感情タグBEST3
Posted by ブクログ
鎌倉時代の終焉から建武の新政、南北朝、室町幕府が勃興するあたりの時代には疎く、この作品の主人公「高師直」も名前ぐらいしか知らなかったが…。伊東潤の筆のおかげもあるんだろうが、思ってたよりずっとオモロい小説だった。
高師直といえば、名前しか知らない俺でも、日本史の中では名だたる悪役だと知ってるくらいのワル。主人公に持ってくる人物がシブいよなぁ。
彼には「実力主義で野心と栄達に強欲」という一本まっすぐな信念が貫かれている。そのためには既得権益や情やそんなものは一切無用、皆が仲良く平和に暮らす世界などクソくらえだと豪語する。いやーワルい、潔い。ワルの信念を貫き、主君足利尊氏に天下をとらせるため東奔西走大活躍するさまを読むことの幸せ。
楠正成やその息子正行(彼らとて河内のヤクザ、悪党と呼ばれているのだが)の武辺才能を認めつつ、善人っぷりを憎悪し、湊川や四条畷で合戦し、最終的に勝利する描写。ここって太平記では真逆の読ませどころお涙頂戴のシーンなのに、師直目線ではこうも違ってくるのか、と感動する。
そして終盤、師直が恋愛を意識し、一族を贔屓し、主君にとってかわることを拒否する、つまり、ワルな彼の生き方が善い方にブレてしまう。優しさ、人間らしさをもった師直の可愛いこと、弱いこと。
勧善懲悪、正義の味方、仁義を守る…そういう考えもストレートでよいが、そればっかりだと飽きてくるし、そういう思想ってそれこそワルい政治家に利用される弱さがあるねんなぁ。その点、あくまで「ワルい奴が最後に勝つ」を貫く本書のようなピカレスクはしたたかに強い。
あとがきの対談にあったように、歴史の勉強になったり、自己啓発になったり、歴史小説ってのは紆余曲折を経て一時は衰退すらしかけたのだが、そんな余禄なんかうっちゃといて、「小説としてオモロい」という本来の志向を追いかけたら、この本のように、魅力的な読ませる小説ができあがるのである。
Posted by ブクログ
南北朝時代のことをあまり知らなかったけど、けっこうスケールの大きいことやってたんだなーと。
二転三転してちょっと複雑すぎるので、どこかの期間に絞った方がもっと面白かったと思う。
Posted by ブクログ
「野望に取りつかれた者は、いつか野望に滅ぼされる」高師直
巻末の縄田一男との対談も面白い。司馬遼太郎や吉村英治や童門冬二など、様々な歴史小説家もいるが、時代が違えば求められるもの作家が伝えたいことも変わる。伊東さんの伝えたいことに、これからも耳を傾けていこうと思う。