【感想・ネタバレ】ROEを超える企業価値創造のレビュー

あらすじ

なぜ日本企業は不当に低く評価されているのか?
「見えない資産」を活かせ!

上場企業(金融除く)のバランスシートには依然として200兆円近い広義の現金(現金+有価証券)が積み上がり、上場企業の1割以上で広義の現金の方が時価総額より大きい。アベノミクス前後で株価もROEもほぼ倍増したが、企業価値の創造は十分ではない。一方、ESG(環境、社会、統治)ブームの中、ROEを忌み嫌う一部の経営者も非財務情報のアピールには熱心であるが、日本企業のPBR(株価純資産倍率)はほぼ1倍で推移しており、非財務資本の価値が付加価値として市場から認識されていない。

その背景には、日本市場の長期的低迷、「資本の価値」の低評価、企業と投資家の認識ギャップ、低いROEとコーポレートガバナンスの問題等があり、歴史的文化的要因も含めてきわめて根が深い。近年アベノミクスのガバナンス改革、「伊藤レポート」などでROEは向上してきたが、いまだ道半ばであり、その質が問われている。皮相的なROE経営ではなく長期的持続的な価値創造に貢献することが重要である。
わが国企業には資本コストやROEが十分に理解されていないのではないだろうか。あるいは当局のリードに盲目的に追従して皮相的なROE経営や横並びの配当政策に陥っていないだろうか。一部の投資家のショートターミズムも悪影響を及ぼしてはいないだろうか。

そして究極的には、企業価値は非財務資本から財務資本に転換されて生成されると考えられるが、いかにしてそれを具現化して資本市場の理解を得ていくのか。潜在的には非財務資本の価値がきわめて高いはずの日本企業が過小評価される事態に陥っている現状を打破し、コーポレートガバナンスや財務リテラシー、ESGとそのIR(説明責任の履行)を改善することで、大きな企業価値の向上が図れるのではないか。ESGが救世主になる可能性があるのではないだろうか。
こうした思いでわれわれ3人はそれぞれ啓蒙活動をしてきたが、本書は3人の長年の日本企業の企業価値向上への思いを伝える集大成と言って良い。
――「はじめに」より抜粋

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Posted by ブクログ

日本企業は生産性が低いといわれている。低い理由として、売上至上主義が根強く、利益率に対する意識の低さや、株主不在のガバナンス(政策保有株式が多く、株主の意見が反映されにくい)が指摘される。

また生産性を図るひとつの尺度として、ROE(自己資本利益率)がある。アベノミクス前で日本企業のROEが4%程度だったのが、2014年経済産業省がまとめた報告書(通称「伊藤リポート」)で8%を目指すことが盛り込まれ、その後新型コロナウイルス感染拡大前で8%程度まで上昇した。

しかしながら、その上昇要因はコストカットと円安が大きく、その企業収益の向上が給料に反映されていない(労働分配率が上がっていない)ことから、国民に実感のない景気拡大とも言われる。本来は、企業価値向上としてのROE向上が本筋であり、日本企業はまだまだその道半ば(成長余地があるともいえる。)

加えて、日本企業はリーマンショックや東日本大震災などの様々なリスクに備えて現金を貯めこみがちであり、もしその現金で投資するにしても、その投資判断に対しても海外投資家から懸念を持たれている状況であるため、場合によっては日本企業の保有する現金価値が半分にまでディスカウントされることもある。

これらのことから、本書では、日本企業は「最適資本構成」をそれぞれの企業の特性に応じてもっと考えていく必要があることを強く主張している。
そしてROEを高める方策として配当に振り向けるにしても、最適資本構成に基づく最適配当政策を株主等に説明し、しっかり対話を続けていく必要があるとしている。

また、ROEが会社の価値を適正にあらわしているのか、という議論もなされる。例えばESG(環境、社会、企業統治)、研究開発、人的資本などの非財務価値についてはROEには反映されないが、これを両立させる、あるいは、日本企業がESGとROEの価値関連性を示して潜在的な非財務の価値を顕在化させることができれば、日本企業が持っている価値をもっと高められるのではないか。

これが、本のタイトルである ROEを超える企業価値創造とは何かに結び付く。

筆者三人が、それぞれ異なる立場から、上記に関して丁寧に議論を重ねているが、特に柳氏のエーザイでのCFOとしての、最適資本構成の考え方に基づく配当政策であったり、ESG投資の「非財務価値」を財務価値として説明する所は非常に説得力があり、このような日本企業がもっと増えたら、海外投資家の日本企業を見る目線は必ず変わってくるのではないか、と感じる。

今の日本が、海外企業と比べて何が足りないか、そしてどうしたらよいかがクリアに理解できる本です。

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2022年02月07日

Posted by ブクログ

またまた広木隆好きなので確認。
投資本と思ったら経営者向けの本、巡りめぐって投資家のための本でもあるが。読んだ後で自分の所属する会社のことを検証してみたくなった。
日本企業が過小評価されている理由をデータで丁寧に説明しているが、終章会談にある、要するにプロ経営者が少ないことと、現状で致命的に困っている人が少ない構造が理由。困ってないのに強制されるとどうなるか、手段が目的になる。
『ESGのためのESGではなくて、企業価値創造の為のESG』とは、確かに結論。
統計が少し分からないと辛いかもしれない。分かってても分からない(確められない)部分があり、少し不満。

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2021年05月09日

Posted by ブクログ

柳CFOが主筆者なようで相当に理論書テイストだった。ROEとESGの検討は面白く読めた。海外も日本も資本市場という「共通ルール」とは言うが、村社会論理の日本ではROEを高めるのに労働分配率を下げてやるのが手っ取り早かっただけなのだなと思われた。橘玲氏の煽り的に言えば企業の奴隷としての労働者でもある。自律した個人と言うならばフィナンシャルリテラシー、有り体に言えば投資家としての存在も持つことを真剣に検討すべきだろう。

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2019年03月22日

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