【感想・ネタバレ】大江健三郎全小説 第9巻のレビュー

あらすじ

危機にある男を励ます女―『「雨の木(レイン・ツリー)を聴く女たち』。大きな悲哀を負った女性の再生―『人生の親戚』。障害を持った兄との生活を通して家族・社会・時代、人間の未来を考える妹―『静かな生活』。美しい国際派女優をめぐる過去の事件と新たなもくろみ―『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』。女性的なるものの力に宿る希望と再生を主題にした4つの傑作長編小説。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

「人生の親戚」を読みました。
知的障害のある長男ムーさんと、事故で半身不随となった次男道夫君を、自殺で亡くしてしまった女性まり恵さんの話。
到底了解することの出来ないような悲惨な現実と真っ向から組み合い、最期にVサインをした彼女の姿が印象に残った。
彼女の生涯を「了解可能な」物語として書いてしまった著者の葛藤も綴られており、他人の人生を題材に小説を書く人としての誠実さを感じた。

仕事柄だろうか、人に寄り添うってどういうことだろうかと最近考える。
人が抱える痛みや苦しみは極めて個別のものであり、それを理解し寄り添うなど到底できないと思うこともある。しかし、それぞれがそれぞれの人生の問題に直面し、苦しみを背負って生きていると知ったとき、人は「自分は一人ぼっちで苦しんでいるではない」といった、ある種の頼もしさを覚えるのではないだろうか。あなたは私とは全く違う苦しみを抱えているけれども、それに絶望したり、あるいは立ち向かったりして、なんとか生きていこうとしている「人生の親戚」であると分かった時、初めて人に寄り添うことが可能になる。お互いの傷は理解できなくても、傍にいることはできる。

まり恵さんはまり恵さんで、彼女の個別の苦しみを抱えて生きている。それは決して私にとって了解可能なものではない。しかしメキシコの女たちが彼女の懸命に働く姿を見て「人生の親戚」と呟いたように、私もこれから人生の苦難に立ち向かった時、彼女のことを「人生の親戚」として少なからず頼もしく感じるだろう。

0
2024年01月07日

「小説」ランキング