あらすじ
生物の設計図、遺伝子。そこに書き込まれたすべての遺伝情報が、ゲノムだ。
この驚異のテクノロジーは、ゲノムを“編集”することで、遺伝子を、そして生物そのものを変える。
食料・エネルギー問題を解決する品種改良。根治できないとされてきた難病の治療。デザイナーベイビーという新たな課題。
遺伝子を自由に操作する――。ゲノム編集は、SFの世界を現実のものとした。
本書は、次のノーベル賞候補と目される、この技術のメカニズムと最新成果を、国内外の研究者への取材を基に明らかにする。
これは複雑な生命現象に、進化を続ける科学技術が対峙する瞬間を目撃したジャーナリストによるレポートである。
◆『NHKクローズアップ現代』の書籍化。
山中伸弥氏による序文と、ゲノム編集の国内における第一人者・山本卓氏(広島大学教授)へのインタビューも収載。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
大学の研究等に興味がある人にもお勧めしたい。文章に臨場感があって非常に分かりやすかった。
個人的には「終始コドン」などの言葉が懐かしすぎて笑ってしまった。ウニの細胞分裂とか高校卒業以来見聞きしなかった生物用語が並んでいてそういえばそんなことも習ったなと思った。このレベルの私でも読めたので、専門的な説明が読みたい人には向かないかもしれない。
誰だって家族の命が助かるなら手段は選ばないと思うが、ここまではよくて、ここからはダメという倫理的判断は非常に難しくなるだろうなと思った。
2014年10月。私たちは車で和歌山に向かった。近畿大学水産研究所・白浜実験場。近畿大学はかねてより魚の養殖に力を入れていることで知られている。特に有名なのは養殖マグロ。施設の中で卵から成魚まで完全に養殖することに成功している。取材に同行する京都大学の木下助教と研究室のメンバーもすでに到着していた。木下助教と共同で研究している近畿大学の家戸敬太郎教授もそろった。(続く)
さて、私たちにゲノム編集の技術を解説してくれた広島大学の山本卓教授の話に戻ろう。山本教授がゲノム編集の技術に出会ったのが2008年。ゲノム編集の第一世代ZFNが海外の論文に登場するようになった頃のことだ。山本教授は当時、ウニを使って細胞がどのように出来ていくのかを研究していた。研究に必要な技術を探す中で、辿り着いたのがゲノム編集だ。山本教授らは、およそ二年にわたる試行錯誤を経て、ZFNによる遺伝子の破壊に成功した。
クリスパーのDNA塩基配列を発見したのは、2012年のクリスパー・キャス9についての論文からさかのぼること、20年以上も前に1本の論文を発表した日本人研究者が最初だった。現在、九州大学大学院農学研究院に所属する、石野良純教授がいた研究グループだ。極限環境分子生物学が専門。大腸菌のDNAを解析していく中で数十塩基の短い配列が何度も反復するという特徴を持っていた。それがクリスパーだ。論文の本題とは違うことだが、最後にあえてクリスパーについて言及したのは異例のことだった。「不思議な塩基配列でした。きっと何か特別な意味があるのだろうと考えました。」しかし、それ以上はこの配列を研究の対象にしなかった。
もっと研究しておけばよかったですねと、話を向けると今もっとすごいことを研究しているのですと嬉しそうに続けた。
ゲノム編集はまったく新しい世界を提示している。人間と自然の関係も変わる。-おわりに NHK広島放送局ニュースデスク 松永道隆
Posted by ブクログ
ゲノム編集に関して、素人向けに分かりやすく説明されている。遺伝子組み換え、品種改良と比較してゲノム編集のメリットがよくわかる。ただゲノム編集の技術そのものの説明は少なく、あくまで入門書。
Posted by ブクログ
NHK取材班がゲノム編集の革命「クリスパー・キャス9」という技術についてクローズアップ現代で放送された。本書はそれを書籍化したものとなる。
iPS細胞の山中教授が序文に書くように、この技術は「簡単である」「成功率が高い」「多様な生物に適用できる」という特長を持つことで、遺伝子工学の世界を大きく変えたと言ってよい。これまでの遺伝子組み換え技術は当てずっぽうに変更したものを戻して確認するというような偶然に頼った技術であったのが、より高確率で狙った遺伝子を編集することができるようになった。すでにクリスパー・キャス9の編集ツールのカタログまで出ていて、安い値段でオンラインで発注することもできるようになっている。あまりにも簡単にできるので、早々に生命倫理面含めた議論の整理が必要であるとも言われている。
いずれヒトの生殖細胞にも適用するという議論が起きるに違いない。遺伝的疾病の治療のためならよいのか、など倫理面で課題が起きることも想像できる。この研究では中国がかなり先行しているという話もある。倫理面と企業の研究開発力の問題でもあるのかもしれない。
Posted by ブクログ
2020年のNovel生物学賞を受賞した成果であることはニュース等で報じられたとおりである。
従来のゲノム編集や遺伝子組み換え技術はかなり運任せの作業であり、技術的にもかなり高度な作業であったようだ。
そこで登場した、クリスパー・キャス9という方法は、狙った場所に任意の遺伝子を入れ込み、かつそのほかの場所には影響せずに編集できる、しかも簡単!最強の方法である。
内容はNHKの理系素人が書いているので、ほとんどないと言ってもよいが、衝撃度合いはNHKが書いているので(良くも悪くも)よくわかる。
クリスパーキャス9関連の書籍では、やはりNovel賞を受賞した本人が執筆した「CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見」のほうが良いと思う。