あらすじ
魚が獲れない! 消費も減っている! そんな国は実は、世界中で日本だけだった……水産物取引の最前線で活躍する著者が、漁業のサステナビリティー(持続可能性)が保たれた、明るい未来への具体策を提言します。
WEDGE Infinityの記事「日本の漁業は崖っぷち」でおなじみ、片野歩氏の新刊は、日本漁業の現状把握と海外との比較、そして解決のための戦略まで、現状を変えるための熱い提言が詰まった1冊です。
はじめに
第1章 知られざる日本と世界の漁業の実態
第2章 徹底討論。魚を守るなら、いましかない
第3章 世界の成功例から具体的な政策を考える
さいごに 国家戦略と意思決定
<著者プロフィール>
片野 歩(かたの・あゆむ)
東京生まれ。早稲田大学卒。1990年から北欧を中心に、最前線で水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。2015年、水産物の持続可能性(サステナビリティー)を議論する国際会議「シーフードサミット」で、日本人初の最優秀賞「シーフードチャンピオン」を政策提言(アドボカシー)部門で受賞。著書に『魚はどこに消えた?』(ウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)がある。
※この電子書籍は株式会社ウェッジが刊行した『日本の漁業が崩壊する本当の理由』(2016年12月20日 第1刷)に基づいて制作されました。
※この電子書籍の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
漁業についてまとまった本を読んだのはこれが初めて。何となく水揚げ量が漸減しているような話は聞いていたが、この本を読んでかなり明確になった感。
まずその理由として乱獲があり、まだ大きく育たない魚を大量に水揚げすることで、ますます魚がいなくなる悪循環となっている。
そして多くの問題、特に日本の第一次産業でパターンの問題が、ここでも繰り広げられる。つまり、その対応策というのはほとんど結論が出ているにもかかわらず、実行に写されないことである。
対策とは、年間の水揚げ量を制限し、魚が大きくなるのを待つ。結果、油ののった良質な大きな魚が獲れ、ゆえに単価も上がる。またノルウェーというこの対策をとった成功例があるにもかかわらず、日本の漁業は対策が取られない。いつもの総論賛成各論反対の世界である。
この本を読んで、なるほど、と思ったのは。まず以下の話。
このような対策の遅れはよく政治家に矛先が向かうが、世論の支持がなくそれを主張するのは落選の憂き目にあって、政策も実現化されない。ノルウェーでもそうであったが、まずメディアが率先して議論して、対策が必要だという世論を作る。そのバックアップがあるから政治家が反対(特に漁業者側)を抑え、漁業制限を行う。結果、漁業も潤い、近代化されるというシステムである。
これが日本だと、特に左派系の大新聞による漁民の生活を破壊する……といった論調のキャンペーンと既得権益の代表と化した官僚の多数派によって進まない。マスメディアの重要さを痛感した次第だ。
またより魚食に目覚めた周辺諸国の影響もあって漁獲高が減っていると思ったが、その問題と国内の問題は分けて考えるべきであること。国内の問題がまずは大きいことのようである。
また水産エコラベルのような国際認定を受けておらず、輸出も障害が多いとのこと。これも農業が実際は農薬の基準以上の使用など認可も少なく先進国向け輸出が多くが許可されていないのと同じような問題ではないか。そして大手マスメディアは、優れた日本の品質が世界で称賛といった論拠に乏しい話を、特にバラエティー番組で大量に垂れ流すといった次第である。
この本は漁業の問題点を扱う数少ない本のひとつでもあり、それを一般に知らしめる問い意味でも良書である。また、もしかして著者とは違う視点からの論考もあるかもしれないので、そういった漁業本も読んでみたいとも思った。
Posted by ブクログ
世界では水産物の消費が伸びていて、漁獲高や養殖も合わせた生産量は伸びている。一方で、日本の水産物の生産量は1990年代くらいから右肩下がり。
高齢化が進んで漁業の担い手がいなくなった?(これには本書では触れられていませんが)かと思いきや、魚が取れなくなってきたせい。確かに、言われてみると最近ホッケがちっちゃいような。。
欧米各国では既に漁獲枠の管理手法が導入されているため、無駄に小さな魚を獲って貴重な枠を消費することもなく(小さな魚を獲らず、大きな魚を獲るための技術的な工夫が進んでいるとか)、枠が決まっているので早い者勝ちで乱獲することもない。日本もやれば良いのに、と思うことばかりが本書の中には並んでいます。
海洋国家なのに島国根性で交渉が苦手で…なんて言っていると、国内の漁業資源はおろか、近海の漁業資源まで無くなってしまうのでは、と読んでいるともどかしい気持ちになります。
本書の構成は実にわかりやすく、最初は基礎的な部分を学べるQ&A、次に専門家による対談、最後に著者からの提言。さらにグラフや数量データも豊富で、200ページの中にこれだけ工夫があるとお見事としか言い様がありません。
様々な立場の人向けに「どうすれば良いのか?」も書いてあって有益です。流通業が主導的役割を演じて、大きく育つ前に獲られた子マグロを売らない、等のルールを設定すべきというのはその通りだと思ったし、そういう店があれば応援したいと思った次第です。
読み終わって思ったことは、本書の中身は本当にぐうの音も出ない正論だと思うのですが、それでも実行されない政策というのは山ほどある訳で。実現のためには何が必要なんだろうと考えてしまいました。
日本の水産業の夢っぽいビジョンだとか、具体的なステップ論や課題の見せ方とか、これは政治や行政の仕事なのかもしれませんが、そこまで進めてみても良いのかも。
現状にちょっとじれったくなって、帰り道に魚屋へつい立ち寄りたくなる良著でした。