【感想・ネタバレ】鎮魂のデトロイトのレビュー

あらすじ

30年前の壮絶な過去が、犯罪都市(デトロイト)に再び血を招く。マカヴィティ賞新人賞受賞作家ジェフリー・ディーヴァー絶賛のシリーズ第2弾!

探偵社を辞めて数カ月後、ノラはデトロイトの夜の街にいた。30年前に拳銃自殺した父の死への疑念――死の数年前、海兵隊員として赴いたレバノンでいったい何が起きたのか?封印された過去が明らかになるにつれ、ノラは何者かに執拗に命を狙われはじめる。一方、ノラの知人で元刑事の探偵ブラズーカは新種の合成麻薬の供給ルートを探るうち、ある組織とノラとの思わぬ接点に気づき……。

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Posted by ブクログ

 ノラ・ワッツ三部作の第二作。一作目であまりに薄幸ゆえタフでワイルドなサバイバリストに育ってしまった個性豊かなヒロインの登場を描き、生まれてから一度も会ったことのない娘を探す旅に出たヒロインは、謀略を暴き、派手な大団円を迎える。

 本作では、父の自殺の謎を追って、父の育った土地デトロイトに向かい、ここでも複雑に入り組んだ人間模様の謎に絡め取られながら、危険に曝される。前作と本作の間で、ノラの周辺環境に大きな変化が起こり、しかもノラはデトロイトで物語を紡いでゆくため、物語は自殺した父、行方をくらました母と二つの人生の秘密を暴きつつ新たな展開を迎える。

 とりわけ謎の多い母の行方についてとノラや娘ボニー、前作から因縁の続くブラズーカら含めて、すべての決着は三作目を待つこととなる。

 そう。始動と決着とに挟まれた経過地点みたいな一冊なのである、本書は。

 バンクーバー在住の作者は、トロントで政治学を学び、ホームレス支援活動や映像業界での調査業を経験していたという。米国とレバノンの国政情勢を絡めたり、歴史的紛争地帯の動静や難民虐殺事件など、カナダ生まれの本書は従前のアメリカン・ミステリよりも遥かにグローバルな視点に連結させている。一人のしがない女性が取り組む一家族の行方を辿るミステリであるというのに。

 登場する人物の多種多様さ、関わる国籍の多さ、人間関係、組織関係、距離感の把握し難さなどが、娯楽小説としてのスピード感にブレーキをかけ、、敢えて読者の眼差しを、ビッグスケールな世界に向けようとしている野太いプロットは男性顔負けである。

 バイオレンスを身に着けた多くの男どもの追跡を逃れ、猫のように闇の中で爪を研ぐヒロインのたくましさと慎重さぶりは、今回も彼女の孤独とともに語りの中で一貫してゆく。前作ほどにエキセントリックな設定ではない生活レベルで出発しただけに、少し彼女の安定や成長を観ることができると感じたが、良い意味で裏切られ、最終巻への期待を持たせて物語は閉じてゆく。

 それぞれの際立つキャラクターにどういう最終章が用意されてゆくのか、現時点で執筆中ということもあり情報はゼロ。緊張が続くままに巻を閉じることになったが、ノラはバンクーバーに戻る様子はなく、娘ボニーの住むトロントに向かいそうな気配である。こうなれば最後までつきあうしかあるまい。

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2019年05月29日

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