あらすじ
「なぜ自分だけがこんな目に?」――父が倒れる。母が倒れる。介護せざるを得なくなった息子/娘の揺れる日常に、沈んだ不安は今日も漂流、どんぶらこ。老いた日本社会の濁りが浮かび上がる。
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Posted by ブクログ
バラエティーなどで見るいとうせいこうと、この文章の印象が随分違って、驚き。こんな骨太な文章を書く人だったんだ。
年老いた親の介護をテーマにした物語は、重い空気を纏いがちだが、この小説にも登場人物それぞれが年月と共に背負ってきた人生の重荷が、独特なもの哀しさとやるせなさを伴って行き場なく漂う。
さらに主人公の両親のルーツが語られ、主人公自身の生い立ちにも遡る。決して明るくはないのだが、間に間に挟まれる、どんぶらこっこ、どんぶらこ。どんぶらこっこ、すっこっこ。という調子がふと泣き笑いしてしまうような、力の抜けるようななんともいえない奇妙な気分にさせられる。
生きるにつけ、死ぬにつけ、老いて終幕を迎える直前に途方に暮れてしまう時、それに直面する老いた親を見る時、どんぶらこ、と流れに身を任せるしかない虚無感と、そのどうしようもなさの中にあるおかしみがないまぜになる感覚が、この調子にはある。それは希望でもなく、絶望とも言い切れず、オールも持たずどこか良いところ、はたまた悪いところに自然流されていく他ない、抗いようのない変化の渦のようなもの。
人生の重荷も又、他のあらゆるものと同様に自分の意思とは関係なく、諸行無常。そんなことを思った。
信州弁で綴られる、息子に向けた両親の本音のパートがぐっときた。長年住んだ思い出を便利屋にテキパキと整理されてしまう心情が。
おじいさんとおばあさんの荷物は次々と段ボール箱に投げ入れられて、何十年も一緒だった道具のあれやこれやが位置をばらばらにされて価値がわからねえようにされ、まるで信頼出来ない人間の手に渡って移動し始めただよ。ほして、じきにどこへともなく消えちまった。
どんぶらこっこ、どんぶらこ。
どんぶらこっこ、すっこっこ。
死生観も人の数だけ、悲哀を帯びたものもあれば、軽やかに自由に凛としたものもある。しかし自分のような俗人は、いつかよるべなく動揺するだろう。どんぶらこと唱えながら。