【感想・ネタバレ】双子は驢馬に跨がってのレビュー

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Posted by ブクログ 2017年12月07日

驢馬に跨ってメタ的なファンタジーの世界を旅する双子の姿に、『はてしない物語』の冒険者アトレーユとその愛馬アルタクスを彷彿した。異なるのは「少年と馬」でなく「双子と驢馬」であるということ、それから『はてしない物語』は「読み出す物語」であるのに対して、これは「書き出す物語」であるということだろう。

...続きを読むの作家さんは、「書くこと」に対してとても意識的なのだと思う。
自らが書いた物語の世界が、人物が、自分の知らないところで「この世界」に存在していて、そして自分に会いに来るという。
一度でも物語を空想したことがある人にとって、これ以上の歓びはないだろう。
デビュー作の『アルタッドに捧ぐ』に続いて、小説の中でそれを実現させたこの作家はきっと本当に物語を作ることが好きで、深い没入と興奮の中で小説を書いているのだろう。

親子が興じる遊戯が「囲碁」であるのも意図的だと思う。囲碁には「布石」という言葉があるから。
けれど最終的には、この物語は幾つものを布石を放棄して破綻してしまっている。もちろん意図的に。
歩き続ける双子が「すべてを忘れてしまった」というのは、「空想を広げ続けるうちに最初の着想を忘れてしまった」ということの寓意なのだろうか。
それから、目的地に着いたと思った途端に次の地図が渡されるというのも、次々と着地点のないままにふらふらと続いていく空想そのもののようだと思う。

この小説は、「小説」を書く以前の、物語を作ること、空想すること自体の楽しさを書いた物語だろう。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年10月22日

彼の想像力が好きだ。
驢馬は驢馬のことを言っているのか、飼育されているのは誰なのか、その寓意性とでも呼ぶべきものが、好きだ。
この物語は、小説を書くことについて語っているのだと思う。
双子が驢馬に跨って親子を助けに来るだろう、という想像。想像は創造され、まず驢馬がU夫妻の元へやって来る。やがて双子が...続きを読む誕生し、旅に出る。
書き始めたのは良いけれど、時にどこへ向かっているのか分からなくなることもある。それでも目指すべき結末へ向かって進んでゆく。後戻りは出来ない。
親子は外の世界へ出たいと望みながらも、監禁生活に甘んじているようにも見える。配下たちが食事を持って来る隙を狙って逃げ出すことは出来ないのか。四人がかりで壁を黒く塗りつぶす作業をしていた時には、逃げ出すチャンスもあったように思える。でも、ただ二人は絶望する。地図の作成から絶望、そして囲碁の世界への陶酔。
作者が道に迷っている時でも、双子たちの旅は続く。なぜなら、誕生した時点で、作者とは別の人格として意思を持ち始めるからだ。
そして一通の手紙が、交わるはずのない世界を交わらせる。まるで一冊の本が、現実の世界と物語の世界を交わらせるかのように。
双子たちは親子のいるペンション、つまり旅の終着点、結末であるはずの場所へたどり着く。しかし結末は結末とならず、むしろ始まりとなる。なぜ終われないのか。その答えが親子の現在の状況を示す、この一文なのだと思う。「最後の一局を目指して打ち始めたはずなのに、終わりなく打ち続けられたら、という思いが高まり、親子は名勝負の連続、その幸福に溺れていった。」
終わらせたくない物語、というものがある。意志を持ち始めた登場人物たちは物語の中で確かに息づき、物語の時間の中を生きる。その物語に寄り添っている時、私達もまたその物語の時間を生きる。時間に限りがあるように、またページに限りがあるように、いつかその物語は結末を迎えるはずなのだ。しかし登場人物たちが確かな存在として生きていればいるほど、その物語の時間から抜け出せなくなる。それは、物語としては幸福なことである。幸福でありながら、同時にそれは現実を捨てることをも意味し、失われていく記憶は、そのことを示しているのではないだろうか。
しかしこの小説は、別の観点からも読めると思う。その重層性は、とても美しい。

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Posted by ブクログ 2019年09月05日

以前書いたと思った感想が見つからない。

わかんなさが村上春樹っぽくて、寓話っていうとどこを教訓にすればいいのかわかんない。多分双子は後でたどり着いた。たどり着いたに決まってるんだ。

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Posted by ブクログ 2018年06月18日

記憶を失い監禁され続ける父子と、彼らを救出すべく旅を続ける双子と驢馬。双方の視点から語られる不思議な物語。

父子の名が「君子危うきに近寄らず」と「君子」という冒頭からして意表を突かれる。なぜどこに監禁されているのか、自分たちの本名も、さらには本当に親子なのかもわからない。ただ、何の根拠もないのだが...続きを読む、双子が驢馬に跨がって救出しに来ると信じている。
一方の双子は、小学五年生のときに突然驢馬を連れて旅に出ようと思い立ち、寄り道をしながら相当の年数をかけて、父子の救出に向かう。

緊迫感があるようでどこか抜けていて、そのアンバランスさがおもしろい。父子の想像から生み出された地図のとおりに、双子が近づいてくる。あり得ないことが当然のように語られ、けれども肝心なことは何も明かされず、想像と現実との境目は終始曖昧だ。
妄想の産物のような双子は本当に存在するのか、そもそも父子かもしれない二人は本当に監禁されているのかさえ疑わしくなってくる。だからこそ、いくらでも深読みしたくなるおもしろさがあり、ページを繰るたびに引き込まれていく。
父子も双子も、真剣になるほど本来の目的から遠ざかっていき、そうなっちゃうのかというラストも考えてみれば最もふさわしく、この上なく愉快だ。
まだ若い作者で作品も少ないようだが、ほかの作品も読んでみたい。

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Posted by ブクログ 2018年01月02日

不思議な世界だな。「君子」「君子危うきに近寄らず」という名前の監禁されている親子を驢馬に乗った双子が助け出そうと旅に出る…というお話。昔話を読んでいるような小さな世界を感じるとともに、驢馬、ラクダが日本の苗字っぽい名前でそのほかの人はイニシャル(例えばSとかW)で、ますます独特の世界。大きな山もなく...続きを読む、教訓とかもなし。想像を掻き立てる不思議な不思議な物語でした。

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Posted by ブクログ 2022年03月15日

時代も場所も定かでない世界観は、おそらくあらゆる苦境にあてはまる。
主人公も彼を解放しようとする者もそれを阻む者も、なんなら全て同一人物かもしれない。
だから、自身は囚われたままでも、その原因に向けて分身を差し向ける彼を不甲斐ないとは思わない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年07月13日

岡上淑子さんの装画に惹かれた完全なジャケ借りで手にした初めての作家さんでした。
面白かったです。不条理過ぎて内容が無い気がするお話だったのですが最後まで惹き付けられました。
記憶も自らの名前も失い、理由もわからず監禁されている「君子危うきに近寄らず」と「君子」の親子と、彼らを救出するために驢馬と旅に...続きを読む出た双子のそれぞれの日々が綴られていきます。
双子のみつるとことみも旅の中で記憶を失っていき、その事の恍惚も描かれていました。心身ともに軽くなっていくことの心地好さ、陶酔はわかる気がします。
驢馬の名前がナカタニ、途中暫し旅を共にする駱駝の名前がフルカワなのも可愛い。旅で出会う大人はアルファベット1字のイニシャルのみというのが対照的でした。
ラストは、双子は親子までたどり着くのですが解放まで至らず、オーナーへ会う為の旅がまた始まる…という結末でした。結末まで不条理で面白かったです。
新たな読書体験でした。この作家さんの世界も触れていきたいです。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年02月19日

記憶を無くしたままどこかの一室に閉じ込められている父と息子。

親子は互いに血の繋がりがあるのかどうかすら、記憶からない状態で、
いつか双子が驢馬に跨って、自分たちを助けてくれるだろうと信じて励まし合う日々を送る。

壁に書いた地図は、食事を運んでくる男たちによって真っ黒に塗りつぶされ、
トイレの壁...続きを読むで囲碁をやるようになり、再び壁に食器を使って地図を書き始めた。

そこから遠い土地では、双子は長い年月をかけて驢馬と共に旅を続けていた。

結局、親子と双子は出会いそうで出会わない。
出会わないんかーい!ってツッコミ入れそうになる最後。

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