あらすじ
持ち主の居所や生死が判明しない土地の「所有者不明化」。この問題が農村から都市に広がっている。空き家、耕作放棄地問題の本質であり、人口増前提だった日本の土地制度の矛盾の露呈だ。過疎化、面倒な手続き、地価の下落による相続放棄、国・自治体の受け取り拒否などで急増している。本書はその実情から、相続・登記など問題の根源、行政の解決断念の実態までを描く。
はしがき
第1章 「誰の土地かわからない」――なぜいま土地問題なのか
1 空き家問題の根源――森林・農村から都市へ
2 なぜ管理を、権利を放置するのか
3 法の死角――あいまいな管轄、面倒な手続き
4 下落する土地の価値――少子・高齢化、相続の増加
第2章 日本全土への拡大――全国888自治体への調査は何を語るか
1 死亡者課税による“回避”――災害とは無関係の現実
2 相続未登記、相続放棄の増加――土地に対する意識の変化
3 行政の解決断念――費用対効果が見込めない
第3章 なぜ「所有者不明化」が起きるのか
1 地籍調査、不動産登記制度の限界
2 強い所有権と「土地神話」の呪縛――人口増時代の“遺物”
3 先進諸外国から遅れた現実――仏、独、韓国、台湾との比較
第4章 解決の糸口はあるのか――人口減少時代の土地のあり方
1 相続時の拡大を防げるか――難しい法改正と義務化
2 土地希望者を探せるか――管理・権利の放置対策
3 「過少利用」の見直しを――新しい土地継承のあり方
参考文献
あとがき
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Posted by ブクログ
空き家問題から派生して、この本。
空き家対策の解決が難しい理由の一つとして、日本における登記制度の不完全さがあるのです。
それは、日本における不動産所有権の登記は効力要件ではなく対抗要件にすぎないことから、相続時における名義変更が義務ではないこと。
そんなことから、50年以上名義が変更されておらず、登記簿上の所有者がこの世にいないということは珍しくありません。
また、自分がそういった土地を相続されていること自体を知らなかったり、自治体の固定資産税事務の担当者も、不在地主の相続人を探すことに費用と時間がかかってしまいます。
そしてこの問題は、解決の糸口がないままどんどん拡大していってしまうのです・・・
この本で言いたいことは「第4章 解決の糸口はあるのか」でまとめられているので、そこを読むだけで本書の意図は伝わります。
自治体アンケートの結果は、その基本知識に厚みを持たせるためのもの、という位置づけでしょうか。
ワクワクするような話題ではありませんが、こんな問題が日本に残ったままでは、地方創生の足かせになることは自明であると感じました。
Posted by ブクログ
東京財団の研究員による所有者不明土地等、現在の土地の管理に関する問題について述べた本。国による不動産登記制度に問題があるため所有者の管理が不完全となっており、納税、災害対策、再開発等の行政や事業に不具合が生じている。しかしながら、個人の利益や権利とも大きく関係するため誰も改革しようとしないことが、最大の問題点であることがよくわかった。
「固定資産税は、市町村税収の約4割を占めている」p52
「(アンケート結果)土地の納税義務者数に占める死亡者課税の人数比率は、6.5%。約200万人と推定される。免税点未満も含めると7.4%、280万人」p63
「公共事業目的以外で土地の寄付を受け付ける自治体はないことがわかった」p83
「(受け取らない土地事例)「公的利用が見込めない」「個人の都合によるため」「権利関係に問題あり」「維持管理が負担になる」「原則として受け取らない」」p85
「(地籍調査のまとめ)国土管理の基本情報で「地籍図」と呼ぶ。不動産登記法第14条1項に基づくため「14条地図」とも呼ばれる」p95
「(地籍調査進捗率(2016年))全国52%、京都8%、三重9%、東京23%、大阪10%。沖縄、佐賀は99%」p96
「(2010年4月1日現在)全国法務局に備え付けられている図面は約681万枚。うち284万枚は「地図に準ずる図面(多くは戦前の土地台帳の付属図で、明治時代に作成された和紙に毛筆で書かれたものもある)」」p98
「(筆界未定)合意が取り付けられていない土地の界で、地番が「+(プラス)」記号で表示され「筆界未定地」と記載される。筆界未定地は分筆できないため、不動産物件としての価値が下がる」p102
「売り手と買い手が合意すれば、測量をせずに公図の面積でも売買は成立する。売買契約書には「公簿面積とする」と記載」p105
「土地売買は、農地以外は売買規則はない。農地については、農地法に定めがあり、所有権の移転に当たっては事前に農業委員会の承認が必要」p121
「市街化区域と市街化調整区域は、それぞれ国土面積の4%と10%にすぎない」p123
「利用の見込みがなく、買い手もつかない土地は、手放そうにも「行き場がない」のだ」p155
「(土地の所有者等の情報)不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳、さらに国土利用計画法にもとづく売買届出などによって把握されている。しかし、台帳間の情報連携はない」p166
Posted by ブクログ
空き家問題に興味を持っていたので手に取った。主に不動産登記にかかわる「所有者不明」問題について、制度的、構造的、歴史的な視野を踏まえた問題提起、また全国888自治体への調査で事態の切迫さを織り込みながら、漸進的で現実的な解を模索する。200頁弱とは思えない内容の充実さにおどろき、そしてその問題の重さに身をつまされた。必読。
Posted by ブクログ
所有者不明地の増加問題について、コンパクトにまとめられている。
発刊が2017年と少し古いが、現在も状況は悪化の一途だろう。
2024年4月に相続登記が義務化されたが、現在の所有者不明地を減らせるわけではない。また、自分が相続人になったことを知らない人や、相続財産に不動産があることを把握していない人も多い。
登記制度の問題、諸システム間の情報連携不足、公共団体のリソース不足、晩婚・非婚化、地価の低下等の問題が重なっている。
士業にも何かできることがあるのではないか、と思ってしまう。ビジネスにはならない気はするが…。
Posted by ブクログ
身につまされる。三代さかのぼるだけでもひと騒動なのに、その間になんかわけのわからないイベントでもあった日には。土地の値段が上がる前提のシステムは難しいなあ。
Posted by ブクログ
少子高齢化が進む現代における土地の「所有者不明化」の増加問題について様々な視点から論じている。
特に現行の不動産登記制度についての問題点(相続登記が申請義務無し等)は大きな課題と思う。先延ばしにせず、早急に国として改善検討すべきだと思う。
正直、国家として土地についての統一的なデータベースが無いというのが信じられない。我々市民の認識が薄いことも一因なので、本書は非常に有用な気づきを与えてくれると思う。
Posted by ブクログ
■問題1
・行政が現在の土地の権利者が誰なのか把握できておらず、徴収できたはずの固定資産税収入が失われている
・土地開発の際に現在の権利者が分からず、その調査が難航するため土地の整理や開発が進まない
■事例
・六本木ヒルズの開発時、対象となる六本木6丁目は権利未確定の区画も多く残っており、境界調査だけで4年を要した。
■原因
・相続手続きをするメリットが殆ど無い一方で、手続きが非常に煩雑である
・権利者が死亡した際、死亡者が所有する土地の所在地の自治体に通知されず、また個人情報保護の厳格化のため戸籍上の自治体への問い合わせも煩雑化している。また何世代も前から登記がそのままだった場合、相続資格者全員の確認が必要になるが、明治の代まで祖先を遡って現在生存している権利者全員とコンタクトを取る必要があるなど、法制度が現実的でない。
・権利者が海外在住であったり、投機目的で外国人から別の外国人へ売買されていたりと、権利者が多様化しており現在の権利者を調べようにも追い切れない。外国人も権利者になりうるのでマイナンバー制度で一元管理するわけにもいかない。
・特に地方では自治体側に調査する余裕が無く、調査結果として得られるであろう固定資産税の増収はそれほど多くはない。
■問題2
・権利者が不要な土地を手放したくても引き取り手がいないため、固定資産税を払い続けなければならない
■原因
・利用価値の低い土地は売れない上に、自治体も不要な土地は払い下げる傾向にあるため寄付を受け取らない
■解決事例
・ランドバンク:各地域で権利者が不明な土地や権利者が不要に感じている土地を積極的に取得し、地域内で有効利用できるように支援する機構
■その他
・土地の権利者を確定させるために明治期まで祖先を遡って、相続権がある子孫全員とコンタクトを取る必要があるとなったら、その土地を取得することにどれだけメリットがあっても諦めるよなあ。
・地方だけでなく東京など都市部にも多く見られる問題らしい。
・日本は諸外国に比べ土地の私的所有権を強く認めており、土地の公共的性格に基づく所有権の制限をしづらい雰囲気があるらしい。
・手続きが面倒臭い問題、相続とかで調査コストが肥大化してしまっているについては法制度の改正で解決するしかないし、土地に対する私権をもう少し制限する方向で運用しても良いんじゃないかなあ。
おしまい。
Posted by ブクログ
土地の所有者不明化問題を中心に据えた課題研究を上梓したもので、政策提案がすぐに行政の変革に繋がらないもどかしさを感じる。現在の土地登記制度が税制と切り離され、相続登記が義務化されていない現状を変えるには、相当な荒療治が必要かと思う。業務用の参考図書を読んできたことで、本書の内容の理解が進んだ。
Posted by ブクログ
土地の所有権の登記が怠られている結果、所有者不明の土地が多数存在する。
その根源には、地籍調査が一向に進んでいないことがある。特に都市部の地籍未調査面積は40%近い。
Posted by ブクログ
所有者不明の土地がなぜうまれ、何が問題なのか詳説している
そもそも日本の法律では土地に対する財産権などの観点から所有者の権利が強く
所有者が同意しないと公共の目的であっても利用は難しい。
その一方で登記の手続きは煩雑であり、また特に地方では土地の価格はタダ同然のところもあり
登記が義務ではないこともあり相続に伴う登記が行われないこともままある。
登記が行われない場合には土地は相続人により共有され
2代、3代と登記されないまま土地が相続されると所有者の数は鼠算式に増える場合もある。
上述のような問題の解決としては
登記の手続きの簡素化、手続きコストの引き下げ
土地所有者に関するデータベースやネットワークの整備
所有者不明や所有者不在の場合に地方自治体や国が公共の目的のために
効率的に土地を利用できるための権利関係などに関する法整備などが必要である。