【感想・ネタバレ】ふたつの海のあいだでのレビュー

あらすじ

ティレニア海とイオニア海を見下ろす場所に、かつて存在した《いちじくの館》。焼失したこの宿の再建を目指す祖父と孫を中心とする数世代にわたる旅は、時に交差し、時に分かれて、荒々しくも美しい軌跡を描いてゆく――。豊饒なイメージと響き渡るポリフォニー。イタリアの注目作家による、土地に深く根差した強靱な物語。

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Posted by ブクログ

イタリア南部カラブリア。
ふたつの海に接する村にはかつていちじくの宿という宿があった。その再建を目指す祖父といつの間にかそれに引き込まれていく主人公。

章ごとに「~の旅」と区切られているけれど、それは旅路の果てに根ざした土地ー故郷がある、そういうことかもしれない。

土地に根ざした家族の物語。

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2018年03月29日

Posted by ブクログ

「詰め物をしたナス、辛味のペペロナータ(パプリカの炒め煮)、土鍋で煮込んだインゲン豆にソラ豆にヒヨコ豆、ラザーニャか、ヤギや仔ヒツジのミートソースで味付けした手打ちパスタ、シーラ山地特産のアニスで風味をつけたリコッタチーズ入りラヴィオリ。そして、お祖母ちゃんの自慢料理もあった。ポテトとズッキーニを添えたムール貝、カボチャの花のフライ、そしてカブの芽のオレッキエッテ(耳たぶの形をした小さなパスタ)」

イタリアを描いた小説らしく、料理の名前がこれでもか、というくらい次々出てくるので参った。こういうのをフード・テロというのか。特に大好きなトリッパ(牛の胃)まで登場すると俄然食べたくなって困った。いつでも食べられるというものではないのだ。主な舞台になっているのはカラブリア。長靴にたとえられることの多い半島の爪先にあたる部分である。

「イオニア海とティレニア海、二つの海に挟まれた丘のうえに、蹄鉄のような形でちょこんと乗ってい」るロッカルバという村に、その昔アレクサンドル・デュマも訪れたことのある《いちじくの館》という旅館があった。火事に遭って、今では恐竜の門歯が虫歯になったような壁が残っているだけだが、館の主と同じ名前をもつジョルジョ・ベッルーシは、いつかは旅館を再建するという強い意志を持っていた。

物語の中心人物は、燃え盛るように気性の激しいことから炎のベッルと綽名されるジョルジョ・ベッルーシ。語り手であるフロリアンというハンブルク生まれの少年の祖父にあたる。少年の母ロザンナは若い頃、父の旧友で有名な写真家ハンス・ホイマンに会うため、ハンブルクを訪れ、息子のクラウスに出会う。クラウスは、何年も経ってから映画『ゴッドファーザー』を見て、アル・パチーノが結ばれる褐色の肌の娘にかつてのロザンナを思い出し、二千五百八十一キロの道をひたすら飛ばして、結婚を申し込みに来る。ロマンティックな話だ。

今はハンブルクに住むフロリアンたちは、長い夏休みを過ごすため南イタリアにある母の故郷を訪れる。はじめは、蠅の多さや熱風にうんざりするフロリアンだが、女友だちも出来て次第になじむ。そんな時、祖父が逮捕されるという事件が起きる。肉屋を営んでいた祖父のところに、みかじめ料を要求する男が現れたのだ。きっぱり拒否すると、その後家の戸に火をつけられたり、羊や犬が殺されたりという嫌がらせが続いた。祖父は再度訪れた男を犬や羊がされたのと同じように殺して鉤にぶら下げたのだった。

祖父が監獄にいることは少年の耳には入っていなかったが、薄々は感じていた。写真家の祖父は弟が生まれたときに一度立ち寄ったきりで世界中を飛び回るのに忙しかった。殺人者と薄情者の血を受け継いだことを憎んでいたフロリアンだったが、ある年のクリスマス、ロッカルバの教会の前の篝火に照らされた髭面の男に祖父の帰還を知る。帰ってきた祖父は、早速《いちじくの館》再建に取り組むが、旅館が姿を現し始めた矢先、ダイナマイトによって爆破されてしまう。

工事資金は、自分の店や祖母の土地まで抵当に入れて作ったものだった。もう一度初めからやり直すための資金はどこにもなかった。ギムナジウムを卒業し、進学か就職かを決める前に一年の留保を得たフロリアンは、祖父の夢を実現するために旅館建築の手伝いを始める。祖父の家には、デュマが《いちじくの館》を訪れた時に忘れていった書巻が大事にしまわれていた。その書巻を携えてフロリアンはスイスに飛ぶ。父方の祖父に借金の相談に出向いたのだ。

フロリアンの貢献もあって、見事に完成した《新・いちじくの館》。完成披露パーティの後、祖父は旅館の鍵束を孫に手渡すとその足で旅に出る。行く先々から孫に送られる絵葉書には祖父たちの笑顔が見えるようだ。輝く太陽と紺碧の海。相好を崩した二人の祖父がかつてともに旅した思い出の地を巡る旅程の背後には、しかし、影のようにつき纏う者の姿が。『ゴッドファーザー』についての言及は、周到な作者の目配せだった。

一つの家系の核となる建築が、諸国を往来する人々の憩いの場となり、盗賊の集会場となる。それが原因で火事に遭い、長く放置された末にやっと再建されるかと思ったら爆破される。《いちじくの館》にまつわる逸話と家族の物語が、時を超えて結び合わされる。季節が変わるたびに咲く花、祖母の作る料理の数々、性を知りはじめた少年の悶々とした思い、熱風がよどむ南イタリアの夏の炎暑の日々。精緻で華麗な自然描写のなかに、傲慢と思えるほど、自分の意思を貫こうとする男たちの気概に満ちた生き方が点綴され、何とも言えない詩情を漂わせる。美しい自然と人間の過酷な生の相剋に圧倒された。

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2017年04月03日

Posted by ブクログ

物語のリズムに入るまでに時間が少しかかったけれど、合ってきてからは一気読み。南イタリアとドイツにルーツを持つ孫のフロリアンから語られる、土地に根差した祖父ジョルジョ・ベッルーシ。
語りのエネルギーの強さを感じられた。
南イタリアの貧困と出稼ぎ、様々な国との混じり合う物語で、なかなか日本にはない歴史・文化背景だなと思った。

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2025年09月23日

Posted by ブクログ

『海と山のオムレツ』←最高!の著者の初期小説。陽光あふれるカラブリアで、先祖伝来のホテルを再建しようと意思と行動力をふるう祖父の生きざまを、孫息子の目を通して生き生きと語る。なんと強烈な人々よ。道に迷ったら目を閉じて走ってみるとか、いろいろ教えられるわ…なんでこれ映画になってないんだ。

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2025年01月01日

Posted by ブクログ

“村は夏のにおいを放ってた。うだるような熱風が、まるで生暖かい水糊のように肌にねっとりと貼りつくの…”母さんが語る、若かりし頃の祖父の旅で物語は幕を開ける。
この旅でフロリアン少年の二人の祖父、ジョルジュ・ベッルーシとハンス・ホイマンは出会うのだ。
不遜な眼差しと強靭な意志を持つ二人は、まだ若く何者でもない時に、偶然共にした短い旅の中で互いに友情を見いだす。

二人を“おじいちゃん”と親しげに呼ぶこともできず遠い存在に感じるフロリアンは、ベッルーシや母の狂気とも思えるほどの夢 ー先祖から伝わる、かつては栄華を誇った宿場であり、今や焼失して廃墟となった“いちじくの館”を再建する ー を徐々に理解して受け入れてゆき、それと共に南イタリアと北ドイツというふたつの土地と自らのルーツとも和解していく。

本書は、土地に根付くことなく一族という言葉に距離を置く生き方を選ぶ僕にとっても、まばゆく映る。
照りつける強い日差しに晒されて、ふたつの海に挟まれた丘の上に立つ廃墟。誇りにかけて生涯の夢に挑む不撓の男。
鮮やかなイメージを喚起させる力強い物語だ。

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2024年02月23日

Posted by ブクログ

昔デュマが立ち寄り手稿を置いて行ったイタリア南部の旅館、いちじくの館。消失してしまった館の再建を試みるジョルジュ・ベッルーシは、いがみあう一族に復讐し逮捕されてします。年を取り釈放されたジョルジュ・ベッルーシは再び館の再建に乗り出す。
イオニア海とティレニア海から吹きあがる風のように熱烈な人生を、孫のフロリアンの眼を通して描いていく。

北の民族と南の民族。そんな違いが実感できない日本人にとって、こだわりが不思議な気持ちさえする。
後半の老いた男たちの友情がカッコいい!!

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2017年05月07日

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