あらすじ
大きな仕事。されどそいつは曰わく付き!
デビュー作以来、鳴かず飛ばずで、うだつのあがらない脚本家・竹田雲太。
ある日、そんな彼の元に大きな仕事が舞い込んで来る。
だが、その作品はテレビアニメの放送後、何かとトラブル続きな作品の劇場版だった。しかも依頼してきたのは竹田の宿敵とも言える制作会社の極悪プロデューサー。何かあるとは察しつつも、生活のため背に腹はかえられず引き受けることにした竹田。
そんな彼のところに「お兄ちゃんが貸したお金を返せ」という少女が押しかけてくる。彼女は、かつて竹田の相棒だった男の妹である佐江だった。
ただでさえ曰わく付きの作品の脚本を書くことになって大変なのに、騒がしい佐江がやってきてパニックになる竹田。
しかも佐江は、竹田の言う業界で生き残るために必要な「大人の事情」などお構いなしに、視聴者側のストレートな正論でことごとく竹田を論破する。
仕事では振りまわされ、家に帰れば佐江に振りまわされ――。
だが竹田は、佐江のそんな理想論に振りまわされていくうちに、かつて相棒と共に戦っていた頃の情熱を取り戻していく。
厳しい現実に押し潰されながらも夢物語を書き続ける男の、再起と情熱の物語、開幕!!
※「ガ報」付き!
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
〇ラノベと思えない、痛快・真面目仕事マンガ風ラノベ!
この本こそ、作品中に出てくる作品のようにマンガ・アニメ化されてもよいのかもしれない。
情景がつぶさに浮かぶ。
実写脚本を得意とする筆者の、四冊目の小説作品である。
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主人公の雲太は、ネットで叩かれるほどのクソ脚本家。亡くなった相棒・近雄からの言葉を胸に書くもヒットが飛ばせない。そんな雲太に、かつての上司・辻骨から仕事の依頼が。有名作家の本をアニメ化するという。一念発起して脚本づくりに向かうが、プロデューサー、監督、編集者からの要望が多岐にわたり雲太を苦しめる…!
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現役の脚本家が、「若手に脚本家を目指してほしい」として書き上げたこの小説。
脚本家のお仕事の特徴をよくとらえているのだと思う(わたしは脚本家ではないが、そう感じた)。
脚本家がどんな人のどんな言葉を聞かなければならないのか、原作とそれを面白くみたい層に向けた改変、そのことへの苦悩、無茶ぶり…
きっとますもと先生もご苦労なさっているに違いない。
脚本家のお仕事紹介小説という一面を備えているとみなしてよいだろう。
そしてなんといっても話の運びがドラマタッチで頭のなかで映像化しやすいのがよい。
あまり読者に委ねることなく平易な描写で語る。
そしてテンポのよさと相まって読後もすっきり。思わぬ「フォールポイント」の登場に驚いたが、はじめは唐突な印象のある佐江も、徐々に存在感を増して最後は書かせない人物になっているということに気づかされた。
(あまりライトノベル系文芸を読まないのだが、これはライトノベルの特徴なのだろうか?)
既刊も、実写脚本も、ますもと先生の作品が気になった一作だ!
Posted by ブクログ
鳴かず飛ばずの脚本家竹田雲太は人気アニメ劇場版の脚本を担当することになったが、それは極悪プロデューサーにより曰く付きとなった作品だった。しかも調子のいいだけの映画会社プロデューサーや、原作者の熱烈信者である編集者などからの突拍子もない注文の数々によりプロットは二転三転させられるのだった。しかもそんな雲太の元にかつての相棒の妹が押し掛けてくるのだった。
実に王道真っ直ぐな物語でした。無理難題を押し付けられて四苦八苦しながらもアイデアで乗り越えていく姿。傍若無人に見えて主人公を見守る少女。絶体絶命のピンチと一発逆転。悪い奴はわかりやすく悪く、しかし主人公の周りには主人公を支え助けてくれる仲間がいる。
そこに脚本家のお仕事小説としての側面も備えているわけです。そもそも脚本とはどういうものなのか、どのように仕上がっていくのかということを見せながら話は展開します。しかしここではあくまで脚本家である主人公の物語。そこに特化して限定して見せているのです。だからアニメ作品がどのようにして作られるかまでには至らないのです。
しかし実用書ではないのだから脚本家になるためにはだとか、アニメ制作の全てみたいな内容である必要はないのですね。これを読んで何かものを作り出す喜びを感じられれる人も出てくるのではないでしょうか。そういう面白く感じる部分こそが大切だと思うのです。
脚本作りも無理難題を突き付けてくる人たちへの挑戦という形をとっているため、雲太が作品自体やファンのことよりもおエラい方々の方しか見ずにいるように思える部分も多々あります。しかしそれは「大人の事情」と言うものにがんじがらめになっている姿。書き進めていくことによって雲太が昔の情熱を取り戻し、自分が書いた脚本としての愛着も持つようになる。そこもまた王道真っ直ぐな物語として楽しみました。