【感想・ネタバレ】あの蝶は、蝶に似ているのレビュー

あらすじ

鎌倉のあばら屋で暮らす作家・寒河江。不埒な人……女の囁きが脳裏に響く時、作家の生は、日常を彷徨い出す。狂っているのは、世界か、私か――『ブエノスアイレス午前零時』から19年、新たなる代表作!

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Posted by ブクログ

屍の蔵と書いて鎌倉。どこを歩いても現実の軸が狂うような磁場ばかりで霊所だらけ。その鎌倉の深い闇に徐々に飲まれていく様が日常を通して描かれている。井戸の蓋の裂け目と浴室の天井の割れ目を出入りする土蜘蛛。拒食症自殺者の女。夜になると幽冥な闇に変わる竹林。シトシト降る雨の円覚寺山門。渋谷の千代田稲荷。幻想的というには、あまりにも生々しく突き放したような描写。所々に黒揚羽蝶が出てくる。幻想の世界と蝶というのは、万人に共通した感覚なのだろうか…?

藤沢周氏は常人には理解しえない感覚で世界を捉えている。それを読み切らせる描写力というのが本当にすごい。すごく沢山モノを読んだり見たりしている作家なのだろうと思わせる。オイゲン・ヘリゲルやルカーチ・ジェルジの著書、葛飾北斎の絵。「一体、画狂人のあの眼力は何なのか…。」と書いてあるが藤沢氏の感覚、描写力の方が驚愕する。非常に興味深い読書体験だった。

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2019年05月13日

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