【感想・ネタバレ】男であれず、女になれないのレビュー

あらすじ

小学館ノンフィクション大賞紛糾の問題作!

2015年3月9日、当時36才。私は、男性器を摘出した。

「女になった」と言わない理由は、この選択が女性になるためじゃなく、自分になるためのものだったから。だから私は、豊胸も造膣もしないことを選んだ。

「性同一性障害」という言葉が浸透して、「性はグラデーション。この世は単純に男と女には分けられない」と多くの人が理解する時代にはなったかもしれない。けれども私は自分の性別を、男にも、女にも、二つのグラデーションの中にも見つけることができなかった。

男であれず、女になれない。

セクシャリティが原因でイジメにあったことはない。事実はその逆でみんな優しかった。でも、男子クラスになったことを機会に私は高校を中退した。
女性を愛する男性に命がけの恋をして、葛藤し、苦悩して、半死半生の状態に陥ったこともあった。ひたすらに自己否定を繰り返したりもしたけれど、周囲の誰もが私を一生懸命に支えてくれた。
そして社会人である今、多くの人が愛情と親しみを込めて私を「しんぺいちゃん」と呼ぶ。

これは、人生に同性も異性も見つけることができなかった一人の人間が、自らの“性”を探し続ける、ある種の冒険記です。

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Posted by ブクログ

あー…なんかもう感無量とはこのことですよ。

自分が何者で今どういう思いなのかをなんとかして持てる言葉で正確に紡ごうとしたらこういう表現になりました、という文章。

たぶん事実の描写としては冗長というか回りくどいような表現もあるんだけど、これがそのまま実感をリアルタイムで言葉に置き換えようとした跡なんだろうな。

筆者と同じではないけれど、
ある自分の強烈な不全感と、
社会的には恵まれてることの自覚と、
恵まれてることが必ずしも望むことに合致するとは限らないことへの焦燥感は、
すごくよくわかる…というのもおこがましいのだけど。
読めて良かった。

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2017年04月01日

Posted by ブクログ

帯に「小学館ノンフィクション大賞選考会を紛糾させた問題作」とある。そうだろうなと思う。これがノンフィクションか?と言われれば、違うような気がする。でも、選考委員の三浦しをん・高野秀行両氏絶賛!というのもまた、すごくよくわかる。これほどまで切実に自分を綴ったものに、そうそうお目にかかれるものではない。帯には、「『生きづらさ』を感じたことのあるすべてのひとにとって灯火となる、愛と力のこもった一冊だ」(三浦しをん)ともあって、本当にそうだと思った。

男であることに強い違和感があり、かといって女になりたいわけでもない、そういう自らのセクシャリティを中心に、壮絶な(と言っていいと思う)半生が綴られている。著者の生き方は、周囲に波風を立てるが、それ以上に激しく自分の中で吹き荒れる嵐に、真っ向から挑んでいくものだ。それが、いたって理知的で丁寧な文章によって書かれていて、そこが読みやすさにつながっていると感じた。まるで目の前で彼の話を聞いているような気がしてくるほど。高野秀行さんが「ライターになるべきだ」と言ったそうだが、本当に「伝わってくる」文章の書き手だと思う。

心に響く言葉が随所にあるのだが、そのいくつかをあげておく。

・セクシャリティの問題を棚上げしたまま、自らの経験をもとに、不登校生の相談にのるようになり、それが自分に居場所を与えてくれたと振り返って。
「最初から私のすべてに対して、私のセクシャリティを前提として判断してもらう必要はない。確かにそれは計り知れないほどに大きな要素を占めてはいるけれども、私という人間の入口は何もセクシャリティだけじゃない。それがすべてというわけじゃない。だから私の事情を前面に押し出して、私の都合で手を繋がなくてもいい。相手と繋げる場所で手と繋げば良いのだ」

・ゲイの交流会に行ってみるが、その雰囲気にどうしてもなじめなかったそうだ。このくだりは辛辣。
「自分を絶対に否定しない場所だけで不躾に羽根を広げて生きるような人間に対して、私は尊敬の思いも持たないし魅力も感じない」

・クレバーな印象を受ける箇所。
「少数派は立場が弱い。それは正しいことではなく、仕方ないと言って良いことでもないけれど、世の中が多数派によって運営されている以上、生じるべくして生じている現実ではある」
「自分の持つ可能性を意識するということは、決して独りよがりに自分を過大評価して「やればできる」なんて無根拠な思いを振りかざすことではなく、むしろ中身はその逆で、周囲を注意深く観察し、全体地図のなかで自分がどの場所に、どのような役割で、どのような期待を背負い、どのような評価の上に立っているのか。そんな相対的な状況を正確に把握することから始まっています」
「私がどんなキャラクターであれ、私は私の望んだ社会にいる人と生きていくわけではなく、私が今まで生きてきた、私が今いるこの社会に生きている人と生きていくのです。そこには私のことを好きではない人もいるだろうし、認めたくない人もいるでしょう。端的に言えば、私にとって不都合な人であふれかえっている社会で私は生きていくのです。セクシャリティを盾にして、認められない不満を殊更に叫び、相手が変わることでしか自分が満たされない状況を作り上げることなど、純粋に私の幸せだけを想った時でさえも余りに稚拙で効果のない戦略です」

・著者が「ずっと前に私の心に触れて、それ以来私を支えて戒め続けてきた言葉」としてあげていた言葉に胸を打たれた。
「薔薇曰く、われを守るもの、そは棘にあらずして匂い」(ポール・クローデル)

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2018年10月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マイノリティであるがゆえの苦しみ。
定義を知識として知っていて、わかった気になっていましたが、そんな自分が恥ずかしくなりました。
当事者にならないと本当の理解は絶対にできないこと、でも理解しようとする姿勢は失ってはいけないこと、知れてよかったです。
自分にはうっすらと想像するしか出来なかったことが、日常の具体的な困りごと、身近な人とのかかわりの中での心の置き所の不安定さなどを通じて、克明に描かれていて、その世界を自身の事として考え直すととても恐ろしくなりました。
傲慢に、人の苦しみを〝わかった気〟になることの暴力性に気付かせてくれる、重要な本だと思います。

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2017年07月07日

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