あらすじ
憲法改正を争点に総選挙が行なわれようとしている。安倍内閣は、9条に自衛隊の存在を明記することを目論んでいると言われる。それはそれで必要なことかもしれない。しかし、その前に議論すべき重要な問題がある。わが国は戦後70年以上にわたって、自衛隊を「軍隊ではない」としてきた。その反動で、国民は軍事的な問題を考えることから隔離されてきた。民主主義国家における政治と軍事の関係――欧米諸国でさえ、この問題は常に緊張感をもって、日々研究されている。われわれは、その修練なしに、いきなり軍隊を持ってはいけないのである。
筆者は、東日本大震災のとき、統合幕僚監部運用部長という、自衛隊の作戦全体を考えるポジションにいた。そして、自衛隊の使い方をまったく理解していない政治家とのやりとりに、疲れきった経験をした。その体験からスタートして、アメリカ、イギリスで研究を続けた成果が本書である。
栗栖弘臣統合幕僚会議議長の解任、田母神俊雄航空幕僚長の解任、スーダンPKO日報事案、ダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官の解任、ジョージ・マーシャル元帥とフランクリン・ルーズベルト大統領の信頼関係、コリン・パウエル米統合参謀本部議長の湾岸戦争における判断、アフガン増派問題におけるマイケル・マレン米統合参謀本部議長の悩み、リビア、シリア内戦におけるディビッド・リチャーズ英統合参謀総長の判断、東日本大震災における折木良一統合幕僚長の判断など、生々しい具体的事例をもとに、理想的な政軍関係を提案する。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
読みやすく、分かりやすい本だった。
ちょっぴりほめ過ぎ?みたいなところもあるにはあるけど、完璧な本なんてないのだし、自分が勉強すればいい話なのだ。
よくある、言いたい方に誘導するためというのがよく分かる軍事ものとは違い、システムの作りや考え方が説明されているから、すっと入ってくる。変に数字化され羅列されるより、納得できるのは、数字遊びを知っているからだろうか(笑)
この本を読むまで、正直なところ、文民統制とはこういうものなのだ、という事が、私も分かっていなかった。
民主主義についても、その一端を垣間見れて、今の日本の民主主義はまだまだなのだと思った。というか、民主主義を勘違いしていた。怖い怖い。
こういう本をきっかけにして、軍隊と政治の関係を学びたくなるから、もっと読まれればいいのになと思う本。
Posted by ブクログ
空将で退官した元自衛官の著者が政軍関係について述べた本。
日本においては政軍関係の重要性がよく認識されていないことを問題提起し、自衛隊の軍事専門組織として明確に位置付けること、政軍関係の研究や教育の促進、政治指導者と自衛隊指揮官の交流などを提案している。
米軍と英軍の事例と現状を研究しているが、マーシャルやマッカーサー、パウエル、マクリスタルなどの事案の背景にあるものを知れてよかった。
Posted by ブクログ
●:引用
●自衛隊は、創設以来、帝国陸海軍とは全く異なる民主主義国家の国防組織として発展してきた。しかしながら、わが国民、就中、国民の代表である政治指導者は、第二次世界大戦の敗戦の強いトラウマを持ち、自衛隊を帝国陸海軍と同列とみなし、自衛隊による安全の確保よりも、自衛隊からの安全を確保するという意識をいまだに持つ傾向にある。
●民主主義国家である日本の国防組織(自衛隊)に対する文民統制は、強制力を伴うものではなく、自衛隊の指揮官が、政治指導者の最終的な政治決定に、自発的、かつ、徹底的に服従する形を追求しない限り、有効に機能しない。その鍵となるのは、政治指導者と自衛隊の指揮官の間で、強固な信頼関係を作り上げることである。政治指導者が自衛隊の指揮官を真に信頼できるようにするためには、双方の努力が必要である。米英型の民主主義制度を模範として、米軍から教育を受け、発展してきた自衛隊では、自衛隊は国民のために存在するという確固たる信念が、自衛隊の指揮官の間できちんと醸成されている。我が国の政治指導者は自衛隊における教育にもっと自信を持つべきである。
●
Posted by ブクログ
憲法改正の前にと書かれ田母神さんの写真も添えられた帯を見てジャケ買い。もっと、大衆的な内容なのかなと思っていましたが、自衛隊OBの方が書かれた専門的な新書。
日本や海外の事例からの政軍関係の考察。
要は、軍人も政治家もプロフェッショナルということだよな。
Posted by ブクログ
内戦はやったが、クーデターは起きたことがない国、アメリカ。国民代表の政治家には、職業軍人は忠誠を尽くすべし、との民主主義教育が徹底した成果。
印象深いフレーズ
175p ラインホールド ニーバー氏「正義を取り扱うことのできる人間の能力が民主主義を可能にし、不正義に陥りがちな人間の傾向が民主主義を必要とする」
Posted by ブクログ
自衛隊の本というと本書でも触れられている田母神さんの極めて右寄りの発言のせいで構えてしまいがちだが、本書では極めて常識的な内容を丁寧に積み上げている。本書を書くきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災における自衛隊出動だということだが、論じているのは「民主主義国家における軍事組織としての自衛隊(あるいは軍隊)と政治の関係とはどのようにあるべきか」ということである。また、本課題に対しての著者の結論は明確であり「軍事組織は、組織が専門とする軍事的な問題に注力し、政治的な意思決定は国民によって選択された政治家が行うべき」であるというものだ。ただし、その究極的な結論を実現するためには、政治側と軍事側双方の努力が必要であると説く。
本書ではやや冗長だが、サミュエル・ハンチントンをはじめとして様々な研究結果や実際の事例を引きながら、政治と軍事のダイナミックな関係性をどのように構築するかを考察している。面白いのは軍隊の役目は「軍事的なオプションを提示すること」ということを言っている一方で、こういった問題を考える際の常套手段であるシステム的なアプローチだけではなく、良き関係性をこう移築する際には信頼関係やコミュニケーションが必要であるということを繰り返しているということである。日本においては組織における良きコミュニケーションというのは、多分に「政治的」と呼ばれる能力が必要とされるものだが、"コミュニケーションスタイルは「政治的」であるが、内容は「純軍事的」であるべき"というのは、非常に求めるレベルが高いということを感じた。
本書で本来記載すべきことの一つは、本書を執筆し出版するということ自体、何らかの「政治的な活動」と取られる可能性もあるので、著書自身も微妙な橋を渡っているということを意識しているのかどうか・・・ということだ。出版や言論というのは、時に本人がそう意図しなくても政治的な活動として捉えられる可能性があるわけで、例えば新書ではなく研究書として発表するというほうが、より著者の主張にそった活動になったのではないかという気がした。
もう一点は、本書は民主主義国家においては軍人と政治家はわける時代べきであると主張していると理解したのだけど、一方では民主主義国家においてはどのような組織に所属していようとも政治家になるという自由は尊重されており、その立候補の自由こそが民主主義の根幹であるのに、ただ「軍人」のみは政治家になるべきではない・・・という矛盾に対する回答がなかったことだ。何ゆえに軍事だけは、そこまで特別な組織であるとしなければならないのか・・・ということが論証はされていないように感じた。
さらにいえば、古来より「政治家というのはすなわち武将であった」という時代が長く続いてきたし、20世紀に入ってもしばしば優れた軍人が優れた政治家とあったという時代は続いていたわけだが、そういったことに対する批判や検証も必要だったとように思う。
Posted by ブクログ
政軍関係の説明に関しては最終的に属人的なところにいってしまうところはまあ対象となる関係が限られるから仕方ないのだろうか。自衛隊OBだからか、しばしば他の自衛隊OBに対して評価が甘いように見えた。
Posted by ブクログ
憲法改正も視野に入り、いよいよ自衛隊の存在を顕にする時期が近づいているのだと思うが、その際にとても重要なのがシビリアンコントロール。そのシビリアンコントロールも広く言うと「政軍関係」という概念の一環であるらしい。
政軍関係とはこの本によると「専門家集団である軍隊の国家機構の中における明確な位置付け、専門職としての軍隊と軍隊が守るべき国民との一体感、政治指導者と軍隊の指揮官の間の相互理解、政策決定過程における政治指導者と軍隊の指揮官の率直な意見交換、政治指導者による最終的な政策決定に対する軍隊の指揮官の徹底的な服従および政策決定の過程と結果についての国民に対する説明責任の全て包含するダイナミックな相互関係」とのことらしい。概念で言うと以上なわけだが、それが実際に運用されることに難しさを古今東西の具体的な事例-マーシャル、マッカーサー、パウエル、マレン、来栖・田母神両幕僚長-を通じて諄々と説いていく。
このタイミングで非常に勉強になる本だった。
どなたからの献本なのだが、分からなくなってしまった。ここでお礼を申し上げたい。