あらすじ
要求金額は八千万円。人質は東京オリンピックだ――五輪開催を妨害すると宣言していた連続爆破事件の犯人、東大生・島崎国男が動き出した。国家の名誉と警察の威信をかけ、島崎逮捕に死力を尽くす捜査陣。息詰まる攻防の末、開会式当日の国立競技場を舞台に、最後の闘いが始まった! 吉川英治文学賞受賞作
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〈「小生 東京オリンピックのカイサイをボウガイします 近日中にそれが可能なことをショウメイします ヨウキュウは後日追って連絡します 草加次郎」〉
警視総監宛に届いた脅迫状が本物だと示すように起こったダイナマイトを爆破事件が警察幹部の私邸で発生する。時は東京オリンピックを目前に控えた昭和39年。オリンピックの妨害と引き換えに、多大な身代金を得ようとした男は、何故、そんな大それたことを起こそうとしたのか。
ということで本書は昭和の半ばを舞台に、ひとりの犯罪者の肖像を描いた犯罪小説の大作です。分量的には上下巻合わせて800ページくらいありますが、そんな長さは感じない一気読みできるタイプの作品ではないかな、と思います。
東大の大学院でマルクスの研究はやっているが、学生運動とはすこし離れたところにいる〈犯人〉の島崎国男がどういう経緯で爆破テロを起こそうと考えはじめたのか、が現在と過去の時系列を行ったり来たりさせることで明らかになっていく構成が印象的でした。兄の死に対して感じているそこはかとない負い目や、後半にあたる部分なのでぼかしますが、初めて大きな罪に手を染めるシーンや相棒的な存在が啖呵を切って友情を感じさせるシーンなどがとても好きで、気軽に共感できる動機でも人物造形でもないのに、魅力的に感じて、心を寄り添わせてしまいたくなる、そんな作品です。
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吉川英治文学賞
さすが吉川英治文学賞受賞作。奥田英朗作品は伊良部シリーズなど軽いものしか読んでいなかったが、こちらの方が好みだった。
2度目の東京オリンピックとは違い、1964年の東京オリンピックは、敗戦から復興した日本を全世界に見せるということが全国民の悲願となっていた。誰もが東京オリンピックのために、努力して、どんなことをも納得してしまうという、今では考えられない時代だった。外国人に恥ずかしいところを見られたくないと、東京中で工事が繰り広げられ、新幹線、モノレールなどオリンピックに合わせて開業した。その犠牲になったのが、工事に従事する東北出身の貧農たちだった。そこには人権などなく、それが主人公の犯罪へと繋がっていくのだった。
たまに、こんな言葉遣い、この頃したかなと思うところもあったが、概ね当時の空気感が色濃く漂っていた。
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下巻も期待以上の手に汗握る怒涛の展開。熱すぎる刑事魂とどこまでも冷静な国男の対比がラストまで印象的だった。それにしても村田さんのキャラ立ちが際立った。国の威信をかけたオリンピック。そこにかける人たちの思いが様々にぶつかり合っていた。時系列を前後しながら落合さんの目線だったり、国男の目線だったり、魅力的な登場人物と布石を織り混ぜながら最後まで目が離せない最高の物語だった。ラストはやはりそうだよねーという感じかな。
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島崎国男は秋田の貧農の村、政治から捨てられたような地域の出。国男にはスリの相棒、村田がいる。読んでいて村田の言動が愛嬌があって微笑む。いつのまにか国男を応援していた。堪能しました。
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1964年のオリンピックは聖火リレーの見物客として、父の肩車で眺めている写真の記憶
開会式や競技の鮮やかな光景が本当に見たのか、記憶が上塗りされたのかもはっきりしない
その鮮やかさや晴れがましさの裏にさまざまな人間の事情、思惑、犠牲があったんだろうと思わせる作品だった。
その時代、時代の自分の立ち位置からしか、思いを馳せることができないけど、本当は人間の数だけ、嬉しいこと、楽しいこと、辛いこと、悲しいことがあると改めて思った。つい忘れて瑣末な身辺に囚われる自分が情けない。
以下は後日の追加です。
先日、クイズ番組の中で昔の「お宝映像」なるものがあった。 東京タワー建設時の鳶の人たちがまったく命綱なしで移動したり降りて来たりしていて、それを見て出演者たちが、凄いとか怖いとか騒いでいた。 ああ、こういうことか、私も前ならそういう感想で終わってしまってた。だけど、今なら、「この時代この人たちの命がいかに軽んじられていたか。たまたま、誰かが犠牲になっても、(なったかもしれないが、)人知れずうやむやにされていたんだろう」と想像した。
その映像と出演者のはしゃいだコメントが、今だに心にわだかまっている。
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面白かった!
昭和の東京オリンピックに湧く、高度経済成長の頃の日本。先日読んだ『罪の轍』と同じ頃の話でした。
オリンピックを成功させるために、安い賃金で奴隷のように働かされていた人夫。ほとんどが田舎から出稼ぎに来ている人たち。東京は著しく発展していくのに、田舎はその恩恵を受けることなくとても貧しい生活のまま。それに疑念を抱いた主人公が犯行を企てる。
真面目さや家族への優しさが、方向を間違えるとこんな事になってしまうのかと切なくなったけれど、主人公の思いには共感できるところも。
警察の捜査も興味深く、電話さえ稀な時代にどんどん犯人を追い込んでいく捜査は読んでいて息を呑みました。
大きなことを成し遂げるには、それを底辺で支えてる人たちがいることを忘れてはいけないと思った作品でした。
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視点が入れ替わるから、事件が動いてハラハラした後に島崎視点でどう動いてたか分かったりで終始飽きずに一気読み。
当時ほんとにこんなことが起こってたのではないかと思わせるリアルが凄い。
時代だから、連絡手段の確保も伝来役が走るとかだし、警察サイドの状況も今と全然違う。
貧しい人から中央の人へ富が搾取されていく感じもじわじわと実感できて、そりゃ大それたこともしちゃうよねって思わせられる。
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下巻もおもしろかった。
上巻は時系列が前後しますが、下巻はそれもないせいかどんどん進みました。
罪の轍もそうだけど、奥田さんの作品て、どうしてこんなことになってんのーって展開が多い。
間一髪のところで逃げきれたり、とんでもない場面に居合わせて、罪を重ねたり…。
そして、犯人が完全な悪人でないところも。
最後はなんだかせつない気持ちになりました。
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やー、面白かった。。
昭和39年のオリンピック開催を目前に控えた東京が舞台で、オリンピックは先進国の仲間入りをするための国家勢力をかけた一大イベント。
活気付く国民や、変貌していく街の裏には、貧困問題を抱え、過酷な労働状況で働く日雇い労働者がいた。
その実情がとてもリアル描かれていて、いろいろと考えさせられた。
2022年のカタールワールドカップでも、ワールドカップ開催に向けての労働で、かなりの数の労働者が死亡したとのこと。
世界のどこかでは今も変わらずに同じようなことが起きている。
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あれ!?っと思ったら
「罪の轍」のメンバー!
戦後の東京の高度成長期とプロレタリア
主人公の島崎の純粋さと それがだんだん壊れていく様にグイグイ引き込まる
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あまりに面白すぎて、読み始めたらほかのことができなくなる。時間があるときに読むのがおすすめ
これが刺さった人は罪の轍も読んで欲しい〜また五係の活躍がみれます
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テロリストの心情変化を知りたくて、この本に辿り着いた。
読めば読むほど国男が社会の闇に入り込んでいく様子をみて、より深い闇を待つ私と、国男の行く末を案じるまた別の私がいた。
全てがリアルで、実際に島崎国男が存在していそうで。建物の並びもああそうだよなあと思いながら、情景が鮮明に浮かんできた。久々にこんな濃厚な本読んだなあ、という感じでした。
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今、オリンピックを目前とした状況下でのレビューです。
まず、国男はテロリストになるけど、主張は間違えていない。そして、スリの的を射た発言の数々が、同情を促す。
そして、ラスト、国男が撃たれた時、主張が認められなかった時、とても悲しくなった。国男の生死は言及されていなかったが、生きていて欲しい。
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展開が早く、どんどんスピードを上げていく感じでした。
結局島崎はどうなったのか?
真っ直ぐで純粋な青年であった島崎は何かに、憑かれたように前進していった。
切ない気持ちが残りました。
Posted by ブクログ
『オリンピックの身代金 下』。
要求額は8,000万円。
東大生・島崎国男はオリンピックを人質に、身代金を要求する。
東京だけが繁栄し、取り残されつつある故郷・秋田の田舎の農村のために…
一方、警察は死力を尽くして、国男の行方を追う…
国男は…
警察は国男を捕まえることができるのか…
ほんとになぜ⁇
東大生の国男なら、もっとやり方があったんじゃないかと、何度も思った…
こんなことをしなくても…
最後にはうまくいってほしいと…
どこかで生き続ける国男と村田を思い描いていた…
何もなかったかのように…
国男は生きているのか…
生きていてほしい。
ここから日本は高度経済成長に入り、物心がついた時にはテレビも車も普通にある時代だった…
カラーテレビではなかったかも…
あれから60年。
日本は豊かになったのか…
国男が生きていれば、今の日本をみて、何を思うのか…
国男の時代のようにな田舎の農村はなくなっただろうが。
能登半島地震、豪雨からの復興が遅々として進まない能登の市町村をみて、何を思うだろう。
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国男ほど頭が良い青年でも、オリンピックの身代金を要求する行為でしか彼の主張を届ける方法はなかったと感じたのだろうか。結局彼の真意がよく理解できないまま終わってしまった。親の脛を齧って学生運動をしている学生達と覚悟が違うことはわかるが、何者にも捉われないようでいて、あっさりヒロポン中毒には陥っている。国男の心に燃える静かな激情の一端しか垣間見れなかったのが残念。村田はどうしようもない爺さんのようで、国男との友情と絆に温かさを感じる。「今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのと違うか」と言う村田の言葉が心に残る。
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高度経済成長期には、華やかな表舞台で豊かになっていく人たちの裏には、人柱のようになった人たちが大勢居たのだ、という事実を改めて考えさせられました。
SNSが発達した現代、東京2020で甘い汁を吸う輩が大勢居たという事実は、全国民周知のことだと思うが、この時代にもそのような事は当然あったはず。何も知らずに純粋に盛り上がれたことを思うと、知らないという幸せもあるんだろうなぁ。
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令和6年1月1日能登半島で大地震が発生 令和6年7月東京都知事選挙 能登は半年経っても瓦礫の山 ニュースでは能登の惨状よりも都知事選でのくだらないポスターの話題 天気予報でも被災地の気温の話は一切触れず やっぱりこの国は東京だけが日本なのだろうか? 物語の最後 若い二人の会話に東京の”おごり”が詰まって聞こえた
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東京オリンピックは、高度経済成長に代表されるよう日本の新しい時代の幕開けのようなイメージを今まで持っていたが、地域格差や出稼ぎ労働者の過重労働など当時の真の日本の姿をこの本を通して垣間見た気がする。読み進めるとだんだん国男に肩入れしてしまった。
Posted by ブクログ
時点を前後させながら描くスタイルが新鮮で、より一層興味をそそられた。
中でも、開会式当日のやり取りは、緊迫感が伝わり、正に手に汗握る展開。もう少しラストの余韻を楽しめれば、☆5をつけていた。
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東京オリンピック時代の雰囲気がひしひしと伝わってくる。
オリンピックに向けての建設現場で労働しているなか、東京、田舎の差による不平等さなどを感じながら主人公がテロリストになっていく。ただ、共感ができてしまう部分もある。
長編だが、最後まで読ませる書き方はさすが。
Posted by ブクログ
最高に面白かった。
高度経済成長に突き進んでいくきっかけになったオリンピックの存在の偉大さをひしひしと感じた。
設定としてはありえない設定だが、体制を敵に回し庶民の味方然として振る舞う犯人には非常に共感が持てた。
最後の最後にどんでん返しがあれば、言うことなし。
目的のためにすべてを我慢して、受け容れて突き進んでいく姿に心を打たれた。
Posted by ブクログ
罪の轍の刑事達が出てるとは知らず、とても驚きました。(知らずに読んだのも。お恥ずかしい話しですが…)
罪の轍でもそうですが、戦後の日本、特に北国の情景の描き方は、流石だと思います。
現代こそ、都会と地方の格差は無くなっていますが、戦後は、はっきりとした格差ができており、その影響にオリンピック特需があったことは間違いありません。
とても印象的な本になりました。
Posted by ブクログ
上巻に引き続き一気読み。
最後の方のシーンは緊迫感に呑まれ、私自身も手に汗握って読んでしまった。
この時代に生きる人達も多くの苦労があり、不自由があり、悩みがあったのだろうとは勿論思うが、それでもなお「日本が必ず成長している」と感じられる時代を生きた人達を羨ましく感じた。
Posted by ブクログ
国男の真っ直ぐさは心配になりつつもどこか応援したくなり、下巻で警察から追われる身になってからは手に汗を握る展開が多くさくさく読み進められた。フィクションなので、聖火台爆破、北朝鮮への逃亡もやり切って欲しかった気持ちもある。
村田との関係性もよかった。
最後はとてもあっけなくて少し物足りない。
すごくボリューム感のある上下巻!
Posted by ブクログ
社会の闇を暴くタイプの小説が好きな私にはたまらなかった!
読んでいて、ああこれ撃たれるやつだなって感じつつも逃げ切れ国男と思う自分もどこかにいた。
いい意味でボリューミーでエネルギーを使うお話なので、まとまった時間がある時に読むことをおすすめします。
Posted by ブクログ
群れを成さず身勝手な単独爆破予告をするテロリストに、警察庁と公安が立ち向かう話、として読んだ。
テロリストに同情したり感情移入する読み方もあるのだろうが、虚無というか何も感じさせなくて、オリンピックに向かっていく華やかさやお祭り気分との真逆さを感じた。
ラストに向かっての追う側の組織力と追われる側の知略の駆け引きが見所。村田さんのセリフや親心にはグッときた。
Posted by ブクログ
当時はまだ生まれていなかったけれど、戦後急成長した日本でのオリンピックがどのような意味をもっていたのか。どれだけ期待されていたのか。そしてその陰で多くのプロレタリアートたちが命を削りながら働いていたこと。すごくリアルに想像できた。
題材もかなり面白かったし、時代背景の描写も素晴らしかった!
Posted by ブクログ
真面目な東大生が罪を犯すまでの心情変化が良く絵ががれており、読み応えがあった。奥田英朗のサスペンスはいつも終わり方が物足りないが、人間の心理描写を描くのはとても上手い。ただ毎度ながらオチが弱い。
Posted by ブクログ
1964年、東京オリンピックが控える日本を舞台にした爆破テロ事件を起こす青年の話。当時実際に起きた草加次郎事件を参考に描かれた作品です。
東京大学院生の島崎国男が兄の死をきっかけにオリンピック工事の日雇い人夫となり、貧しい労働者層の過酷さを知る。華やかになる東京開発の一方で使い捨てされる労働者層に疑問を持ち、日本を相手取ってテロを企てるお話。
これから発展していく期待を持った日本人の感情、一方で地方での残る貧困やそれに対する労働者層の感情が詳細に描かれており、自分の親、祖母の世代の当時の感情などに興味を持つきっかけになりました。
聞き慣れない言葉が多く最初は慣れないですが、慣れると奥田英朗ワールドが広がって読みやすかったです。
ただ、テンポが悪いところがいくつかある点、終盤の島崎や村田視点での語りが少ない点は少し残念。みんなそこが読みたかったのでは?と思ってしまいましたが、自分で想像することにしますmm
戦後日本がもっと知りたくなり、同じ時代背景の他の本も読んでみたくなりました!