【感想・ネタバレ】教誨師のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

教誨師という言葉、仕事を知らなかった。
死刑執行のとき、僧侶が立ち会うことは知識と知っていたが、これほどのことだとは。

P98
一方で、教誨師の存在が批判されるたびに持ち出される実話。
「自分は冤罪だからと再審を請求しようとする収容者に対しても『これは前世の因縁で、たとえ無実の罪であっても先祖の悪業の因縁で、無実の罪で苦しむことになっている。その因縁を甘んじて受け入れることが、仏の意図に沿うことになる』と再審の請求を思いとどまらせるような説教をする僧侶がいる。こんな世の因果をふりかざして、再審請求を妨げる僧侶が少なくない」
冤罪が確定して釈放された免田栄獄中記の中の文章。

P188
つまり教誨面接では、二度と外の社会に出て気分転換さえ叶わぬ死刑囚たちに、精神的な広がり(空間)を与えるように務めるべきだという。

半世紀もの間、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相。
「わしが死んでから世に出して下さいの」という約束のもと、初めて世間に知らされた死刑制度の現実。
その矛盾と苦しみを一身に背負って生きた僧侶の人生を通して、死刑の内実を描いた作品。

死刑囚に向き合う、ただ一人の民間人である教誨師は、その職務上、他言厳禁。
だからこそ知らなければいけないのに知られていない。
ご苦労が、悩みが多いと思う。
いつか分からない執行の日まで、死刑囚の精神的安定と自殺防止などの大変さが、教誨日誌で垣間見ることができる。
この本を読み、死刑反対、死刑囚に対しての同情が出てくる。その同情してしまう死刑囚の最後を見守る宗教者とは、なんと気持ち的に負担のある仕事であろうか。
スイスにある安楽死をできる施設のように点滴を入れてスイッチを自分で押す、もしくは医者が押す、そのような形に変えていくことはできないのだろうか。
今の形式では、まず見た目にも悲惨さがうかがえる。

渡邉が初めて恩師の篠田龍雄と執行に立ち会った日のこと。
何度も面会を重ね、仏教の教えを学び、写経や読経をし被害者の命日を弔ってきた死刑囚がついに
執行されることとなる。
刑場に立たされた死刑囚が直前になって、上半身をよじり「先生!私に引導を渡してください!」
と篠田に乞う。
浄土真宗に「引導」などない。
しかし篠田は迷いもせず、それを引き受ける。
「よぉっし!!行きますぞ!!死ぬるんじゃないぞ!生まれ変わるのだぞ!」

「喝ーーー!!!」

死刑囚の表情から恐怖が消え、「生まれ変わるんですね」と救われた表情を見せる。
「あんたが先に行くけど、わしもあとから行きますぞ!」
今世では死刑囚だったが、次に生まれ変わるときには、必ず人様のお役に立てる人間に
と願っていたのか・・・。

渡邉も何度も壁にぶつかり、お堂にひっくり返って
「阿弥陀様、わっしは、また(死刑囚に)可哀想なことをしましたぜ・・・」と涙している。
後半、渡邉は自分がアル中であることを告白する。その事実は思いの外、死刑囚たちに受け入れられた。
人は神ではない。
好きで飲んでいる、とは言っているものの、それでなければやっていられないのだろう。

どんな形であれ、人が人の命を奪う(やらされる)ことに深く考えさせられる。

これは、ぜひ多くの人に読んでほしい。

0
2022年11月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 ジャケ買い。全然中身知らなくて、タイトルで買った。
 教誨師とは、死刑囚が最期の時を迎えるまでに、必要であれば面談し、宗教的な面でのサポートをする宗教者。いろんな宗教、宗派の方がいるらしい。こういうのって、やっぱり人間には宗教が必要だからなのかな。自分は全然知らなかった。大杉漣の映画でちらっと聞いたぐらいか。

 一気に読んでしまった。
 教誨師は浄土真宗本願寺の僧侶。真宗の雰囲気が色濃くただよう。著者はノンフィクションの作家さんだし、門徒の方でもないのだが取材し的確に表現するとこういう雰囲気も伝わるものなのだと驚いた。一部どうかなと思うことがないでもなかったけど、これは宗教者の書いた本ではないのだ。
 主人公というべき渡邉師は広島で被爆し、なんとか生きながらえてその後東京の寺に婿に入る。篠田師に導かれ教誨師の道へと足を踏み入れる。
 いま生きている人間は、間違いなく死ぬ。それは誰も変わらない。でも死刑囚は、病気や身体の寿命において死ぬより先に、他人に死刑執行の時を決められて死ぬことがわかっている。そしてその理由は、社会的に許されない犯罪を犯して、社会によって死刑を確定されたからなのだ。
 渡邉師と死刑囚たちの会話。普通なんだ。死刑囚だからと言って特別ななにかがあるわけではない。人間だ。そのことを改めて確認してしまう。
 教誨によってお経を読むようになったり、本を読むようになったり、字を書く練習をしたり。そういう時間をすごしていく。
 やがてやってくる「その瞬間」。自分もこの本を読みながら死刑囚を知ってきたのだ。人間としてのひとりひとりを。そして「その瞬間」を迎える。死の直前の人間とは。この世の誰もが死んだ後がわからない。でも、その直前までを目の当たりにする人がいる。医師や看護師の方は職業上、病から死に至る人をみていくだろう。でもこの死刑執行の場面は如何だろう。渡邉師はみんなで「人殺し」をしていると表現をする。そしてその死の瞬間を見守る。職業上。

 二つのことを思った。
 死を突きつけられた人間にとっての「救い」とはなにか。渡邉氏は宗教にはできない。できるのは人間が人間として向き合うだけ。多分そこからでないとなにも起こらないのだろう。いくら教義を振りかざしたとしても。
 死刑制度って必要なのだろうか。お恥ずかしながらこの件についてはまったく知識がない。でも考えたいと思った。この国に生きる人間としてどうしたらいいのかを自分が考えようと思った。
 自分は「わたしは誰かこころの支えになるためになにかがしたいです」「誰にでもなんでも相談にのります」という感じの人が苦手だ。というか拒否感がすごい。必要とするなにがしかの物質的な支援ならいい。「こころ」ってなんだよと思う。そういう人の話を聞いていると、ご本人に悪気はないのだろうけど「わたしにはできる」という謎の上から目線を感じてしまうのだ。それはあなたが「誰かのこころの支えになってる」って感じたいだけではないのか。誰かのために「今行動している」と感じたいだけではないのかと思うのだ。本当にそうしている人って、そういうことを言わない気がする。
 篠田師も渡邉師もやっていることがすごくても、出てくるのは内省の言葉ばかりなのだ。失敗をした。後悔している。うまくいかない。これしかできない。言葉が出ない。自分の中の感情が出てしまった。その連続なのだ。
 死刑囚には嘘の自分を見抜かれる。そんな緊張感の中、自己開示をしながら他人と対する。すごい。でもこれ、死刑囚じゃなくても日々自分もそうしたらいいのではないかと思うのだ。だって今ここで話をできる人はお互いいずれ死んでいく身だけは決まっているのだから。そう思って日々、人と対するのもいいかもしれないと思う。やってみようかな。失敗しても誰にも気がつかれないさ。

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2021年10月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

“死刑制度”とはなにか、教誨師という立場から知ってみたい、そんな気持ちで購入した一冊。しかし、そういった気持ちを圧倒されるほどの内容だった。
“教誨師の仕事とは空である”そんな一文になんとも言えないような感覚に陥った。死刑について知ったり、考えたりするだけではなく、毎日を生きるうえで躓いたり、どうしようもない悲しみに襲われたときにも作中で説かれている仏教の教えは救いになると思う。
この一冊は生涯手放すことはないだろうと確信した。そんな、一冊。

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2021年06月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本屋で何気なく手に取った1冊だったけどとても衝撃だった。私は祖父が熱心な仏教徒だったこともあり、仏教の教えはとても身近に感じた。教誨師と死刑囚との関わりを通して死刑囚のイメージが変わったとともに命について考えさせられた。母親の存在ってものすごく大きい。育った環境と周りの助けの有無で防げたものが多いと感じた。

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2021年01月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「この話は、わしが死んでから世に出して下さいの」
 
 教誨師という仕事をご存知だろうか。
 死刑囚と唯一自由に面会することを許された民間人。対話を重ね、最後はその死刑執行の場に立ち会う。報酬もなく、精神的にも肉体的にも過酷なボランティアである。
 生とは、死とは。
 法の裁きとはいえ、寿命がまだあるものに強制的に死を与える。
 これを「人殺し」と呼ばずして、何と呼ぶのか。
 約50年間 教誨師の職を担った渡邉普相(わたなべ ふそう)の遺書的作品である。

☆構成がえぐい
 ニュースだけでは伝わってこない死刑囚1人1人の性格を丹念に描き、教誨師との何気ないやりとりで読者を和ませ、親近感を覚え始めたところで死刑執行の現場を克明に記す。
 読者は読み進めるうちに知らず知らず場に引き込まれているため、教誨師と死刑囚の絆が無情にも引き裂かれる瞬間 精神的に大ダメージを受ける。
 特に第5章「娑婆の縁つきて」の篠田龍雄と桜井の最期のやりとりは涙なくして読むことができない。

☆読みやすさ◎
 小説を読むような気持ちで最後まで読める作品。
 ノンフィクション初心者にオススメしたい本。
 ただ、渡邉の少年時代の話は若干集中が切れる。

☆テーマ
 生と死

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2022年10月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

忘れることのない本になると思います。
半世紀に渡り教誨師を勤め上げた渡邉さんには敬服いたします。

死刑執行の場面は自然に手に汗が湧いてくるほど重い。
死の直前のふるまい。緊迫する刑務官。読経の響き。

ロープがギッシギシと音を立てる。

加害者側の背景や死刑執行までの過程が描かれていくが、もしここに被害者のほうからの視点も織り交ぜながら描かれていれば私はどうしても死刑制度はありと答えてしまう…
そもそも、死刑制度について賛成か否定か そんな話ではないくらい深い本でした。 

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2022年11月23日

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