あらすじ
「幸福な暮らし」とは何だろう。昭和どころか平成すらも終わろうとしている今、戦後の占領期の、「開発すれば、大規模なイベントをすれば、遮二無二働けば豊かになる」という考え方が再び頭をもたげているようにも思われる。アメリカ博覧会、国土開発プロジェクト、公害などの歴史をひもとくことで、開発、発展、生産性という言葉が、日本において豊かさや幸福とどのように結びつけられてきたのか、その来歴を考え、現代への警笛を鳴らす。
序 章 「豊かさ」の夢
第二章 アメリカ的な豊かさと展示される事物―空間の地政学
第三章 国土開発、産業化と豊かさへの確信―空間の文化・政治・経済学
第四章 道路開発と豊かさへの幻想―国土空間のネットワーク化と物質化
第五章 性と生―家族計画と身体空間への介入
第六章 物質的豊かさと収奪される身体空間
第七章 港都四日市の輝ける未来と公害―イデオロギー装置としての風景
第八章 豊かさという幻想の虚構性(から目覚める)
終 章 「昭和」を終わらせる力に抗して
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Posted by ブクログ
成長や発展を常に是とし希求する社会の雰囲気に疑問があり、ふと手に取った本だったが良著だった。
昭和の高度経済成長期の只中にあっても、実は国民の中に豊かさを実感していない多くの人たちがいたことを、当時のアンケート資料などを用いながら明らかにしていく。
本の最後の方で紹介された座談会「人間にとって豊かさとは何か」は今から50年以上前に行われた座談会である。その中で公害を例に挙げて、問題点をこう説明した箇所がある。
「いま起こっている新しい貧困といわれている問題には累積化現象というのがありまして、原因が蓄積されてきてある一定の時点まで来ると爆発的に出るものが多いんです。(中略)だから、現代の時点で、未来を売るという場合にはよほど計算して、この国土という空間をこういう形で利用していいのかどうか、相当先まで考えていかなければだめなんですね。(中略)ところが、高度成長の過程ではそこまでを考慮しない。結局、目先のことだけを考えて、蓄積に次ぐ蓄積。」
私たちは未来を売り続けて、今のこの反映した世界を生活している。