【感想・ネタバレ】イスラーム文化 その根柢にあるもののレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年12月29日

これまでに10冊ぐらい読んできた様々なイスラム教/ムスリム文化の解説書の中では一番読みやすかった。文庫サイズでここまで理路整然と論を展開する本に出合えるとは思っていなくて、嬉しい喜び。

アラブのスンニ派とイラン人(ペルシア人)のシーア派は対照的な信仰体系を持ち、内的矛盾を抱えているものの、その矛盾...続きを読むも包括して全てを統一しているのが「コーラン」であること。

コーランは神の言葉であるがそれを解釈するのは人間的な営みであり、どう読むかは個人の自由に任されていること。それによりイスラムの多様性、多層性が生まれていること。

コーランにおいては聖俗の区別はなく、すべての営みがイスラームの範囲に入るため、生活のすべてが宗教になること。そのため、協会と世俗とを切り離すキリスト教とは、ルーツを共有するにも拘らず決して相いれない対立が生じること。

イスラーム発祥の時期のアラビア世界において常識だった「血の共同体」を破壊することによって、単なる「アラブの宗教」だったイスラム教が一般性・普遍性を獲得できたということ。

外面にある共同体を探求する道と内面にある密教的な要素とが混在する中で、外面を探求する側が体制派となり内面的イスラームであるシーア派が迫害に晒され、それが現在も続く禍根となっていること。
こうした、外面を辿る顕教的要素と内面を突き詰める密教的要素とが緊張感をもって混ざり合うことで、多層的な文化を織り成すのが即ちイスラームであること。

ほかにも、書ききれないほど多くの「イスラム教の基礎知識」が解説されています。これまで、いろいろと呼んでみてもイマイチしっくり理解できなかったシーア派とスンニ派の対立の軸や原因が、この本でだいぶ腑に落ちました。
イスラム入門書にもなりえるし、自分のようにいくつか読んでみたら余計わからなくなったという人の論点整理にも使える本だと思います。

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Posted by ブクログ 2021年03月17日

イスラーム文化を根元的に、統括的に、述べようとする良書。
イスラーム文化と一口に言っても、多層的多面的であることがよくわかる。
イスラームの大まかな概要を掴むのと同時に、ユダヤ教やキリスト教との相違点の理解も深まる。

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Posted by ブクログ 2020年05月11日

イスラーム教に関する基本書。勿論日本のイスラム研究の初期に位置する学者であるため、イスラム世界の多様性や現代のイスラムへのまなざし等が踏まえられていないが、それをおしても、やはり本書はイスラム教という宗教の大枠を捉えるには格好の書籍。

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Posted by ブクログ 2018年11月24日

いやぁ、これまた滅茶苦茶面白かった

スンニーとシーアとスーフィズムなんて、ろくな説明聞いたことなかったけども、凄くわかった

例えば、
スンニー派は、コーランに描かれる世界の後半期であるメディナ期の方向性に近く、感覚的で現実主義的なアラブ社会的感覚にのっとった考えで、イスラーム法を守ることを至上と...続きを読むし、いわゆる顕教的にコーランに対する。
シーア派は、コーランの前半期のメッカ期的な感覚が強く、ゾロアスター教をルーツにもつ幻想的で神話的な世界観を持つイラン的なものであって、密教的にコーランに対する。ただ、密教的解釈ができるのは歴史的に承認されたイマームだけ。
スーフィズムは、密教的だけど、シーア派よりも更にオープンというか、承認されたイマームでなく、修行をつむことでワリーという状態に、いわゆる解脱できる

すげー雑に説明するとこうなる
こんな言い方、誰もしてくれない

コーランに描かれている世界は20年間の時間的広がりがあること、イラクなどのアラブ世界と、イランとには違いがあること
それは砂漠の騎士道的世界と、ゾロアスター教的世界と

無我を説いても、仏教とは確実に異なるのは、あくまでイスラムは絶対的一神教の一元論がベースだということ

などなど

やー面白かった

次はついにコーラン行きます

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Posted by ブクログ 2018年11月18日

イスラム教圏の文化についてよくわかる。

疑問に思っていた、
・ユダヤ教とキリスト教とイスラム教の関係
・コーランだけが聖典なのか
・アラブ人とイラン人の違いとは
・スンニ派とシーア派の違いとは
・それぞれの宗派の考え方とは
を解決してくれた。

キーワード:
1次聖典コーラン、2次聖典ハディース:...続きを読む言行録、ムハンマドはただの預言者、メッカ期とメディナ期、聖俗不分離、イスラム法(シャリーア:水場への道)、ウラマー(外面への道をとる人)とウラファー(内面をへの道をとる人)、シャリーアとハキーカ、タアウィール(原初に引き戻す)

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Posted by ブクログ 2018年05月06日

スンナ派、シーア派、スーフィズムの思想的な特徴が、『コーラン』の解釈の仕方という形で、実にうまく整理されている。

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Posted by ブクログ 2018年04月17日

井筒俊彦氏(1914~1993年)は、日本で最初の『コーラン』の原典訳を刊行した、イスラーム学者、言語学者、東洋思想研究者。アラビア語、ペルシャ語、サンスクリット語、ギリシャ語等30以上の言語を流暢に操る語学の天才と言われ、多くの著作が英文で書かれていることから、欧米での評価も高い。
本書は、198...続きを読む1年に著者が行った講演を基に同年に出版された作品を、1991年に岩波文庫から再刊したものである。
本書は、副題に「その根柢にあるもの」と付けられているが、その意図について著者は、「「根柢にあるもの」と申しますのは、教科書風、あるいは概説書風に、イスラーム文化の全体を万遍なくひととおりご説明するのでなしに、ひとつの文化構造体としてのイスラームの最も特徴的と考えられるところ、つまりイスラーム文化を他の文化から区別して、それを真にイスラーム的たらしめているものをいくつか選びまして、それを少し掘り下げて考えてみたいということでございます」と言い、①イスラーム文化の宗教的基底、②イスラームの法と倫理、③イスラームの内面への道、という3つの側面についての考察を語っている。
そして、講演を基にした滑らかな文章を読み進めるうちに、コーランとは? ユダヤ教・キリスト教・イスラームの関係は? イスラームの神アッラーとは? ムハンマドとは? イスラーム法とは? メッカ期とメディナ期(の違い)とは? 共同体(ウンマ)とは? ハディースとは? ウラマーとウラファーとは? シャリーアとハキーカとは? スンニ―派とシーア派(の違い)とは? イマームとは? イスラーム神秘主義(スーフィズム)とは?。。。等の、イスラームのポイントが次々に明らかにされ、まさに「イスラームとは?」が浮かび上がってくるような気がするのである。
近時、イスラームに関する書籍は数多出版されているが、イスラームの根柢にあるものをこれほどわかりやすく、かつ簡潔に語ったものは少ないのではないだろうか。
30年以上前の著作であるが、イスラームを理解する上で比類ない良書と思う。
(2018年4月了)

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Posted by ブクログ 2017年05月14日

イスラム教を理解する入門書として最高。非常にわかりやすい。他の有名宗教との違い、コーランのメッカ期とメディナ期の特徴、スンニー派のシャリーアと共同体思想、それに反するシーア派のハキーカの概念、そしてスーフィズムの神秘主義について、丁寧に解説している。中近東の歴史や現在も起きている国・権力者・民族の紛...続きを読む争を理解するにおいて、イスラムを避けて通る事は不可能であると改めて実感した。

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Posted by ブクログ 2016年10月31日

今年から井筒先生のご著書も読まないとと思っています。まずは、入門編から。講演録ではありますが、イスラームの根底にあるものを、宗教、法と倫理、内面への道(神秘主義)の三つに分けて論じる本格的なイスラーム文化の概説です。

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Posted by ブクログ 2016年10月22日

イスラーム文化の根底的精神を掘り下げて解説。

出版年は古いが、古さを感じさせない普遍性を持つ。
現代のイスラーム情勢を考える上でも必読と言える。

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Posted by ブクログ 2016年05月16日

イスラムをイスラムたらしめているものを、仏教、キリスト教との比較、日本人の視点から、素人向けに説明。


20年以上前の本ですが、古さはありません。イスラムについて、正しく知識を吸収しているという、本当によい気分になる本でした。

これを理解してこそ、いまイスラム世界で起こっている紛争を理解すること...続きを読むができると思う。

・イスラムは政治・経済・生活のすべてがコーランに帰結する
・イスラム世界のすべてが聖であり、聖俗の区別はない。(よって聖職者という人たちも存在しない)
・多数派のスンニ派はコーランを外部的に理解する
・少数派のシーア派(イラン)は内部的に理解する
・中でもスーフィー派、仏教的な思索”自我の放棄”を志し、世を捨てることで神との一体化を求める
・神と民の関係は、父と子のような親しいものではなく、主人と奴隷という、絶対的な主従関係。
・コーランの新たな解釈をしない、ということもすでに決めらており、ゆえに石油でお金を持っている国も民主化することに躊躇する
・トルコは聖を捨て、世俗化した。(アラビア語も捨て、アルファベットのトルコ語を採用した)

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Posted by ブクログ 2016年05月08日

ドゥテルテがほんとに大統領になったら、フィリピンのイスラムとの関係はどう変わるんだろうねえ、なんていう仕事での絡みは少し薄くなった今日この頃。でも不勉強はいかんと「世界的権威がやさしく語った、知っておくべきキホン」と帯にあったこの本を。とはいえ、「第一にシャリーア、宗教法に全面的に依拠するスンニー派...続きを読むの共同体的イスラーム、第二に、イマームによって解釈され、イマームによって体現された形でのハキーカに基づくシーア的イスラーム、そして第三に、ハキーカそのものから発出する光の照射のうちに成立するスーフィズム、この三つのうちどれが一体、真のイスラーム、真のイスラーム的一神教なのか。それぞれが自分こそ真のイスラーム的一神教を代表するものだと主張して、一歩も譲りません。イスラーム文化の歴史は、ある意味ではこれら三つの潮流の闘争の歴史なのです。」という感じなのでまだまだ「理解」には程遠いです。

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Posted by ブクログ 2016年01月10日

井筒俊彦は中沢新一の評論の中でたびたび引用されるイスラーム学の第一人者という認識でしたが、実際はそれ以上に言語学の権威として知られている天才です。この「イスラーム文化」というのも引用された文献だったので積読していたのだと思います。それぐらいの興味だけだったのですが、ここ数年のISなどのイスラム原理主...続きを読む義者を名乗る組織の過激な行動に世界的な危機を感じざるをえず、さらにはシリアを中心として多くの難民が世界中に流入しようとしている世界情勢の中で、そろそろ本当に日本人もイスラム圏のことを他人事で済ましてはいけない時期に来ていると思うのです。

それを口実に読みだしたのですが、この評論は1981年に刊行されており、つまり35年も前の言説でありながらすでに現代を予見しているかのような危機感を井筒俊彦は語っていることにまず驚くばかりです。当然ながら35年という時代の流れでイスラムの文化も変わっているでしょうし、井筒俊彦の思想も現代思想からするとそれなりに古くはなってきているでしょうから、それは当然考慮した上で、しかしながら世界的に権威のある天才学者の言説が簡単に老朽化するわけはなく心に響くはずなのです。

難解な内容を予想していましたが、この書籍は1981年に一般人向けに行われた講演をテキスト化したものだそうで、そのため非常に平易な内容となっており井筒俊彦の入門書には打ってつけでした。この後に「意識と本質」が控えているのですが・・・。

今回遅ればせながらイスラームという宗教についての比較的詳細な内容を知ることとなりその内容に非常に驚きました。キリスト教ともかなりの違いがあり、日本人のぼくには理解し難い隔たりを感じました。

まず神と人間の関係が主従関係にあるということ。キリスト教では親子関係にありますが、イスラームでは主人と奴隷の関係でそこには商売をモチーフとした労働対価としての幸福を約束しているようにも取れます。キリスト教的な慈悲や慈愛とは少し違う感覚があるように感じました。

またその関係において神は日常的に人間の生活に存在し信仰し続けなければなりません。そのため朝起きて夜寝るまで神への信仰心は忘れてはならず神へのおつとめも日常的に行われなければならないのです。さらにこの日常は神が非連続的にいまも創造しており、その創造を止めた途端に世界は無に還る、そのためにも毎日の神へのおつとめは欠かせないのかもしれません。そしてさらに違和感を感じたのは、主従関係における奴隷の立場をあえて強固にするために人間を完全な無力の存在として置いた他力信仰がベースとなっているということです。また、先祖代々受け継がれる血縁の関係を無効とし、信仰における神との主従関係に基づく宗教的共同体としての関係に重きを置いていることも非常に理解し難い考え方です。ともすれば新興宗教にありがちな危険な感じも受けます。

とここままでは、実はサウジアラビアを中心として信仰されている正統派いわゆるスンニー派の説明となっており、3回目の講演においていよいよイランを中心として信仰されているシーア派の説明を行ないます。

このふたつの宗派の大雑把な違いはスンニー派が実存主義的、現実主義的であるのに対してシーア派が神秘主義的、超現実主義的であるということらしいのですが、本当はもっと奥が深い、ネイティブでないと分からないような違いがあるのだと思います。でなければ宗教戦争にまで発展しないでしょうから。そしてさらにはシーア派の先に「我=神」を標榜するスーフィズムという究極の第三極があり、スンニー派、シーア派、スーフィズムの三つ巴的な争いがいまも続いているようなのです。

井筒俊彦はこの三つ巴こそがイスラームの文化を構築している要素であるということで締めくくっていますが、そのように相反する宗教的理念がひとつところで纏まるはずもなく、だからこそいまもなお燻っているのがイスラーム文化なのでしょう。

まあとにかく非常に読みやすく読み応えのある逸冊でした。

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Posted by ブクログ 2015年12月27日

イスラームの考えは、我こそ絶対。イスラームは唯一絶対の「永遠の宗教」­であり、神が色々な形で現れ、多くの「啓典の民(ユダヤ教、キリスト教、­ゾロアスター教)」を成立させてきた。­

イスラーム共同体というものは、単にイスラーム教徒だけでできている­共同体ではなくて、イスラーム教徒が一番上に立ち、その...続きを読む下に複数の­イスラーム以外の宗教共同体を含みながら、一つの統一体として機能­する大きな「啓典の民」の多層的構造体­

イスラームは自分がてっぺん故、本来、改宗を強要しない寛容な宗教であり、­キリスト教を庇護の下においた時代には、異教税のような金はとりつつも、­信仰の自由を許したこともあるようだ。しかし、ユダヤ教については事情が違う。­

イスラームは、イスラエルのユダヤ人を、神との契約を結びながら履行しなかった­背信者と位置づける。あらたにその契約を神と結びなおし、今度こそそれを­完全に履行し「神を怖れる(=信ずる)」人々を再び地上に出現させる。­それはイスラームの使命である。­

「イスラエルの子らよ、わし(神)がかつて汝らに施してやった恩恵を憶い起すがよい。­わしとの契約を履行せよ。さすればわしもまた汝らとの契約を履行しよう。(コーラン)」­

イスラームの大原則は「聖俗不分」であり、炊事洗濯からお祈りまで、すべて­行動は神(コーラン)の思し召しのままに。パレスチナ(イスラーム)がイスラエルを­攻撃するは必然、となってしまう。­

一方のイスラエルは、オバマ政権の誕生に配慮しパレスチナへの侵攻は休止したものの、­総選挙で右派・宗教勢力が伸張し、イスラームへの対決姿勢を強めている。­

クリントン米国務長官は今日、イスラーム世界と「テロリストとは峻別し、意見­交換していく必要がある」と述べたようだ。イスラームにとっても、如何に多様な­現実世界と信仰のバランスをとっていくかは今日的な課題であり、大きな転機を­むかえていると思う。­

しかし、宗教だけでかくも根深い。­
宗教と、民族と故郷と聖地をめぐるかの地の混乱は続きそうだ。­

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Posted by ブクログ 2015年05月12日

イスラム教の成り立ち、ムハンマド、コーランの位置付け、
イスラム法の意義など、イスラム文化の基本的な構造が分かり易く
説明されている。また、スンニ派(アラブ、顕教的) とシーア派(イラン、密教的) の違いや、さらにはスーフィズム(イスラム神秘主義)についても言及されていて、宗派対立の原因となる思想的...続きを読む背景やイスラム文化の多様性を理解する上で、私にとって非常に有益な基本的入門書となった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2015年09月14日

イスラム教はユダヤ教、キリスト教を許容しつつ(モーセやキリストも預言者として認めている)、最後の預言者であるマホメットの啓示である「コーラン」のみを根拠(+ハディース:マホメットの言動録)とする宗教である。キリスト教(キリスト教ではキリストは神の子)と違い、コーランを通じて直接「神:アッラー」と対峙...続きを読むするのがみそ。
これらの宗教の特徴は「契約」であり、神のみを信じてしもべとなることが要求される。理由は、最後の審判において天国に行けるように・・・。
この点、仏教は原始的には「知恵」であり、苦しみを取り除く方法論である。それが、神格化され、物語化されて広がったものなので、強制力はゆるい。困ったときに助けてもらうイメージ。
死生観も様相が異なっている。最後の審判における天国、地獄のふるい分けが中心となって、絶対帰依を要求するホットな契約型宗教と異なり、仏教では極楽浄土や閻魔大王は存在するものの、ベースは「輪廻転生」や「諸行無常」というクールな見方であり、その証拠に、死者はみんな「仏さん」となる。(厳密には成仏しないとならないが、悪人も簡単に成仏させてしまうのは、最後の審判的なことが重視されていないということだろう。「契約」よりも「救い」が重視されているのである。)ホットな契約型宗教ではおそらくこれは許されないだろう。

イスラム教はアラブ民族の宗教のイメージが強いが、もともとアラブの遊牧民は部族を中心とした排他的な人間関係を形成していた。その意味では、神の前にみな平等として、違いのあるままにすべてを許容するイスラム教は都市型宗教といえる。さらっと書くとこうなるが、血の掟の結束力を誇る部族中心の世界と家族よりも当然神が優先される世界との正面衝突と考えた方がいい。しかし、血統中心から信仰中心のつながりによる共同体によりイスラム教は世界宗教としての普遍性を持った。

世界の4分の1の人が信じるこの宗教は、共産主義がこけた今、資本主義経済の弱みである「平等」の思想を最も明確に主張、実践する思想であり、家族制度の混乱する中、家族を超えた(国をも超えた)共同体として結びつくルールやしくみを持った唯一の宗教であり、その動向が注目される。
過激派がどういう分類になるのかは、よくわからない。

●宗教
マホメットの活動した20年のうち前半10年(メッカ期)と後半10年(メディナ期)では性格が異なるという。
前半のメッカ期は終末論的なネガティブイメージであったが、後半のメディナ期に現在のイスラム教に通じる共同体を形成し横のつながりも重視するポジティブイメージに変化した。



●法と倫理
イスラム法は明文化されたものではなく、コーラン(ハディース)を学者が解釈したもの。→神の意志を禁止と命令の形にまとめたもの。生活のすべてにわたる。
政治とも不可分。
通常、法は意識されることがなく、何か特別の事態に巻き込まれたときに法の存在を知ることになるが、イスラム法の場合は意識せずに日常生活を送ることは不可能。
これを破ることは、宗教的な背信行為となる。
この自由な法解釈は、9世紀に禁止されて以降不変。
→近代化に支障?
一方、高い倫理性を維持している。


●内面への道
イスラームを共同体化し、政治化し、法制化する方向性を「外面への道」(スンニ派)とするならば、物事の隠された意味を深く知ろうとする「内面への道」(シーア派)を重視する方向性もある。→コーランを暗号として解釈する。

シーア派はモハメッド死後、正統カリフ時代以降4代目のアリーの系統(イマーム系列)のみが後継者と認める立場。
スンニ派は慣行(スンニ)を認め、すべて正統とする立場。多数派のスンニ派が少数派のシーア派を迫害する歴史。
内面重視には、神秘主義的なスーフィズムもある。

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Posted by ブクログ 2022年01月03日

一昔前のビジネスマン?向けの公演の内容ということらしい。
堅苦しさはなく、読みやすい。
一宗教としてでなく、文化そのものを包含し吸収と発展を遂げてきたイスラームと、イスラームを育てた中近東について体系的に知ることができる。
イスラームとはなんぞや、という入門にはうってつけの本と言えるだろう。
詳しい...続きを読むことは他の本を読む必要があるが、読みやすさと幅広さをして良書と言える。

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Posted by ブクログ 2020年05月26日

“言い換えますと、イスラーム法とは、神の意志に基づいて、人間が現世で生きていく上での行動の仕方、人間生活の正しいあり方を残りなく規定する一般規範の体系でありまして、それに正しく従って生きることがすなわち神の地上経綸に人間が参与することであり、それがまた同時に神に対する人間の信仰の具体的表現となるので...続きを読むありまして、その意味でイスラーム法がすなわち宗教だといわれるのであります。“

例えば日本文化について3つのテーマから述べよ、と言われたら、仏教や神道などの宗教をテーマの一つに選ぶことはあるだろう。
しかし、法について、というのはどうだろう。
ちょっと思いつかない。
漠然とした「文化」なるものをどう切り分けるか、そこに各文化の特色が表れているとしたら、私たちの文化とどう異なっているのか、というのが本書を手に取った動機だった。
テーマは別れているが、副題の「その根底にあるもの」についての切り口が異なるだけで、常にイスラーム文化の核を見定めようとする姿勢は一貫しているのだと読み始めて気がついた。
期待以上の内容。


読書メモ
① 宗教
001 イスラーム文化の国際的性格と複雑な内部構造
002 「砂漠的人間の宗教」という誤解
003 商業専門用語に満ちた聖典
004 商業取引における契約との類似
005 アラブ(スンニー派的イスラーム)とイラン人(シーア派的イスラーム)
006 すべてのイスラーム的なものを集約する聖典『コーラン』
007 イスラーム文化は究極的には『コーラン』の自己展開である
008 『コーラン』と『ハディース』、第一の啓示と第二の啓示
009 『ハディース』というプリズムを介した『コーラン』の解釈の多様化
010 『コーラン』の解釈学的展開こそイスラーム文化の形成史
011 『コーラン』の特徴①神の言葉のみを綴った単一構成の書物
012 その②聖俗不分、「神のものは神のもの、カエサルのものも神のもの」
013 坊主のいない宗教
014 神と人の垂直関係と「預言者」という中間項
015 「イスラーム」=「絶対依嘱」
016 「子もなく親もなく、これとならぶもの絶えてなし」
017 非連続的存在観と原子論的存在論、因果律の存在しない世界

②法と倫理
018 「コーランの歴史」20年、前期メッカ期と後期メディナ期
019 「神の倫理学」
020 メッカ期の不義不正を罰する復讐の神
021 「怖れ」=「信仰」
022 メディナ期の慈悲と恵みの神
023 「感謝」=「信仰」
024 イスラーム教徒、嘘つかない
025 実存的宗教から社会的宗教、個人から共同体へ
026 砂漠的人間の精神(血の連帯感)の廃棄
027 「物を盗んではいけない」は神がそれを悪いことと決定したから
028 「最後の預言者」の死と「ハディース」による補完
029 神の言葉という非合理的な啓示を合理的思惟によって解釈する
030 神の言葉そのものではなく、それを理性によって合理的に解釈したものこそがイスラーム法である
031 我々の法律は普段法の網の中にいることを意識せず、法が出張る事態となって初めてその存在に気がつく
032 イスラーム法は規範として常に意識される
033 自由解釈の禁止
034そしてイジュティハードの門は閉じる

③内面への道
035 二つの「知者」、ウラマーとウラファー
036 ザーヒリー的イスラーム、バーティニー的イスラーム、顕教と密教
037 シャリーアとハキーカ、イスラーム法と内面的実在性
038 二つの「内面への道」
039 シーア派的イスラームと神秘主義的イスラーム(スーフィズム)
040 シーア派のイマーム=内面的預言
041 外的啓示は終わったが、内的啓示は続いている
042 十二代目イマームの蒸発
043 「小さなお隠れ」と「大きなお隠れ」
044 不可視の次元、精神の王国の支配者

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Posted by ブクログ 2019年11月12日

1981年、第2次石油ショック、イラン革命、イラン・イラク戦争の衝撃がおさらないなか、一般の人を対象とした講演を本にしたもの。

といっても時事的な話になるはずもなく、著者は、日本におけるイスラームがほとんど関心外であったことを指摘しつつ、その根源にあるイスラーム教の根本的な構造を明快に説明してくれ...続きを読むる。

さすがに当時よりは、現在日本での一般的なイスラーム理解は進んだんだろうと思うのだが、それでも、知らなかったことをたくさんあった。

イスラーム文化というからには、やはりコーランが中心になって、それを絶対的な基準とするというところでの共通性がイスラーム社会にはあるのだが、その解釈の違いなどから、スンニ派とシーア派が分断していく内的な必然性がよくわかる。

それは宗教思想的な対立で、もともとコーランに内在する2つの方向から生じるものではあるのだが、そこにイスラーム教以前のアラブ社会とペルシア社会の文化の違いが影響していそう。

が、著者は、そうした対立まで含めて、ダイナミックな統合がイスラーム文化の特徴というふうに考えているみたい。

本論に入る前に、異文化と遭遇したときの葛藤、そこから争いが生じるとともに、違う文化が統合され、新しい文化が生み出される可能性について話してあって、この辺の議論の先見性はすごいな〜と思う。

個人的には、シーア派、そしてその中の神秘主義的なスーフィズムのあたりが、一番、面白かったな。

その辺が著者の一番の専門分野だと思うので、もうちょっと、その辺を読んでみることにする。

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Posted by ブクログ 2019年10月21日

「イスラーム生誕」に続けて読んだ。これまたおもしろかった!
シャリーアに依拠するスンニー派(アラブ)と、ハキーカに基づくシーア派(イラン)、そしてハキーカそのものから発出する光の照射のうちに成立するスーフィズムの3つについて述べられている。
スンニー派とシーア派の違いについてよくわかった。かたや「外...続きを読む面への道」、かたや「内面への道」というまったく逆の道をたどるのだと。
スンニー派もシーア派も、現世を悪と考えるところまでは同じだが、シーア派は悪いスンニー派のように悪い現世を良くしようとはせず、現世に背を向ける。隠者、世捨て人として長い修行の道を行く。これが自己否定の道であり、これを突き詰めていくと、まるでヒンドゥー教の「解脱」のように、「照明体験」(イシュラーク)に到達し、人間が神になってしまう。
これに対して筆者はこう述べる。
こうしてイスラームにおける「内面への道」はスーフィズムとともについに行き着くところまで行き着いたという感があります。これでもなお、「内面への道」はイスラームなのでありましょうか。(略)これほどまでに純化されたイスラームは、もうイスラーム自身の歴史的形態の否定スレスレのところまできているのであります。(P223)

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Posted by ブクログ 2019年08月18日

◯イスラーム文化を理解するための入門書。
◯大学受験で世界史を選択した者であれば、おおよそ知っている話が多いが、その文化や精神世界を改めて論理的に説明されると、なるほど、理解が深まり、面白い。
◯歴史的なイランとイラクの相克や、トルコやエジプトに関するイスラーム世界での立ち位置なんかも知ることができ...続きを読むる。
◯現代の中近東における国際政治の動向を知る上でも、導入書としてオススメの一冊。

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Posted by ブクログ 2018年10月15日

知的好奇心を満たすとてもおもしろい本。
イスラーム文化の精神性、多重性、信仰だけに留まらず、社会規範としての役割など、までもわかりやすく説明されている。手元に置き、線を引いて読み返す。

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Posted by ブクログ 2017年09月27日

1981年に3回にわたって行われた講義を書籍化。メッカ、メディナそれぞれの時代の成立の歴史、メディナ期以降のイスラーム法成立と政治運営の関係、外面的な方向性を持つスンニ派と内面的な方向性を持つシーア派の比較、さらには自己を否定するがゆえに「我=神」の境地となるスーフィズムまで。再読しなくては。

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Posted by ブクログ 2016年08月18日

コーランの内容は商人の言葉で満ちている。
アッラーはヒジュラ(聖遷)の前後で変容する。前期は脅威であり、後期は救いである。
「お隠れ」になったムハンマドの子孫が、終末に姿を現し人々を救うのを待っている。

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Posted by ブクログ 2015年11月16日

絶対的なる君主である神と、その奴隷である人間。その関係は契約関係であり、その前提にたてば予言者を含め全ての人が平等である。世俗的なものは存在せず、コーランやハディースから導かれたシャーリアによって全てが規定されるスンニ派の共同体的イスラム。一方でイマームによって体現されたハキーカを重視するシーア派。...続きを読むイスラム教の根底にある宗教感を踏まえて、イスラム文化を学ぶことができる。

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Posted by ブクログ 2015年07月14日

いやー難しい、というかこれが本質なのだろう。
スンニ派、シーア派、スーフィズムやメッカ期とメディナ期があることなどを学んだ。

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Posted by ブクログ 2018年10月14日

あまりにも馴染みがなく、理解の手がかりをどこに得るべきかすらわからない、イスラムの文化や考え方。だが、井筒の講演録をベースとしたこの本は、ビジネスパーソンを聴衆として内容が選択され練られたものだけに、とてもわかりやすい。
アッラーは、哲学的、抽象的な「神」だと思い込んでいた。しかし、井筒によれば、人...続きを読む間と絶対超越ではあるが「生ける神、生きた人格神」であるとのこと。

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Posted by ブクログ 2021年08月26日

イスラーム文化を、真にイスラーム的ならしめているものとは何か。今や世界動向を左右するほどの力を持つこの宗教の根源に、イスラーム研究の第一人者が迫った書籍。

イスラームは、アラビアの商人であった預言者ムハンマドが興した宗教で、商業取引における契約の重要性を意識している。すなわち、イスラームは商売人の...続きを読む宗教といえる。

神の啓示を受けたムハンマドは、その神の言葉を記録した。それが聖典『コーラン』である。ここに書かれた言葉を解釈するのは人間であり、理解の仕方や解釈は人によって様々だ。この自由性が、イスラーム文化の多様性の源となっている。

イスラームという宗教は、聖と俗の領域を区別しない。神聖な領域のみならず、人間の日常生活のあらゆるところにまで、宗教が関わってくる。この点において、教会と世俗国家とを明確に区分するキリスト教とは大いに異なる。

イスラームの神「アッラー」は、キリスト教の神と同じ人格神である。キリスト教では、神と人との間に親子のような親しさがあるが、アッラーと人との間にそうした親密さはない。神は絶対的権力をもつ支配者で、人間はその奴隷である。

イスラームにおいて、宗教と法は密接に結びついている。善悪は神の意志によって決まり、それは法という形で人間に課される。すなわち、人が正しく行動し、生きるためには、『コーラン』を読み、神の意志を知らなければならない。

イスラーム法は、宗教的儀礼の規則や民法、商法、刑法はもちろんのこと、人々が日常生活においてなすべきこと、なさねばならないことまで細かく規定している。信者は、法を意識することなしに、日常生活を送ることができない。

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Posted by ブクログ 2020年07月19日

イスラム教がキリスト教やユダヤ教と同じ神を崇拝していることすら知らなかった私のような無知者でも一通りの知識は得られた(ような気がする)イスラム教の入門書。キリスト教ひとつとってもカトリック、プロテスタント、東方教会、西方教会、ルター派、カルヴァン派など様々な宗派が存在するのと同様に、イスラム教もまた...続きを読む同じ聖典「コーラン」からさまざまな宗派が派生し今日に至るまで闘争し続けている理由がよくわかった。おそらくこの先も統一されることはないだろうということも。

相関図を書かなきゃ分からなくなるくらい複雑ではあるけれども、キーワードが明示されているので整理すれば非常にわかりやすい説明になっている。


文化というものは個人の思考を消し去り、集団を闘争に導くほど強い影響力をもっている。自分の知らない文化を生きる人たちがどういう価値観で行動しているのか。グローバル化が進む中で避けては通れない知識になると思う。

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Posted by ブクログ 2017年08月16日

イスラム研究の碩学による講演録(81年の講演録なので、岩波文庫というより岩波新書か岩波現代文庫のほうが向いてそう)。
アラブをイスラム的たらしめている要素を、宗教、法と倫理、内面への道という3つの視点から解説している。表層的な制度や習慣ではないその背後にある思想やパターンが立体的に描かれていて、とて...続きを読むも面白く読めた。著者独特の偏りがあるようなので鵜呑みは禁物っぽいが、ここまで切れ味のよいイスラム関係の本はなかなかないんじゃないか。

しかし、この井筒俊彦って人、Wikipedia読む限り天才どころの話じゃないな。

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