あらすじ
生きたままの人間を解剖する――戦争末期、九州大学附属病院で実際に起こった米軍捕虜に対する残虐行為に参加したのは、医学部助手の小心な青年だった。彼に人間としての良心はなかったのか? 神を持たない日本人にとっての<罪の意識><倫理>とはなにかを根源的に問いかける不朽の長編。
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Posted by ブクログ
大岡昇平の野火を読んだ時にも思ったけど、自分がそういう場所に立たされたときに自分ならどうするんだろうが常に付き纏う。そして解説で「日本人とはいかなる人間か」っていう問いには、安易ではあるけど「同調圧力」「派閥」ってものに弱いんだなと感じてしまった。
上田ノブという看護婦さん、25歳で嫁き遅れと感じていて、この男でいいから子供がほしいと結婚する描写…戦後70年経っているのにこういう焦燥感みたいなものが今でも残る日本、やはり同調圧力みたいなものは相当根深いのでは?って思う。
そこからの上田さんの人生はたしかに哀しみが深いものだ…お腹の中で子供が死んで、自分がこれから子供を産めないってなったら、放っておいてもいつか殺される捕虜の生体実験を手伝うことに心が揺り動かされるかと言われるとそんなことないだろうな。
このお話に出てくる人たちは戦争によって深く傷つけてられているか、そもそも人間的感情を持たないことに苦悩している人たちで、すでに生きる意味を見失った上で、さらに人間としての尊厳を失くす行為をしていっている。そんな心情のまま極限の状態でそれを断る避けるということは出来ないだろうし、それをやってしまってなお良心の呵責を感じるのであれば、むしろとても清廉な人だし、生きづらいだろうなと思ってしまった。
Posted by ブクログ
あなたにとっての「良心」とはなにか。
生体解剖がどれほどいけないことだったのか、私には分からない。
ましてや戦時中で捕虜を生きたまま解剖するとは!という声が出版当時は聞こえてきそうだが、現代のわたしがこの本を読んだとしても、そのような感想は出てこなかった。
現在でも病理解剖と言うのも行われているし。
生きたまま行うのはうわ、っと思ったが麻酔はかけられていたし、描写であったようにどうせ捕虜として戦争で死ぬならば今後の生きる人のためになるならいいんではないか?っという様なことに納得してしまう自分が嫌になった。
なにか、自分が正しいと心を律するために誤魔化すような能力だけ秀でてしまい本当に考えなければいけないことを考えれていないと思った。
誰かに意見を言われたら「確かにそうだね」とすぐに意見を流されてしまい「良心」が変わってしまうような日本は今そんな世の中になっている気がする。
誤ったニュースが報道されたとしても自分で真意を調べずにすぐに自分の意見を主張する。悪いと思ったら徹底的に批判する。
その後、本当のニュースが流れたとしても前回の自分の意見を撤回することなくまた意見を変えて流される。
そういう自分にならないように意識していかなければならない。
Posted by ブクログ
昔読んだ覚えがあるが、内容はあまり良く覚えていなかった。グロが苦手なので当時もちょっときつかったのは覚えている。太平洋戦争の末期に実際にあったアメリカ人捕虜の生体解剖事件をもとに創作された作品。生体解剖に参加した中の3人に焦点が当てられているが、どの人物も異常性が感じられるわけではなく、きっかけと罰せられないという環境があれば一般的な日本人は殺人にも罪の意識なく参加するのである、という作者の声が聞こえてくるようだ。
戦争だったからみんなおかしくなったのだ、とその特殊な環境に原因を求めようとしても、序盤の勝呂の「これからもおなじような境遇におかれたら僕はやはり、アレをやってしまうかもしれない」という台詞でそんなことはないとくぎを刺されてしまうのである。
登場人物たちがおかしいだけだ、と思おうとしても、今度は最後に戸田が「俺たちを罰する連中かて同じ立場におかれたら、どうなったかわからんぜ。世間の罰など、まずまず、そんなもんや」などと言ってくるのである。
遠藤周作は神を持たない日本人は倫理を内面化できていないということを前の著作でも表現していたが、ここで改めてはっきりとそのことを主題に持ってきた。はたしてそういった傾向は日本人だけのものであるのかは分からないが、自分も同じ立場なら同じようなことをするのではないか、という思いは確かにある。まっすぐに指をさされているような、後味の悪い読後感だ(それが悪い、ということではなく…)。
Posted by ブクログ
戦争犯罪に対し心の迷いを抱く勝呂にフォーカスを当てている物語だが、描写がとてもリアルで目を背けたくなる部分も多々あった。しかし、心情描写を強く読み取れる箇所が少なく、物語としての起伏は少ない印象だった。
Posted by ブクログ
ラストは突然終わる感じ。
戦時中の大きな流れや心が破滅に向かう抗えない状態をタイトルの海に例えた感じなのかな。
アメリカ捕虜を人体実験に参加した勝呂は
現在もその罪の狭間で揺れている状態。
けど、本人も今またやれと言われたらアレをやってしまうだろうと。
人体実験といえばナチスドイツのイメージだったから
日本人のこれは信じられなかった。
まさか生きたまま…あんなことこんなこと…
本当に罪と断絶できるのかなー。
もうその時の環境に置かれないと、誰も何も答えは出せないよ。
その場にいたら、私もねー…
なんで参加したの?断れなかったの?
っていうのは今だから感じれる正常な感情。
続編の『悲しみの歌』も読もうかな。