あらすじ
自然界の秩序は、どのように生み出されているのだろうか。すべてのものがエントロピーを生成し崩壊に向かう物理法則のなかで、どのように森羅万象が形づくられているのだろう? 自然にでき上がる模様などのパターン、自ずと同期するリズムや振動――実は、意思を感じざるを得ないような不思議な自然現象にも、複雑で手のつけようのなさそうな現象にも、明解な法則・能動因が潜んでいる。そして、非線形科学は、これまでの科学とは異なる視点から、その動的な機構を明らかにする。私たちに新たな自然観を与える非線形科学について、第一人者が分かりやすく解説した、知的好奇心を刺激する入門書。【目次】まえがき/プロローグ/第一章 崩壊と創造/第二章 力学的自然像/第三章 パターン形成/第四章 リズムと同期/第五章 カオスの世界/第六章 ゆらぐ自然/エピローグ
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文系脳の非線形科学 №1 -2007.11.01記
「非線形科学」を読みおえ、混濁した頭を抱えつつなんとか理解の歩を進めたいと悪銭苦闘しているのだが、なかなかに点と点が結ばれて線へとはならないものである。これまで科学的な知見に対し、どれほど直感的かつ好い加減に接してきたか、たんなる言語遊戯にすぎなかったのではないかと悔恨しきりである。
だが、このたびはこのままやり過ごすわけにはいかぬ。あくまでも私なりにではあるが、本書をほぼ理解する必要があると、そんな衝動が、熱が身内を貫いている。おそらく、これらの理解は、私がずっと拘ってきた身体表現のありように、方法論的な明証さを与えるものとなるはずだ、とそう思うからである。
遅々とした歩みだとしても、ひとまず歩き出さねばならない。
<フィードバックシステム>
栄養物の入った容器のなかで増殖するバクテリアは、バクテリアの量が少なく栄養が充分に豊富なあいだはどんどん増殖するが、その限りにおいて増殖の速さはバクテリアの総量に比例するという線形的な法則が成り立っているかとみえる。しかし、容器内の栄養物が枯渇してくると、この比例関係は成り立たなくなり、増殖は頭打ちとなる。この場合、増殖の進行そのものが増殖を押しとどめる原因になるという、自動調節機構が働いていると考えられるが、この機能をフィードバックといい、事態の進行がその進行そのものを妨げるように働くことを、負のフィードバック=ネガティヴ.フィードバックといい、その逆に、栄養物が枯渇するまでバクテリアの自己増殖がどんどん促進される、その機能を正のフィードバック=ポジティヴ.フィードバックという。このように生化学反応における自己増殖や自己組織化にはフィードバックシステムが欠かせない。生物は熱力学の第二法則に反して、エントロピーの高い状態を保ち続ける物質であり、そのためには、動物の場合の化学エネルギーであれ植物の場合の光エネルギーであれ、たえずエネルギーを必要とする。これらのエネルギーを体内に取り込んでは捨てるという代謝作用が分子的に組みあげられた複合体が生物である。
細胞内ではこれら正と負の2つのフィードバックシステムはさまざまな場面で現れ、細胞の自己組織化をコントロールしている。ネガティブ.フィードバックは代謝反応の制御や細胞増殖の制御に利用され、ポジティブ.フィードバックは情報伝達と応答反応に利用されている。遺伝子発現の制御、複製や細胞分裂など複雑な生命現象では双方が同時的に働き、巧妙な仕組みが成立している。一般にポジティヴ.フィードバックが働く場合は、それを抑制するネガティブ.フィードバックが備わっていないと破滅的な結果にいたる。正と負の双方のフィードバックをあわせもつ複合的な非線形システムは、自然界において広く存在する。
元来フィードバックとはサイバネティクスにおける用語であるが、この考え方は人間社会でも多く取り入れられている。分かり易い例を引けば、個人レベルにおける「反省」ということ。反省とは経験から学んだ大切なことを文章にして、他人に伝えることができる形にすることだが、通常、反省はポジティブではなく、ネガティブな経験から教訓を導き出すように使われ、自らの失敗や不十分さを謙虚に認めることや、同じ過ちを繰り返さないために、その原因を分析し明らかにする。また、さまざまな事象や問題に対する評価や批判は、社会のフィードバック制御であるといえる。行政の行動に対しては選挙やマスコミによる世論調査、裁判、NGOの活動などがいろいろな評価をする。経済活動に対しては価格や市場、株価などが結果的にポジティブ.ネガティブに作用する。これらは外部の独立した仕組みとしてのフィードバックシステムといえるだろう。実際には、あらゆる組織というものはそれぞれにおいてなんらかのフィードバック.システムを内蔵してその安定を保とうとしているものである。それぞれ固有の歯止めとしてのフィードバックシステムが働かなければ組織がうまく機能しないというわけである。
だが、これら人間社会にもさまざまにみられるフィードバック.システムには、制御の「遅れ」という難題がつねに立ちはだかっているともいえる。
近頃の、NOVAの破綻騒動にしても然り、C型肝炎の薬害問題然りで、行政の監視システムや法制上の綻びなどさまざまに複合的な原因が云々されようが、これらすべてフィードバックの制御システムの「遅れ」の問題といえるわけである。
NOVAや薬害問題のごとき大きな事件にかぎらず、いわば新聞紙面やTV報道に日々登場するあらゆる事件や事象のうちに、この制御の「遅れ」という問題が潜んでいるのだ。
Posted by ブクログ
素晴らしい。BZ反応とか。こびてないんだけどすごいしっかりしている本ってのがあって、例えばみすず書房の本。そんな手触りを感じさせる良質な新書ですね。京大ってやっぱいい大学そうだなあ。行ったことないけど。
Posted by ブクログ
「カオス・フラクタル・同期現象」といったかっこいい専門用語の知識を得るだけで満足してはならない。
重要なのは、非線形科学という学問の枠組みが現実の自然現象にこれまでの物理学とは異なった新たなものの見方を与えていることなのである。
Posted by ブクログ
今後のライフワークと言うか、自然観の基礎となる事が詰まってます。
集英社新書ってよく知らなかったけど、こんな素晴らしい本が出てるとは。
蔵本先生の入門書ですが、初心者には十分骨のある本です。
数学者の本ですが、計算科学を志す人は是非とも読んでおきたい本。
Posted by ブクログ
落下の法則、ニュートンの3法則なんかとは違う、不確定的な法則、反応、事実を調べる非線形科学について書かれている。
うちの学科ってこういうことをやるんだよなー、って再確認できる。BZ反応とか授業でやったしなー。魅力的だが、めちゃくちゃ難しいというのはあるが…
Posted by ブクログ
とても難しいが何とか理解してみたいと知的欲求をがんがん刺激される。「カルマン渦列」、ホタルが同時に発光する「集団同期」、「平均値プラスゆらぎ=分散」、硬貨の表裏の累積「ブラウン曲線」、海岸線の形成「フラクタル次元」、「スケールフリーネットワーク」
Posted by ブクログ
非線形現象を解析する科学。カオス、フラクタル、ネットワーク理論、パターン形成、リズムと同期、などについて数式を使わずに説明している。自然の現象を横断的に見てそこに不変構造を見つける。
Posted by ブクログ
ちょっと難しい…。でも、この手の内容について割と分かりやすいのかも。
どんどん掘り下げていくと何があるのだろう。
それを追っかけているうちに複雑化してしまったのだろう。
モノの見方と何かを理解しようとすることが一緒だとわかって安心したのはいうまでもないが。まるで世の中を見るみたい。
Posted by ブクログ
新書でこれだけの事を丁寧に書いてくれる事は
非常に有り難い事だと感じます。
非線形とものが、もともと、どのような出発点から始まったものなのかを簡略的に知るには適した本です。
しかし、数式がなさ過ぎる分、わかりにくいような気が個人的にはしました。
でも、本職でなくても読んでいて興味は尽きない本です。
動的な要素の相互作用がどのようなかたちを生み出していくのかと、想像を掻き立てられます
Posted by ブクログ
大学時代直接講義を受けたことのある蔵本先生の一般向け新書。数式を用いずに”平易”な文章で書かれた「非線形科学」についての入門書であるが、やはり一般の人に理解するのは若干難しいか。むしろ、非線形科学に興味を持つが専門書では敷居が高く感じている科学者にとって良い入門書となる気がする。
Posted by ブクログ
世界的第一人者による非線形科学の入門書。
教科書をわかりやすくしたような本。とはいえ、非理系の人には敷居が高いと思われる。一般人向けということで数式を使わないなどの工夫がされているようだが、解説なしに使われている専門用語がそれなりに出てくるので、ある程度の知識がないと厳しい。
4章の「リズムと同期」は明確で判り易いが、他は、章によって差があるものの、単なる紹介に留まっているところが多く、ピントがぼやけている感じを受けた。
Posted by ブクログ
著者の蔵本由紀氏は、国際高等研究所副所長、京都大学名誉教授などを務める物理学者。非線形動力学(非線形科学)の世界的権威で、本書でも取り上げられる「蔵本モデル」(振動子集団の可解模型)を提唱した業績などで、ノーベル賞候補との評価もある。
本書は、「全体が部分の総和としては理解できない」いわゆる“非線形現象”の典型である“同期現象”について、具体的な現れ方を多くの例を通じて、数式を使わずに紹介・説明しようとしたものである。因みに、「全体が部分の総和として理解できる」現象を“線形現象”といい、従来の数学を基にした数々の手法は、線形現象は説明できるが、非線形現象を説明することは困難であったのだという。
そして、著者は同期(=シンクロ)現象として、複数の振り子時計、複数のメトロノーム、パイプオルガンの音、ろうそくの炎や、自然界のコオロギの声、カエルの声、ホタルの光、生理現象である心拍、体内時計、更に、ロンドンのミレニアム・ブリッジの揺れ、コンサートホールでの拍手など、数々の興味深い例を詳しく取り上げている。
そうした同期現象は近年注目を集めるようになってきており、それは、物理学者の努力やコンピューターの高度化により理論的な取り扱いが可能になってきたこと、生命科学の進歩に伴い、生き物の様々な活動の中に同期現象が含まれていることが判明してきたこと、同期現象を人工システムにいろいろと応用できるのではないかと期待されていることなどによるのだという。
そして著者は、同期現象は一見関係がなく見える様々な科学分野をつなげる普遍的な概念の典型であるとし、これまでの科学は、「分解して、総合する」ことによって、この世界を理解しようとしてきたが、ここに来て人々はそのアプローチに疑いと不安を感じ始めており、この複雑世界を理解するためには、複雑なものを複雑なまま捉えて、そこに潜む構造を発見し、それらを丁寧に調べていくことが必要であると結んでいる。
後段の生理現象や自律分散システムに関する記述は相当難解で、典型的文系キャリアの私はとても理解できたとは思えないが、著者が最も伝えたかったであろう同期現象の面白さは十分に感じられたし、今後現実世界で様々な現象を見、聞き、感じるにあたって、新たな切り口を与えてもらったことは間違いない。
(2017年7月了)
Posted by ブクログ
「非線形科学の世界的第一人者による画期的な入門書」だそうだ。
複雑系の本は、分かったような、分からないような本が多くて、さらにほとんどが翻訳もの。ということで、分かりやすさを求めて、読んでみたが、やっぱり、今、一つ、すっきりしない。
内容的には、ジェイムズ・グリックの「カオス」やスティーヴン・ストロガッツの「SYNC」あたりとかぶっているのだが、どちらかというとこの本のほうが、分かりにくい気がする。
で、どうしてだろうと考えると、この本、内容的には、実はかなり分かりやすくコンパクトに書いてあるのだが、コンパクトすぎて著者の研究の苦労話とか、学者の人間模様があまり書かれていないことが分かりにくい印象につながっているのではないか。
ということは、一般人がこういう類いの本を読んで分かった気になっているのって、ほんとのところ本筋とは別のところであるということかなー。
Posted by ブクログ
読んだあと思ったのは,非線形科学という言葉と,この本の内容であるカオスやフラクタル,自然現象に共通するパターンなどとがどう関係しているのかよくわからなかった.非線形科学がそれらを総称する言葉なんだと言われればそれまでだけど,それにしては広すぎる領域を非線形科学と一言でよんでいる気がする.
非線形というと,線形でない.ということを想像する.つまりは何でもアリ..?
著者は非線形科学という高度に理論化された学問をどこまで平易な言葉で説明し,内容を伝えることができるかという挑戦を含んでこの本を書いたそうだが,少なくとも誰でも理解できるという本ではなかったように思う.ちょっと難しい.
ただ,非線形科学のおもしろさである,自然現象やカオスなど本来であればまったく関係がない事柄の間に共通してみられる原理があることを教えてくれる本だと思った.
Posted by ブクログ
非線形科学。マイブームなので、読みあさっている。
内容紹介より抜粋
生命体から非生命体まで、森羅万象を形づくる、隠された法則とは?
世界的第一人者による数式を使わない画期的な入門書 自然界の秩序は、どのように生み出されているのだろうか。すべてのものがエントロピーを生成し崩壊に向かう物理法則のなかで、どのように森羅万象が形づくられているのだろう? 自然にでき上がる模様などのパターン、自ずと同期するリズムや振動…。実は、意思を感じざるを得ないような不思議な自然現象にも、複雑で手のつけようのなさそうな現象にも、明快な法則・能動因が潜んでいる。そして、非線形科学は、これまでの科学とは異なる視点から、その動的な機構を明らかにする。
私たちに新たな自然観を与える非線形科学について、第一人者が分かりやすく解説した、知的好奇心を刺激する入門書。
数式をあまり使わず、説明に特化したような印象だったが、逆にそれが仇となった感があった。時として数式の方がわかりやすいこともあるのではないかな。
ローレンツやポアンカレなどの歴史的な背景も学べる書籍だった。
熱統計力学の話、なかなかむずい。相転移とか。
目次
第1章 崩壊と創造
第2章 力学的自然像
第3章 パターン形成
第4章 リズムと同期
第5章 カオスの世界
第6章 ゆらぐ自然
Posted by ブクログ
数式無しでの非線形科学の紹介は挑戦であり大変難しい。フラクタルのイメージなどは一般的ですが。それでも自然現象の複雑性の中に秩序を見出してきた過程を感じることができます。
Posted by ブクログ
現実の事象をカオス理論や流体力学などを用いて解明するのが「非線形科学」(でいいのかな)
理想的な状態を前提とする既存の自然科学とは一線を画しているのがこの分野で、ともすれば有用なのか疑わしい側面も。
海岸線の長さは無限大など、直観に反する話が面白かったです。
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入門書と書かれているが、あくまでもアカデミックとしての入門書。新書としては難解な言い回しや説明に欠ける文構成で、読み手を選ぶ。
なんか雑多な感じで知識は増えたけど身についた感じがない・・・
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目次:
第1章 崩壊と創造
第2章 力学的自然像
第3章 パターン形成
第4章 リズムと同期
第5章 カオスの世界
第6章 ゆらぐ自然
Posted by ブクログ
要素還元的な科学観一辺倒への危惧とともに、非線形科学の概説
カオス、散逸構造、フラクタル、スケールフリー(ネットワーク)の紹介
カオスについては、ローレンツモデルが対流のモデル化であることを新しく知った。異なるカオス構造に共通に存在数、ファイゲンバウムの普遍定数
要素を見てもわからない構造に対する知見が存在する(さまざまな自然現象に共通に出現するフラクタル構造等)ことは明らか。そこに、世界の真理の手がかりがあるのか(科学が成り立つか)という問いの探求
再読したい
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
自然界の秩序は、どのように生み出されているのだろうか。
すべてのものがエントロピーを生成し崩壊に向かう物理法則のなかで、どのように森羅万象が形づくられているのだろう?
自然にでき上がる模様などのパターン、自ずと同期するリズムや振動―実は、意思を感じざるを得ないような不思議な自然現象にも、複雑で手のつけようのなさそうな現象にも、明快な法則・能動因が潜んでいる。
そして、非線形科学は、これまでの科学とは異なる視点から、その動的な機構を明らかにする。
私たちに新たな自然観を与える非線形科学について、第一人者が分かりやすく解説した、知的好奇心を刺激する入門書。
[ 目次 ]
第1章 崩壊と創造
第2章 力学的自然像
第3章 パターン形成
第4章 リズムと同期
第5章 カオスの世界
第6章 ゆらぐ自然
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