【感想・ネタバレ】五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年12月07日

五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 

三浦英之氏による著作。
2015年12月20日第1刷発行。
著者は1974年6月26日神奈川県生まれ。
京都大学大学院卒。朝日新聞記者(2000年入社)。
東京社会部、南三陸駐在、アフリカ特派員(ヨハネスブルグ支局長)を経て福島総務局員。
一言で言うと力作...続きを読む
他のレビュワーの方も書いていたが、よくぞ間に合ったなと。
(卒業生たちが80代半ばで証言を聞き取れる最後の機会の為)
本書はTwitterのボヴ@cornwallcapital氏が2018年末に
今年一番良かった本として紹介していて存在を知った。

時代のうねり、変化にこれほど翻弄された人たちがいたのだ。
*もちろん建国大学卒業生以外も相当に大変だっただろう。
戦後、日本の国策大学の関係者ということで迫害を受けた者も多く記録として残されることを恐れた。
約1400人の出身者の内、生存が確認されているのが約350人。
安否さえつかめていない者も多い。
著者が建国大学を調べる際に国際基督教大学(ICU)の宮沢恵理子氏が1997年に博士論文として出した「建国大学と民族協和」)風間書房
2002年になくなっていた湯治万蔵(建国大学出身)が編集した建国大学年表(非売品)の存在も大きい。
宮沢恵理子氏とは直接合って話を伺うことが出来た事は大きい。
本書は建国大学の卒業生達、過去の研究などの蓄積無くして
完成することは無かっただろう。
*それだけに研究の積み重ねの重要性を痛感した。
本書では特に中国人卒業生のインタビューが出来なかった場面、途中で中止になった所が残念だ。(長春包囲戦の所)
中国共産党に不利な部分は取材させないという姿勢は北朝鮮やかつてソ連と何一つ変わらないのだ。
いかに経済発展したとは言え、中共の現実を嫌という程に理解できた。
モンゴル、韓国(建国大学出身者が重宝された)アルマトイなど他の出身者達のインタビューは無事出来ているだけに余計に中国の無慈悲さが目立つ。
アルマトイで最後に通訳をしてくれたダナさんの日本留学の推薦を著者が書く事になった場面は大変感動的で胸が熱くなる。
本書はドキュメンタリーでありノンフィクションではあるがこうも胸にこみ上げてくるものを抑えることができなくなるとは・・
三浦氏の執筆力の高さにただただ驚いた。
読み手を引き込む力がある三浦英之氏には今後も良い記事、良い本を世の中に出して欲しいものだ。

印象に残った部分を列挙してみる

人の人生なんて所詮、時代という大きな大河に浮かんだ小さな手こぎの舟にすぎない。
小さな力で必死に櫓を漕ぎ出してみたところで、
自ら進める距離はほんのわずかで、結局、川の流れに沿って我々は流されていくしかないのです。誰も自らの未来を予測することなんてできない。
不確実性という言葉しか私たちの時代にはなかったのです(P84)

楊が担当していた中国東北部の農村部には無数の日本人移民村があり、どこも同じような光景が繰り広げられていた。日本人が経営していた工場や農業施設はソ連兵によって徹底的に略奪され、女たちは老婆を含め、ソ連兵からの強姦を恐れて自ら頭を丸刈りにしていた。それでもソ連兵たちはある日突然押しかけて、納屋の隅に隠れている女性たちを数人で襲った。
同じ村で暮らす日本人はもちろん、近くで暮らす中国人たちもソ連兵の行為を止めることができなかった。戦争に負けるということはこういうことなのだ、と楊は泣き叫ぶ日本人たちの姿を見ながら胸に刻んだ。(P134~135)

中国政府はある意味で一貫していた。

《不都合な事実は絶対に記録させない》

戦争や内戦を幾度も繰り返してきた中国政府はたぶん、
「記録したものだけが記憶される」という言葉の真意をほかのどの国の政府よりも知り抜いている。
記録されなければ記憶されない、その一方で、一度記録にさえ残してしまえば、後に「事実」としていかようにも使うことができる
戦後、多くの建国大学の日本人学生たちが、「思想改造所」に入れられ、戦争中に犯した罪や建国大学の偽善性などを書面で残すよう強要されたことも、国内の至る所でジャーナリストたちに取材制限を設け、手紙のやりとりでさえ満足に行えない現在の状況も、この国では同じ「水脈」から発せられているように私には思われた。
そして、その「水脈」がどこから発せられているものであるのかをそのときの私は建国大学の取材を通じて経験的に知り得てもいた。
建国大学の卒業生たちの取材を通じて私が確信したことが一つある。
それは「小さな穴でも、大きくて厚い壁を壊すのには十分だった」という事実だった。
「小さな穴」とはもちろん「言論の自由」をいう概念を意味した。
建国大学が学生に認めた「言論の自由」は、やがて中国人や朝鮮人の学生たちに物事を知ろうという勇気と現状を判断させる力を培わせ、反満抗日運動や朝鮮独立運動へとつながる確固たる足場となっていった。
「知る」ことはやがて「勇気」へとつながり「勇気」は必ず「力」へと変わる。
そんな「知」の威力を誰よりも知り抜いているからこそ、国家がどんなに巨大化しても「最初の一歩」に赤子のように怯え、哀れなくらいに全力で阻止する(P171~172)

「現場の状況を知るには、現場の人間に聞くのが一番手っ取り早いのでね。組織を通して報告を受けているだけでは、本当の所は何もわからない」(P234 辻政信)

0

「ノンフィクション」ランキング