【感想・ネタバレ】イスラーム文化 その根柢にあるもののレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

これまでに10冊ぐらい読んできた様々なイスラム教/ムスリム文化の解説書の中では一番読みやすかった。文庫サイズでここまで理路整然と論を展開する本に出合えるとは思っていなくて、嬉しい喜び。

アラブのスンニ派とイラン人(ペルシア人)のシーア派は対照的な信仰体系を持ち、内的矛盾を抱えているものの、その矛盾も包括して全てを統一しているのが「コーラン」であること。

コーランは神の言葉であるがそれを解釈するのは人間的な営みであり、どう読むかは個人の自由に任されていること。それによりイスラムの多様性、多層性が生まれていること。

コーランにおいては聖俗の区別はなく、すべての営みがイスラームの範囲に入るため、生活のすべてが宗教になること。そのため、協会と世俗とを切り離すキリスト教とは、ルーツを共有するにも拘らず決して相いれない対立が生じること。

イスラーム発祥の時期のアラビア世界において常識だった「血の共同体」を破壊することによって、単なる「アラブの宗教」だったイスラム教が一般性・普遍性を獲得できたということ。

外面にある共同体を探求する道と内面にある密教的な要素とが混在する中で、外面を探求する側が体制派となり内面的イスラームであるシーア派が迫害に晒され、それが現在も続く禍根となっていること。
こうした、外面を辿る顕教的要素と内面を突き詰める密教的要素とが緊張感をもって混ざり合うことで、多層的な文化を織り成すのが即ちイスラームであること。

ほかにも、書ききれないほど多くの「イスラム教の基礎知識」が解説されています。これまで、いろいろと呼んでみてもイマイチしっくり理解できなかったシーア派とスンニ派の対立の軸や原因が、この本でだいぶ腑に落ちました。
イスラム入門書にもなりえるし、自分のようにいくつか読んでみたら余計わからなくなったという人の論点整理にも使える本だと思います。

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2017年12月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

イスラム教はユダヤ教、キリスト教を許容しつつ(モーセやキリストも預言者として認めている)、最後の預言者であるマホメットの啓示である「コーラン」のみを根拠(+ハディース:マホメットの言動録)とする宗教である。キリスト教(キリスト教ではキリストは神の子)と違い、コーランを通じて直接「神:アッラー」と対峙するのがみそ。
これらの宗教の特徴は「契約」であり、神のみを信じてしもべとなることが要求される。理由は、最後の審判において天国に行けるように・・・。
この点、仏教は原始的には「知恵」であり、苦しみを取り除く方法論である。それが、神格化され、物語化されて広がったものなので、強制力はゆるい。困ったときに助けてもらうイメージ。
死生観も様相が異なっている。最後の審判における天国、地獄のふるい分けが中心となって、絶対帰依を要求するホットな契約型宗教と異なり、仏教では極楽浄土や閻魔大王は存在するものの、ベースは「輪廻転生」や「諸行無常」というクールな見方であり、その証拠に、死者はみんな「仏さん」となる。(厳密には成仏しないとならないが、悪人も簡単に成仏させてしまうのは、最後の審判的なことが重視されていないということだろう。「契約」よりも「救い」が重視されているのである。)ホットな契約型宗教ではおそらくこれは許されないだろう。

イスラム教はアラブ民族の宗教のイメージが強いが、もともとアラブの遊牧民は部族を中心とした排他的な人間関係を形成していた。その意味では、神の前にみな平等として、違いのあるままにすべてを許容するイスラム教は都市型宗教といえる。さらっと書くとこうなるが、血の掟の結束力を誇る部族中心の世界と家族よりも当然神が優先される世界との正面衝突と考えた方がいい。しかし、血統中心から信仰中心のつながりによる共同体によりイスラム教は世界宗教としての普遍性を持った。

世界の4分の1の人が信じるこの宗教は、共産主義がこけた今、資本主義経済の弱みである「平等」の思想を最も明確に主張、実践する思想であり、家族制度の混乱する中、家族を超えた(国をも超えた)共同体として結びつくルールやしくみを持った唯一の宗教であり、その動向が注目される。
過激派がどういう分類になるのかは、よくわからない。

●宗教
マホメットの活動した20年のうち前半10年(メッカ期)と後半10年(メディナ期)では性格が異なるという。
前半のメッカ期は終末論的なネガティブイメージであったが、後半のメディナ期に現在のイスラム教に通じる共同体を形成し横のつながりも重視するポジティブイメージに変化した。



●法と倫理
イスラム法は明文化されたものではなく、コーラン(ハディース)を学者が解釈したもの。→神の意志を禁止と命令の形にまとめたもの。生活のすべてにわたる。
政治とも不可分。
通常、法は意識されることがなく、何か特別の事態に巻き込まれたときに法の存在を知ることになるが、イスラム法の場合は意識せずに日常生活を送ることは不可能。
これを破ることは、宗教的な背信行為となる。
この自由な法解釈は、9世紀に禁止されて以降不変。
→近代化に支障?
一方、高い倫理性を維持している。


●内面への道
イスラームを共同体化し、政治化し、法制化する方向性を「外面への道」(スンニ派)とするならば、物事の隠された意味を深く知ろうとする「内面への道」(シーア派)を重視する方向性もある。→コーランを暗号として解釈する。

シーア派はモハメッド死後、正統カリフ時代以降4代目のアリーの系統(イマーム系列)のみが後継者と認める立場。
スンニ派は慣行(スンニ)を認め、すべて正統とする立場。多数派のスンニ派が少数派のシーア派を迫害する歴史。
内面重視には、神秘主義的なスーフィズムもある。

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2015年09月14日

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