ぎの真実
第四章 「未開」の国から、「文明」の国へ
第五章 耳塚・鼻塚の謎
終章 世界史の中の耳鼻削ぎ
参考文献有り。
中世の耳鼻削ぎの刑は女性に。次いで僧侶や乞食に。
その対象になった理由と宥免刑。
人命救済の措置であったこと。でも非人中の非人への転落。
戦場での耳鼻削ぎ。遥か古代からあったが、
鎌倉時代時代以降は「つわものの道」と呼ばれる行動規範や
倫理の形成で、女性に手をかけることが忌避され、
無益な殺戮も白眼視されるようになる。
しかし室町・戦国時代、戦功の証となった耳鼻削ぎ。
遠隔地や季節を鑑みての、首の代用品となった耳と鼻。
合戦のスケールが大規模になり、動員された庶民の戦意を
喪失させるためもある。しかも耳削ぎ・鼻削ぎのルールも。
秀吉の朝鮮出兵で鼻削ぎが行われた理由。
国内でも見せしめにした耳鼻削ぎ&磔。
それは江戸時代初期にも。
だが、生類憐みの令での変化。
見せしめの懲罰主義から人命尊重の宥免化へ。
そして「未開の国」から「文明の国」へ。
古代から現代のユーラシア大陸に耳鼻削ぎ刑が
存在しているけれど、こんなに耳鼻削ぎ刑が多くあった
日本の歴史のカオスさが際立っていて、スゴ過ぎます。
でも、耳鼻削ぎの伝承がある耳塚・鼻塚は、
史実伴わなくとも耳鼻削ぎの記憶の残滓であり、
それをご利益がある民間信仰に繋げていった一般庶民の
逞しさにも、感慨深いものを感じました。
Posted by ブクログ
解説で高野氏が称賛しているように、キャッチーな話題で読者の興味を惹き付けながら史料引用と考察を重ねていく、著者の筆力が本作でも冴え渡っている。
耳鼻削ぎというグロテスクな話題から、日本中世~近世の文化を著述する手腕はお見事の一言。
柳田國男と南方熊楠といった二巨頭の論戦を冒頭に記すことで一気に引き込まれる。
中世の事例より、耳鼻削ぎは女性や僧侶に対して、死刑相当の罪一等を減じる宥免罪としての地位を持っていた。女性は一人前の判断能力がないと思われていたため、僧侶は聖界の人間のため。また日本中世の荘園での刑罰は、犯罪によって生じたケガレを除去することに重点が置かれたため、犯罪人は領域外へ追放するといった意味合いが強い。耳鼻削ぎを実際に行う人も、被差別部落民が担っており刑余の人間はそのままその民となっていただろう。
しかし、室町から戦国前期にかけて耳鼻削ぎは戦果を証明するための証拠であり、そのため鼻削ぎは髭の生えている上唇と一緒に削ぐことで正当な戦果と認められるといった作法まで生まれてくる。また、戦果証拠としてはあくまで首が本義であり、耳鼻は戦場と戦果認定のための中央権力が離れている場合に輸送の便のために執り行われた措置であった。そのため、各地の権力が収斂し戦場が大規模・遠隔で行われるようになる安土桃山時代に耳鼻削ぎの事例は増していく。それに付随して、耳鼻削ぎは宥免罪としてではなく、苦痛の見せしめ罪としての意味合いも付与されていく。
江戸時代も中期に入り徳川綱吉の生類憐れみの令により、「文明化」されていくと、耳鼻削ぎといった肉刑はグロテスクさと認識されるようになり、徐々に姿を消していく。
前近代のユーラシア大陸では、いち早く「文明」化した中国や朝鮮半島の王朝のみが耳鼻削ぎ刑を忌避し、それ以外の「辺境」的な地域にのみ耳鼻削ぎが残存し、女性のための刑罰という意味が付与されていたということになる。
こうした中国隣国型と辺境型という二類型でアジアの国々をみていったとき、日本社会は、古代において中国隣国型の国家体制をとりながらも、中世に入ると一転して辺境型の国家体制にシフトしたといえる。