【感想・ネタバレ】[実践]小説教室 伝える、揺さぶる基本メソッドのレビュー

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Posted by ブクログ

「海燕」「野生時代」の元編集長で、島田雅彦、吉本ばなな、小川洋子、角田光代、瀬名秀明らの作家デビューに立ち会った著者による小説指南書。著者は現在、小説教室を開き、多くの生徒を教えているそうです。そのなかには、芥川賞をダブル受賞した若竹千佐子さんと石井遊佳さんもいらっしゃったようです。

僕も小説を書きますが、ふだん、原稿を書くことについて話をする人が、オフラインでもオンラインでもいないので、たまにこういった本を読むと、原稿書きの知己や先輩が得られたみたいな、そんな気持ちになり、楽しくなります。

書いてある内容は、どれも腑に落ちます。こういった指南本では、「ほんとうにそうかな?」とか「ちょっと自分の感覚とはずれてるな」とか、自分でもある程度経験があるのに、その外側にあってよく理解できない内容の言葉が書かれていることがあります。理解するように努める、というより、自分の持ち場からぴょんと飛ぶようにして信じてみるしかない、というような種類の言葉です。しかし、本書は、どれも、自分の経験に照らしてみて「わかるなあ」と思えるし、そのちょっと先を行く内容のものも、自分の経験の延長上から逸れていないことが直観でわかるものだったりしました。だから、僕にとって、信用できる小説指南本だったのでした。

本書は三部構成です。「1.小説とは何ですか?」「2.書いてみよう」「3.読んで深く味わおう」、全てわかりやすい文章で書かれていますが、でもそれぞれが歯ごたえのある中身です。小説の文章と正しい文章は違うこと、平叙文が正解ではないこと、小説家に向くタイプなどから始まり、小説のテーマとはどんなものか、書き出しが大切なこと、人称の説明、リアリティについてなどから書くときのポイントを教えてくれ、最後に村上春樹、綿矢りさ、山本周五郎らの作品の解説をしてくれて、小説のその読みの深みに触れられる仕掛けになっていました。

さまざまな面から小説を書くことについて述べられていて、すべて覚えていたいくらいなのですが、なかなかそうもいかないものですから、本棚のとりやすい位置に立てておいて、その都度ページをめくり直したい本です。

では、以下の引用をもって終わりにします。

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いい小説を書くには、言葉の組み合わせから作る描写、叙述、文脈のなかで、あなたが表現したい原物を、ほんの感触でもいいからつかまえて書くよう努めることです。あなたが操る言葉と、あなたの内面的真実の距離を、文脈の中でどうにかこうにか近づけていくのです。
それが小説を書くという営みであって、それをやりおおせたときに初めて、納得できる作品が生まれるのです。(p71)
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小説とはもちろん、作為的なものです。むしろ作為の産物といっていいでしょう。
作家の仕事は、その作為が自然に見えるように書くことです。するとそこにリアリティが生まれます。作為を自然に見せることこそ、小説に求められる技であり、言葉の技なのです。(p74)
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ただ一つ言えるのは、短編小説を書くにはものすごいエネルギーが要るとうことです。それには相当なエネルギーがなければなりません。短編小説のすぐれた作品に、小説家が若いときに書いたものが多いのはそのためです。(p78)
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(小説を書くことによって)ものの見方、考え方に深みが出てきて、生きていること自体が楽しくなってくるのです。(p223)
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というところです。本書は、小説を読むのも書くのも、より深く楽しめる道のりを歩むための、その地図でしょうか。おすすめなのでした。

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2023年04月02日

Posted by ブクログ

小説を書き始めたのは中学生の頃だった。当時はホームページ制作が流行としていて、漫画や小説を読むことが好きだった私もその流行にあやかり、読む側から書く側になりたいと考え、創作活動を始めた。

しかし、最近になって今更ながら「人は何故小説を書くのか」「良い小説とは何なのか」ということに疑問を持った。
問を持つと解決できるまで悶々と悩み続けてしまうのは私の駄目な癖だが、この本をもってそれは全て解決した、と思っている。
むしろ、疑問の解決だけではなく「小説の読み方・書き方」まで知ることが出来たため、本当にこの本は私にとって非常に嬉しい出会いだった。

心に残っているのは『小説を書くという作業は、世界の"外"に身を置くということ。さすれば、自分という人間が世界を構成する一個人だという事実にも気づいてくる』という文章だ。
このような感覚は、まさに創作活動に着手した中学生時代から、もっというと"小説"に執心し始めた小学生の時からあった。
それから10数年後の今、曖昧に違和感に感じていたこの感覚が、著者によって表現して頂けたような気がして、非常に嬉しくなった。

私はあくまで趣味として創作活動を行っているため、プロになろうという夢はない。
しかしながら、小説を書くこと・読むことがやはり私の人生を豊かにする一つの道具なのだと、この本を読んで改めて確信した。
小説とはまさに、【もう一つの人生】である。

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2019年05月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これは小説を書きたい人のための本であることは間違いないけれど、この本に出合って以降、小説の読み方が明らかに変わってきた。
読みたくなってしまった本もたくさん!

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2018年05月04日

Posted by ブクログ

酷評したくなった本を読んでから感じていたモヤモヤの解き方を、この本を読むことで教わった気がします。
読まないと書けない、書けないと読めない。書くと読み方が変わる、深くなる。
小説とは何か、その分類について。いざ書くときの方法や心構え。小説の四つのポジションからの読み方。実際の小説を、こう読み解くという実践。
なるほどなるほどとワクワクしながら読み進められました。ふせんも挟みまくり。
編集のプロが教える、伝わる、揺さぶる基本メソッド。著者の小説教室を覗かせてもらえて、ラッキーな一冊。方法にとどまらず、一人ひとりの存在を肯定し、人生を励ましてくれる側面も。読めてよかった。

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2020年12月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

印象的な箇所のまとめ。

・読者を日常から脱出させる書き出しになっているかどうか。
・吉本ばななは、読者の頭の中に「空間」を作ってほしいという気持ちがあるそう。
・小説の中で何かを描写するのは、そのものと「私」との関係を書くことに他ならない。書き過ぎない、空間に読者を誘導する。スプーンを描くとする。日用品として見ているのか、高価な品として見ているのか、思い出の宝物として見ているのかで描写は変わってくる。
・宝くじで1000万円当てた話がさらっと出てきて、他の生徒が「そんなことはふつうありえない」と指摘した。自分が実際に宝くじで1000万円当ててしまうと、小説にリアリティを与えにくくなる。読者にとってはそこだけ浮いているように感じられる。本当であろうと何だろうと、真に迫る書き方に手を抜いてはならない。
・アドバイスは言っても伝わらない。生徒本人がある日突然、あやまちに気づく時がある。その後は、文章が見違えるように変わる。

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2018年04月30日

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