【感想・ネタバレ】軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘いのレビュー

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Posted by ブクログ 2023年07月23日

2005年に起きた福知山線脱線事故。
脱線してマンションに列車が突っ込み、見るも無惨な様子で横たわる様子を今でも覚えている人は多いと思う。
この事故で100名以上の命が失われたわけだが、そのある遺族が遺族という枠を超えて、JR西日本と一緒になって本気の組織改革を成し遂げる様子が描かれている本である。...続きを読む
この事故はたただのヒューマンエラーではない…以下の4つの要因が複雑に絡まり合って起こってしまった、偶然ではなく必然的に起こった事故だと訴えている。
① 高速化を追求しすぎたが故の無理なダイヤ編成
② 非常ブレーキ蔵置(ATS-P)の設置遅れ
③ 安全管理体制
④ 日勤教育(過度な罰を与える不適切な社員教育)
この4つの問題も最終的に根っこは同じところに行き着くわけだが、それが旧国鉄時代に培われてしまった隠蔽体質である。この組織風土が一番の問題だった。
自分も比較的大きな会社に勤めているので、組織風土が簡単に変わるものだということは良くわかっている。これを事故の遺族とともに変えていく姿、取り組みというものは非常に心打たれるものがあった。
今でこそ、不適切な社員教育やヒューマンエラーを責め立てるような犯人探し、吊し上げ的なことをする会社は少なくなってきていると思うが、このJR西日本の事故後の歩みがその一翼を担っていることは間違いないだろう。
失敗することを攻めるのではなく、失敗することを前提にしてシステムや環境、ルールを整備していくことの大切さを改めて感じた。
組織に属する人間であれば、読んで損はない本だと思う。非常に勉強になった。

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Posted by ブクログ 2021年10月21日

事故で大切な人を失った遺族について生々しい現実を教えてくれた。読んでいて本当に胸がつまる思いだった。同時に当時のJR西日本という企業に対しての不信感も込み上げてくる。

不幸にも遺族となった浅野氏の懸命な行動が凝り固まった官僚主義の企業に変化をもたらした。自身も辛い中にあっても「遺族の責務」といい、...続きを読むここまでの事をやってのけた。

安全と利益追求のバランス。鉄道会社には強く求められること。安全なしでは鉄道を走らせる資格はないが、安全に投資するためには稼がなくてはならない。そのバランスを崩すと事故が起こる。安全が最も重要なことは当たり前なのだが経営者にとってこの両立は難しい事なのだろうと思う。

しかし、安全に対する意識を磨くことは金がなくても出来る。本書で語られた元トップ井出氏の安全に対する考えは、現在の鉄道業界では非常識である。ヒューマンエラーは起こるものという前提に立たなければ事故は決して減らない。その前提がなければ人がミスしないでやれば良いの一言で片付いてしまう。だとするとヒューマンエラーをバックアップするハードメンの投資も行われるはずもない。

鉄道マンは決められたことを正確に行うことを常に求められている。一方それを逸脱する事を躊躇してしまう。しかし、異常を感じた時、安全に対して不安に思った時、勇気を出してそれができるか。それができる鉄道マンであって欲しい。

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Posted by ブクログ 2021年07月25日

組織論として読んでいて引き込まれる。
失敗学、リスクマネジメントなどとよく言われるが、これをすればよいという対策はなく、時代ごとに変わる対策を常に取り続けていかなくてはならない。
また、やらなかったからと言って悪さが顕在化することは小さい。そのため、効率化の名のもとに考えることが許されず、重要性も理...続きを読む解されない。
最後の章まで読み応えがあり、そして憂鬱な感覚が残った。予防的な処置をすることは、人の直感とは相容れない部分なんだろうな。

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Posted by ブクログ 2020年07月19日

2005年JR西日本福知山線脱線事故で、妻と妹を失った浅野さんをモデルに、事故を起こした運転士よりもその会社体質正すことに費やした10年間。重大事故の対応として江戸の大火の昔から変わらずの個人責任追及主義、無関係者からの誹謗中傷を読んで憂鬱になった。

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Posted by ブクログ 2020年01月23日

2005年4月25日に発生した、あの福知山線の事故。
あれはやはりJR西日本という企業が生み出した事故
なのでしょう。

通常、事故といえば個人の過失やシステムの故障、
車両などの整備の欠陥に行き着きますが、あの事故
に関しては違いました。

間違いなく組織が起こした事故であることがこの本
から理解...続きを読むできます。

その責任をJR西日本に認めさせ、改善させるまでの
闘いがこの本に記されています。

誰もが当事者になりうる事故です。背筋を伸ばして
読むべき一冊です。

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Posted by ブクログ 2019年12月14日

電車の中で若い人が、「昔関西で大きい自己があったらしいよ」という話しをしているときにふと、これはそんな前だったかと思い、思い返して書物を手に取った。当時、一歩違えば乗り合わせていた偶然に震撼した記憶がある。その実態の一つ一つを社会問題として、自分の心に刻める本。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年10月15日

この事故の遺族の働きにより大企業が大変革を遂げた。
人の犠牲が無ければ安全度が上がっていかないのはとても悲しいが。
ヒューマンエラーはつきもの。それをどのようにしたら減らしていけるのか、
自動運転等の技術開発もされている現代社会の大きな課題だとも感じた。
TV東京系の番組で会社社長が取り上げているの...続きを読むをよく見るが、どこまで本当なのだろうかとも考えさせられた。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年12月03日

2018年「「Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞」ノミネート作品今年を含め今までのベストに入るルポタージュの傑作組織論、危機管理、社会学等いろいろな視点で読み取れる「軌道」の複数の意味が感慨深い旧国鉄の労使問題については管理者の立場としては井手の視点に立ってしまう

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Posted by ブクログ 2019年09月06日

大変不勉強なんですが、福知山線脱線事故というと「日勤教育」と井出天皇のイメージしかなく、その後に遺族とJR西にこんな事実があったことを全く知りませんでした。
本書は遺族の一人、浅野弥三一にスポットを当て、彼の視点での事故顛末を追っている。科学技術の使命、遺族の責務、問題の社会化視点、確率論の異議(フ...続きを読むァクトを読み解く視点)、安全と経営の両立、という凡そ遺族とは思えない冷静な立場で巨大組織に挑む姿は神々しささえ感じました。特にそんなもの無いだろうと思われる「遺族の責務」に固執し続ける姿勢には心打たれるものがあります。
主人公に負けず劣らず、筆者の展開力・構成力・筆力も感嘆ものです。ノンフィクションの素晴らしさを堪能できます。
元神戸新聞記者は素晴らしいノンフィクション作家を誕生させる孵卵器のようですね。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年01月25日

タイトルの通り、福知山線の脱線事故後のルポルタージュです。特筆する点は、一つに遺族の一人、淺野弥三一氏の側からの視点で書かれていること、その淺野氏がJR西日本に対する責任追及よりも、JR西日本と一緒に今回の事故を検証して再発防止に繋げていけないかを模索した点です。紆余曲折ありながらも、最終的には、J...続きを読むR西日本、遺族側、第三者機関が同じテーブルについて、話し合いが行われることになりました。可能な限り冷静に客観的なデータに基づいて議論していく姿勢に感銘を受けました。また同時に「遺族の責務」という言葉が重くのしかかってきました。

リスクアセスメントの考え方によれば、ヒューマンエラー、今回の件で言えば、運転士のスピード超過がカーブを曲がり切れず脱線に至ったわけですが、それは「原因」ではなく「結果」とします。もっと大きな視点に立って組織風土や環境要因など様々なファクターが複雑に絡み合って、今回の「結果」が生じたのだと。日本は昔から個人にその責を負わせる風潮があるようです。もちろんヒューマンエラーが主要因かもしれませんが、現代社会では事件・事故が大きくなればなるほど、その原因は複雑化します。個人に「原因」を集中させることは、ともすれば、複雑化した原因解明を遠ざけてしまう可能性があります。

淺野氏は事故で妻と妹を同時に亡くしました。遺族としての辛い気持ちや葛藤も抱えながら、一方で氏のエンジニアとしてのプライドをもって事故の本質を詳らかにしようと、何度もJR西日本と交渉を重ねます。その姿勢はJR西日本を糾弾するのではなく、問題をオープンにして、一緒に考えていこうという非常に成熟した発想に思えました。

3者で開催された「課題検討会」のオブザーバーであった柳田邦男氏がその報告書に寄せた一文があります。
「私はこの社会に人間性の豊かさを取り戻すには、被害者(1人称の立場)や社会的弱者(同)とその家族(2人称の立場)
に寄り添う視点が必要だと感じる。『これが自分の親、連れ合い、子どもであったら」と考える姿勢である。もちろん、専門家や組織の立場(3人称の立場)に求められる客観性、社会性の視点は失ってはならない。そういう客観的な視点を維持しつつも、被害者・加害者に寄り添う対応を探るのを、私は『2.5人称の視点』と名づけている。課題検討会におけるJR西日本の遺族たちに対する応答の仕方に、私は『2.5人称の視点』に近づこうとしている姿勢を感じた」
柳田邦男氏の『犠牲(サクリファイス)ーわが息子・脳死の11日(文春文庫)』の中では1人称、2人称、3人称の死について述べられていました。相反する発想や価値観、立場を自らのうちに留めて、決して安易な結論に流されないよう、その葛藤に身を置く姿勢と解釈しています。それが、本質に近づける手段のように思えます。

著者は元神戸新聞の記者で、現在はフリーランスです。文書構成もさることながら、非常に読みやすく、その文章力についつい引き込まれていった部分も否定できません。秀逸なルポルタージュには間違いありませんが、史実を元にしたドラマのような感動も覚えました。

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Posted by ブクログ 2019年01月21日

 事故後13年以上もたって、初めてこの事故についての詳細な事実を確認することとなった。とにかく安全システム、安全設計について多くを考えさせられる本。リスクアセスメントの学習を始めたところで本書を知ったのは良かった。まずは浅野氏の凄さにひれ伏すのみ。せめてその足元でもがける程度にはなりたい。
 本書に...続きを読む示されるJR西日本安全フォローアップの資料をJR西日本のサイトから入手した。こちらもじっくりと読んで学習し、今後の糧としたい。

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Posted by ブクログ 2018年12月06日

インフラを扱う一人にとって、吉村昭著の高熱隧道に並ぶ、重要な作品となった。
淺野氏及び事故被害者の方々には心からの追悼の意を表すると共に、淺野氏の行動に、大きく心を揺さぶられた。
JR西はもとより、社会インフラに関与している全ての人が、本書から訴えられる安全に対する意識を持ち、何度も反芻しながら業務...続きを読むに従事することが出来れば、と思う。
この気持ちを拡げて周囲を巻き込む事が、淺野氏や著者への恩返しになるのではないか。
終わりなき旅だが、不断の努力はきっと意味がある。

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Posted by ブクログ 2018年11月12日

【2本のレールが交わるところ】2005年4月25日に発生し、107名の死者と562名の負傷者を出したJR福知山線脱線事故。当初の会社側の無機質な対応に風穴を開け、JR西日本と共に事故の原因究明と安全対策に乗り出した遺族を軸に、事件のその後を描いた作品です。著者は、神戸新聞の記者を経てフリーランスで活...続きを読む躍している松本創。

月並みな表現ですが、組織や社会の根幹はやっぱりどこまで行っても人なんだなと教えてくれる一冊。JR西日本と遺族との話し合いを通じ、読み手の側も、組織論や危機管理論を超えて幅広い教訓を得ることができるかと。

〜「被害者と加害者の立場を超えて同じテーブルで安全について考えよう。責任追及はこの際、横に置く。一緒にやらないか」〜

事前の前評判を裏切らない素晴らしい作品でした☆5つ

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Posted by ブクログ 2018年10月12日

【あらすじ引用】
乗客と運転士107人が死亡、562人が重軽傷を負った2005年4月25日のJR福知山線脱線事故。
妻と実妹を奪われ、娘が重傷を負わされた都市計画コンサルタントの淺野弥三一は、なぜこんな事故が起き、家族が死ななければならなかったのかを繰り返し問うてきた。
事故調報告が結論付けた「運転...続きを読む士のブレーキ遅れ」「日勤教育」「ATS-Pの未設置」等は事故の原因ではなく、結果だ。
国鉄民営化から18年間の経営手法と、それによって形成された組織の欠陥が招いた必然だった。

まだ記憶が十分に新しい福知山線の脱線事故。既に14年も経っていたんですね。
脱線した上にマンションに突っ込み、多くの人命が失われた前代未聞の大事故でありました。
東京でも2000年に営団地下鉄で脱線衝突事故が有り、5人の人命が失われました。人数で比較するものではありませんが、福知山線では107人の命が失われるという未曽有の大事故でした。
当時のニュースを思い返すと、運転手の暴走でカーブを曲がりきれなかった事によるものという印象でした。ともすれば、個人のミスによるものであるという認識が有ったかもしれません。
しかしこの本を読むと、JR西日本の企業としての負の蓄積が噴出した起こるべくして起こった事故であったとわかります。
井出会長が良くも悪くも剛腕で牽引し、赤字を出さない為に叱咤してここまで持って来たという自負、また崇め奉る事により誰も意見を言えなくなり、現場サイドの危険への意識を吸い上げることなく、ひたすらトップダウンでしかない一方通行の経営方針が現場の考える力、判断力を奪った。
ミスに対して懲罰を与える事により、ミスを隠ぺいする体質が根深く出来上がってしまい、小さなトラブルの内に危険の萌芽を摘み取る事が出来なかった。
収益重視の経営方針を推し進めた事によって、車両の増加、高速化を推し進め、それに比して安全対策がなおざりになっていた。

そんな事故に家族が巻き込まれる事になった浅野氏は、都市開発、計画を長年に渡って手がけてきた人物です。事故に遭われたのは非常に気の毒では有るのですが、彼の妻子がこの事故に巻き込まれた事によって、JR西日本という会社の問題点が浮き彫りになり、最終的に同社の今の姿があるのだろうと思います。ある意味JR西日本の大恩人とも言えます。

懲罰ありきで個人に責任を帰する風潮というのは、もしかして日本の根本的な問題なのではないかと思いました。スキャンダルにマスコミだけではなく一般市民まで群がり吊し上げ、責任を取らせるのではなくひたすら追い詰め辞めさせる。そして根本的な原因は置き去りになる。重大な問題がどんどん深い所に隠されていくのではないかと懸念されます。
この本でも書かれていますが、ヒューマンエラーというのは原因ではなく、結果なのでさらに遡った要因を見つけなければ解決しないと思います。

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Posted by ブクログ 2018年08月26日

被害者遺族の代表の一人浅野氏に寄り添う形で,丁寧に聞き取り調査をして,JR西日本の体質歴史に切り込んでいるのは見事.ただ批判するだけではなく,これからどうすれば事故を防げるかにポイントを置いて,身勝手な井手天皇をも冷静に分析している.福知山脱線事故の本は興味があって何冊か読んでいるが,これが一番心に...続きを読むグッときました.

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Posted by ブクログ 2018年07月19日

建物の1階部分にひしゃげた車両がめり込んでいる。脱線事故とは
言え、これはどういう状況なのか。2005年4月25日に発生した
福知山線脱線事故のニュース映像だ。しかも、テレビ画面に映し
出されていた車両は2両目だった。

この事故で妻と妹を失い、次女が重傷を負った都市計画コンサルタント
...続きを読む野弥三一氏が巨大組織JR西日本を相手に組織としての原因追求と
安全対策の改善を求めた記録が本書である。

淺野氏は被害者遺族であり。被害者家族である。その人が被害者感情を
優先するのではなく、組織事故としてJR西日本に真摯な対応を求める。

誰もが出来ることではないと思う。大規模事故に自分が、または身内
が巻き込まれたのなら、私だったら被害者感情が先に立ち安全の確立
を求めることまでには考えが至らないだろうと思う。

国鉄の分割民営化後のJR西日本が優良企業となって行く過程、その
なかで育まれてしまった上に物が言えぬ組織風土。それをJR西日本
自身に見つめ直されるのには、事故後に社長に就任した山崎正夫氏
の登場を待つしかなかった。

残念ながら山崎氏は自身の不祥事と福知山線脱線事故での在宅起訴
で社長の座を去ることになったが、彼がいたことで淺野氏たち被害者
組織との対話の実現への突破口になる。

あの事故を運転士個人の責任として済ませてしまうのは却って簡単なの
だろう。では、何故、ヒューマンエラーが起きるのか。その背景を洗い
出した記録として本書は貴重な作品だと感じた。

一貫してJR西日本の組織的責任を追及し続けた淺野氏は勿論のこと、
JR西日本関係者の多くに取材し、丹念に描かれた良書である。

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購入済み

一気に読んだ。

2018年05月12日

国策を成し遂げたプライドが人命より高い人間に、
リスクアセスメントの考え方は届かないのだろうか。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年11月05日

JR西日本の福知山線脱線事故。
平成17(2005)年4月25日のこの事故を知らない人も多いだろう。
けれど私は今でも覚えている。
テレビで見た、マンションに激突して大破した列車を。
どうやったら線路を走る電車がマンションに激突できるのか、どうしても理解できなかった。

これは、妻と妹をこの事故で亡...続きを読むくし娘も重症を負った、淺野弥三一(やさかず)氏の、被害者感情をひとまず横に置いて、事故の原因を究明し、再発防止策をJR西日本と考えていくまでの闘いの記録である。
もともと淺野氏は都市開発・都市計画を生業としていたのだけれど、その時に軸足は計画をする側ではなく生活する人の側に置くことを決めていたのだという。
だから雲仙普賢岳の噴火の際や阪神淡路大震災など多くの災害復興にもかかわってきた。
そんな淺野氏が、今度は当事者として、JR西日本に事故原因を究明し、再発防止を促すのは遺族の責務だと思った。
なんと強い人なのか。

JR西日本はあくまで運転士個人のミスであるとの見解を崩さなかった。
それこそ何年も。
しかし、人的ミスは結果でありそのミスを引き起こしてしまった原因こそが問題なのだということを、遺族たちのネットワークグループの要求だけではなく、各国の事故検証なども踏まえたうえで対応を変えていく。
聞く耳を持とうとしていく。

分割民営からのJR西日本は、利益追求、効率重視路線のうえ、会社に君臨するひとりの存在があり、ある意味独裁状態だった社は、ものをいうことのできない風通しの悪い職場だった。
井手正敬という発足時の副社長(事故当時は会長)、ゆるぎない権力者が頑なにヒューマンエラーを口にすれば、それが遺族の心を逆なでしようとも、社を挙げてその路線に進むしかなかった。
そんな中、多分尻拭いさせるつもりで、JR西としては初めての技術者出身の社長が現れる。

山崎正夫は遺族と直接話をすることで、会社の膿を出し、エラー防止のシステムを構築する方に舵を切る。
人事も経営も知らない、右腕もいない山崎は、結局途中で社長の座を追われるような失態を犯してしまうが、彼の残した方針を基に、少しずつ会社と遺族が対話をしていく様は胸が熱くなる。

組織は違えど私自身、個人で話すといい人なのに組織を守るためには冷酷な振る舞いをする人たちを身近に何人も見ている。
だからこの山崎氏の行動や、そのあとに続いた人たちはすばらしいと思う。
結果、ある程度の安全対策は行われたのだけれど。

安全ではない列車に乗りたい人なんていないのだから、経営する立場としても安全は重要だ。
が、当たり前になってしまった安全には、注意を払われないことが往々にしてある。
社員一人一人の維持していく努力なしに安全はない、ということが忘れられてしまいがちだ。
最後に書かれた新幹線の異音・異臭事件がそれを物語る。

1951年の列車火災事故。ドアが開かず乗客が脱出できなかったため100人以上の死者を出す。→非常ドアコックの設置が義務化
1962年、脱線多重衝突事故により死者160人、負傷者296人を出す大惨事→ATS(自動列車停止装置)の設置
2001年ホームから転落した人を救助しようと2人が飛びありたところに電車が侵入し、3人死亡→ホームドアの設置

当たり前のように設置されている安全のための設備も、こうした事故がきっかけになっている。
起こしてはいけない事故ではあるが、起きてしまったらそれを二度と起こさないようにするのが起こした側の義務だ。
それは、個人に責任を転嫁して厳罰を与える、ということでは決してない。
そんなことをしても事故はなくならないということを訴え続けた淺野氏をはじめとする人々の胸の内を思うと、頭が下がる。

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Posted by ブクログ 2021年03月07日

2005年4月25日、JR西日本管内福知山線で起きた脱線事故のノンフィクション。

奥さまと妹を亡くされ次女が大ケガを負った、淺野氏。事故直後から、事故や遺族に対するJR西日本の姿勢に疑問を持ちはじめる。

そして私的な感情は差し置いて、真っ正面から巨大組織にぶつかり、組織の問題点を浮かび上がらせ体...続きを読む質改善にまで導いたノンフィクション。

これまで個人の問題として精神論で捉えがちだった事故原因を、収集・科学的分析を加え「ミスは起こりうる」という前提で組織の再構築を促していく。

これを時系列にまとめ、淺野氏のそれまでの仕事の仕方とシンクロさせ、なぜそこまでの情熱を維持して巨大組織を変えることができたかを分析している。

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Posted by ブクログ 2020年07月23日

福知山線事故の遺族、JR西日本との闘いを追ったノンフィクション。

人的責任ではなく、企業本体の闇に光をあて
改善していく長い長い闘い。

ヒューマンエラーで片付けてはいけないという事が、良くわかる。

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Posted by ブクログ 2019年09月01日

2005年4月発生したJR西日本福知山線の車両脱線事故。107名の犠牲者を出す戦後最悪クラスの列車事故の原因は、JR西日本の組織風土にあるのではないか。

その検証のために、一個人として巨大なJR西日本に立ち向かい、気が遠くなるような対話を経て、徐々にJR西日本に自らの組織の問題を直視させた遺族がい...続きを読むた。妻と妹を亡くし娘が負傷した都市計画コンサルタントの淺野氏という男性がその人である。本書は彼に長年寄り添ったライターが、彼の10年あまりに及ぶ長い闘いを描いたノンフィクションである。

本書では、JR西日本が組織風土が問題の一因であるということを直視するまで、あくまで運転手という一個人の適性やヒューマンエラーが原因であるということが示される。そこから、いかにヒューマンエラーを起こさせないような組織風土、起きてもリカバリー可能な鉄道運行システムをどう構築するかという認識の変換が発生するわけで、JR西日本という極めてディフェンシブな大企業を動かした背景に一遺族の行動があるということに驚かされると同時に、淺野氏の「事故に対する怒りと原因究明を切り分ける」という常人にはなかなか真似ができない思想が突破口となったことがよく理解できる。

一つの企業が自らが見たくない現実を直視し、そこから変化を遂げるということはどういうことなのか。グロテスクなまでの組織防衛の生々しさも含めて、本書は大組織で働く人に対して、様々な思いを抱かせてくれると思う。

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Posted by ブクログ 2019年07月15日

福知山線脱線事故の被害者の目線から事故を追ったルポ。

事故で、妻と娘を失った淺野さんは、JR西日本を感情的に弾劾するのではなく、二度とこのような事が起こらないように、事故が何故起こったのか、二度と起こさない為にどうすべきか、というスタンスで西日本に接する。

民営化による利益追求。阪急など強い私鉄...続きを読むとの熾烈な競争。過激なサービスの向上は結果として、安全面を犠牲にする事になる。

資本主義、利益追求のなか、人の命を預かる基幹業務との安全性をいかに意識しなければならないか。

官僚的な大規模な組織は硬直し、現場でも責任の所在は曖昧に。失敗すると個人が責められる。

最近はヒューマンエラーを責めない会社が増えて来ているとの事。
人はミスを犯すものだからこそ組織的な安全の仕組みが必要だ。

何よりも前半の事故の生々しい描写、悲惨な様子に衝撃を受ける。

筆者は長年淺野さんの近くに居たとの事。
だが、そんな筆者も淺野さんのスタンスを図りかねてこの本をどうまとめれば良いかわからない時期があったとの事。

想像もしなかった事に出会い、一瞬で大切なモノを失う。
当事者としても整理がつく事はないのでは、と思う。
その中で今までの活動の延長で事件と向き合う。
社会性の面とプライベートのどうしようもない喪失感が、カオスの様に個人の中でも渦巻いてあるような状況なのではないのだろうか。

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Posted by ブクログ 2019年04月09日

ニュース映像を見て絶句した福知山線脱線事故。事故のその後と、その要因を被害者家族の一人を起点に書き上げたノンフィクション。
こういった大企業が起こした事故についてのルポは犯人が誰かということに終始することが多い気がするけれど、本作では趣が異なる。
もちろんJR西日本が当事者として一番の責任があるのは...続きを読む間違いないけれど、被害者遺族にもこの事故を社会化させ、二度とこのような惨事を引き起こさないようするために会社と一丸になって問題の抽出と事故の教訓を引き出すのが責務があるとしている。
妻と妹を失いながら、そのような冷静な判断と行動ができる本作の遺族に畏敬の念を感じる。
ニュースでは懲罰的な日勤教育ばかりが問題視されていたと思うけれど、ことはそれほど単純ではなく、会社の成り立ちや地域性、国の政策等が絡み合った結果このような事故が引き起こされたのだと気付かされた。

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Posted by ブクログ 2019年01月22日

死亡者数107人、負傷者数562人を出した福知山線脱線事故を題材にしたノンフィクション。
著者は、元神戸新聞記者で現在はフリーランスのライター。
この事故で最愛の妻と妹を失い、娘が重傷を負うという悲痛な体験をした都市計画コンサルタントの淺野弥三一氏の「肩越し」に、淺野氏ら遺族会とJR西との闘いを追っ...続きを読むた書です。
この種の本は、加害者(ここで言うJR西)を断罪して終わることが多い。
だが、本書はそうではありません。
JR西を真に安全を最優先する組織に変えようという淺野氏に共感し、そこからブレずに文字通り1つの軌道を走ります。
はじめは通り一遍の謝罪でその場をやり過ごし、事故の責任を運転士1人に負わせたJR西。
だが、淺野氏ら遺族会の粘り強い交渉で、利益重視偏重や極端なトップダウンなど組織的な問題であることをJR西に認めさせます。
そして、遺族会とJR西が同じテーブルに着き、お互い納得のいく、合理的で実効性のある安全対策を立案するに至るのです。
そこがまずもって本書の大きな読みどころでしょう。
これは、淺野氏ら遺族会の地道な努力によるところが大きい。
ただ、それだけではJR西という巨大な組織を変えることは難しい。
実は、事故後に社長に就任した山崎正夫氏の存在が大きかったと本書は指摘します。
事務屋の指定席だった社長ポストに、技術屋として初めて就いたのが山崎氏。
同じ技術屋として、淺野氏も「話せる相手」として山崎氏に信頼を置きます。
これが先述した安全対策へと結実するのです。
いろいろと考えさせられる逸話です。
懲罰的な日勤教育は、実は事故の抑止にはほとんど効果がないなど、安全について考えるうえでも本書は非常に有用です。
ぜひ多くの方に読んでいただきたい1冊です。

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Posted by ブクログ 2019年01月06日

あの日のことは、覚えているが、事故の原因追求を被害者が中心となってやっていたとは知らなかった。時々利用する乗客としても色々と考えさせられた。

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Posted by ブクログ 2018年11月19日

遺族を少し変わった視点から描いたドキュメント。
妻と妹を亡くし、娘は重症。
考えただけで気が遠くなります。
読み応えが重すぎて読むのが辛くなるほどです。

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Posted by ブクログ 2018年08月07日

 テスラの自動運転の死亡事故は、本来ブレーキをかけるべき運転者が前を見ずにスマホいじっていたのが原因だ。
 交通業界にいる身としては、お粗末すぎると思った。

 自動運転の技術革新が目覚ましく、世界中で開発競争が激しい。
 この新技術での遅れは、その国の科学技術が世界から遅れることに直結している。
...続きを読む ということは理解している。

 翻って鉄道業界は、外部からではほとんど分からないほど変わらない技術だ。
 だがもし、テスラの事故と同じことを鉄道がやらかしとすると、社会の目は自動運転とは比べ物にならないほど大きい。
 トライ&エラーとか言ってられない、100%の安全が求められるのが鉄道業界だ。
 だから、新技術もひたすら何年もモニターラン・コントロールランを繰り返して、ようやく世に出せる。
 世に出るころには、すでに技術的には遅れていても必要なステップだ。

 13年前、107人の死亡者を出した列車脱線事故。
 平成の世にこんなことが起こるのか日本ヤベーなと思っていたが、鉄道業界の技術部門に入った身としては、起こりうるというのが現在の認識だ。 
 死亡者数の裏には、表には出てこない残された人たちの人生が隠れている。
 突然に家族を奪われた怒りと絶望がある。

 次はうまくやります。トライ&エラーです。なんてことを、人を殺すことがある業界は言ってはいけない、考えてはいけない。
 絶対安全じゃなければいけないのだ。

 便利、コストダウン、技術革新、未来の技術、そんな目先のきれいごとで交通業界が守るべき安全をないがしろにしてはいけない。
 新システムが人を殺す。
 技術者はそのことに恐れなければいけない。

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Posted by ブクログ 2021年03月06日

最悪の大事故の原因は、企業風土・膠着的な組織がもたらした?

【感想】
 なぜ、福知山脱線事故は起こってしまったのか。それには、JR西日本の膠着的な企業風土が起因していた。短期的な賞罰教育と、常に内向きの理論で意思決定を行ってしまう大企業。そのために、過去にあった事故から、再発防止の仕組み・育成方式...続きを読むを作り上げることができていなかった。自社の責任から目を背け、外部や特定の個人に問題を擦り付けようとした。作中に筆者も取り上げているが、まさに「失敗の本質」で語られているような、旧日本軍的な空気による支配・意思決定が横行する組織となってしまっていたのである。107人もの死者をもたらした未曽有の大事故は、その空気的な企業風土が最悪の結果として結実したと言える。

【本書を読みながら気になった記述・コト】
■大企業の組織的風土を変革していくことの難しさ。保守的になり、社会や消費者のことに目を向けられなくなる難しさ

■家族の大切さ。福知山脱線事故によって、大切にしていた家族を突然失った。家族のハブとなっていた母が亡くなってしまい、子どもや夫の関係性がより希薄になってしまった。家族の中に暗い影が落ちたこと

■事故でパートナーを失った女性が、後追い自殺をしてしまったこと。大切な人を亡くす辛さ。誰にでも起きうることだが、本当に辛く、苦しいものである

■独りで生きていく寂しさ、辛さ。最後は皆独りで死ぬことになる。そのこtに、どう向き合うか

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Posted by ブクログ 2020年11月03日

仕事のために読んだ本ですが、一つの大企業のノンフィクションとして非常に読み応えがある。

遺族の苦しみと企業の論理が対峙する、それは企業にとって支援者であったはずの利用者が被害者となることで裏切りとなって強烈に跳ね返る。

いくら原因を追求しても癒されないことは分かっているけど、追い求めずにはいられ...続きを読むない被害者。それが企業人にも一個の個人として正面から向き直る愚直さが突きつけられる。

サラリーマンという不思議な生態に疑問を感じさせる一冊。

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Posted by ブクログ 2020年03月13日

ある日突然自分の肉親を失わなければならないような事故に遭遇した際、どのようにその事実と向き合い、その事実をどう自分の中で咀嚼して行けばいいのかということは、実際にそのような事実を目の前にした者に突きつけられる大きな難題であろう。
ましてや、その事故を起こした加害側がひときわ大きな組織体である場合は、...続きを読むどのようにそんな組織と向き合っていけばいいのか、肉親を失った悲しみも手伝って感情的になりがちな状況で、正常な判断などなかなかできるものではないということは想像に難くない。
それでも、「何が鎮魂になるのか」ということをひたすら自身に問い続けることによって、巨大な組織とどう向き合ってきたのかという事実、そしてその巨大な組織に改革を実行させたという苦闘がここには記されている。

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Posted by ブクログ 2020年02月18日

安全を守るために、ヒューマンエラーを企業が認め、それを社内に浸透させる難しさ。
遺族だが感情を一旦横におき、事実解明・今後への対応に全力をあげる被害者と、我関せず主義の加害企業の中から、共同調査を始めた社長。
非常に読み応えあり。

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