あらすじ
「大和の誇り忘れるべからず」。師は若き今村勤三にそう書き遺し、天誅組と共に散った。やがて明治。奈良県は廃藩置県に伴う統廃合で大阪府へ吸収合併され、災害復興も地価見直しも後回しの屈辱的扱いを受ける。師の無念と民の怒りを受け、勤三は大和再独立に立ち上った。近代化の陰に隠された地方の闘いに光を当てる維新秘話長篇。
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Posted by ブクログ
書き下ろし
大和国安堵村の庄屋の家に生まれ、府県統合の過程で堺や大阪に吸収された「奈良県」の分離のために力を尽くした今村勤三の伝記的な小説。
13歳の時、幕府を倒そうとする天誅組の挙兵が奈良であり、学問の師が参加したが破れ、「大和の誇り忘れるべからず」という書き付けを残して処刑されたが、勤三は終生この書き付けを肌身離さず持ち、生き方の指針とした。
大阪中心の府政で、奈良の水害の手当が充分にできないことで、分県の請願を東京の政府や高官たちに働きかけて、家産をつぎ込んだために、田畑を売って愛媛県の官吏となって鉄道事業に力を尽くすが、内閣制度や国会ができるなかで、総理大臣にまで会い、ついに奈良県の分離を果たす。
のちに、新聞や鉄道、紡績事業まで手がけるが、息子の同級生の富本憲吉の絵の才能を見いだして支援する。謙吉が渾身の作品を勤三の死の床に届ける最後の場面は感動的だ。
時代に振り回されつつ、これだけひたむきな人生を生きた人はうらやましい。
植松三十里の筆力は直木賞級だと思うのだが。