あらすじ
止むに止まれぬ動機から女性たちが犯した犯罪。彼女たちの前に現れたのは、美人画で有名な人気絵師だった。「その美を僕の手で永遠に残してみたい」とモデルを頼む一方、幾重にも隠したはずの罪にも巧みに迫っていく。思いもよらない一点から論理的に真相が導き出される鮮やかさ。「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作家がついに書きえた新たな傑作!
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Posted by ブクログ
「僕には、罪を背負った女の匂いが、見えるのです」
犯した罪を一人で抱え込む美しき女達の、激しく妖艶な業を封じ込めた絵に纏わる連作短編集。
大正時代、美人画で有名な人気絵師・茂次郎の探偵顔負けの推理力が冴え渡る。
男達から理不尽に抑圧され不幸な環境に喘ぐ女達を、苦悩から解放させ救おうと奮闘する茂次郎。
飄々と女達の罪を暴く茂次郎の姿に親近感を持った。
物語の原点とも言える『蜜柑ノ種』の、彼女の選んだ路は切ない。
それは決して赦されるものではないけれど、彼女の望んだ細やかな夢だけは、茂次郎の絵の中で永遠に遺されたのだと思いたい。
この物語はドラマ化したら面白そう。
Posted by ブクログ
伽古屋圭市さん、初読。
大正時代に活躍した画家の、未発表作品を寄贈したいという申し出を受け、学芸員の鷲尾つぐみが目にした美人画は、圧倒的な力を持っていた。
「僕には、罪を背負った女の匂いが、見えるのです」….当代の人気絵師として知られる茂次郎が、モデルとして選んだのは、人を殺めながら、罪を隠して生きる女性たち。
茂次郎は、何故そんな女性たちを題材に求めるようになったのか。
4つ目に配された、冒頭の絵のモデルである雪江の物語で、晩年まで茂次郎の求め続けた…もしくは囚われ続けた女の美しさの秘密が明かされる。
表紙の絵と、帯の文句に惹かれて手に取った。
ミステリというより、不思議譚の趣。
現代と大正時代とを対比させるためか、はじめは擬古文調の文体が気になったり、茂次郎に不気味な冷酷さしか感じられず苦しかったが、だんだん血の巡りが良くなるように読みやすくなり、茂次郎にも魅力を感じられるようになった。
ただ、茂次郎が、雪江に惹きつけられ、彼女を救えなかったこと、彼女の美を完璧に捉えようとすることから、同質の美を持つ女性たちを描き、雪江の娘に完成した絵を託す…という流れからすると、
むしろ雪江と出会った頃の茂次郎が冷たい青年絵師で、晩年に向かって変わっていくのが自然な気がする。
作品の本筋とは関係ないけれど、作者名を書くのに手間のかかること!
そして、主役たる魅力的な絵師の名前が、ぱっとしないこと!
…なんだかちょっと残念。