あらすじ
知らないところで自分が言っていたらしい。
「これからぼくたち心中するところなんですよ」(「キヨミ」収録)
日常の裏側にびっしり恐怖の卵が湧いている我妻怪談!
幻惑の名手・我妻俊樹が描く、日常のすぐ横に口を開けた常世の深淵――。記憶の底にある家を探していると、祖母に異変が起きる「ヒロエおばさん」、バス停で出逢った身の毛もよだつ異形とは…「待合室」、バスで寝ていたら知らぬ間に異界に迷い込んでいた「深夜バス」、40歳を境に突然、命を脅かす怪異に見舞われ始める「ガタガタ」など、48篇の実話恐怖譚を収録。黄泉からの声があなたにも聞こえる――。
著者について
我妻俊樹(あがつま・としき)
『実話怪談覚書 忌之刻』で単著デビュー。「奇々耳草紙」シリーズ、『忌印恐怖譚 くちけむり』『めくらまし』など多数。共著に「FKB饗宴」「てのひら怪談」「ふたり怪談」「瞬殺怪談」「怪談五色」「怪談四十九夜」シリーズなど。歌人でもある。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
今日も実話怪談を読んでいる。我妻俊樹さんの2019年リリースの一冊。
裏表紙にも取り上げられている「ヒロエおばさん」が凄かった。どうしても詳細が思い出せない記憶、突然の不幸な出来事、記憶を辿ろうとすると起きる思いがけない出来事と影響、数十年後の怪異の噂。オーセンティックなスタイルで整った文章は読みやすいし、それぞれのエピソードのわからなさはまだ受け止められるけれど、それが因果も不確かに連なって書かれるとわからなさがにブーストがかかって、受け止めきれない気がしてくる。文章が整っているだけに混乱してくる。秩序が表す混沌。脳の何処かが捩れる気がして焦った。世界の見方というか、世界の中でわたしが変わってしまうようで震えた。
そして最後に収録されている「ガタガタ」が更に凄まじかった。完全に大ネタ。体験者の姉から報告者の妹へ更に報告者であった妹もが体験者になる展開のさせ方は気持ちが良いほど巧みで。そこで連続して起こる怪異は単体でもとても不気味だし、因果に意味も関連性もありそうで全くわからないまま起こり続ける怪異を読んでいくのは完全に怖かった。ここにも秩序が表す混沌があった。そして、姉妹共に“わからないサイド”へ行ってしまったような妹の一言のコメントに再度震える。最後の我妻さん自身のその言葉の意味を考えさせるような一言も効果的だった。もちろん考えはじめてもわからないはずだけれど、もしわかってしまったら捻れた脳の何処かが千切れてしまうような気もする…これは実話怪談でしか味わえないような感覚、体験だった気がします。
そして買ったときには気がつかなかったけれど、この文庫本は後半のページがなにかで濡れて歪んでいるのだった。なんだこれは、と気がついたときにまた震えた。これもフィジカルの魅力、ではないですね。それも含めて怖い読書だった。