【感想・ネタバレ】レナードの朝〔新版〕のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

脳神経外科による脳炎後遺症患者の長期観察記録。ただし、無味乾燥な症状や数字のみの記録を避け、患者個々の性格や言動、発症までの暮らし、社会との関わり方までも記載し、文学的で哲学的。それは現代医療の患者を即物的に扱う姿勢への批判からきており、一見支離滅裂な行動をする患者側から見た世界、その行動原理、内在する深い人間性への洞察も記されている。物事の断片で正邪を決めつけ、糾弾してゆく世相にも、警鐘を鳴らす指摘だと思う。
どうしても『アルジャーノンに花束を』を想起する。夢の薬エルドーパによる「目覚め」と呼ばれる劇的な症状の改善、それは生まれ変わるかのような重い症状からの解放をもたらすが、強い副作用、制御不能の本能的暴走をする恐れがある。ほとんど一生を、思い通りに動かすことの出来ない肉体に押し込められ、周りの状況を詳細に認識することが難しい状態で過ごすことを考えれば、危険を冒しても打つべきなのか。それは個々人の幸福観へも繋がる問題だ。レナードはエルドーパ投与前、つまり極度な不自由さの中にあっても、自分で磨き上げた深い人間性を持っていたが、目覚めによってほとんど無くしてしまった。多くの患者の中で特にレナードに注視するのは、不自由を無くすことが患者にとって本当に良いことなのかという問題を一番突きつける存在だからだろう。極論だが、レナードを作ったものの一部は不自由さであり、それは切り離す事が出来ない彼自身でもあったのではないか。
哲学的な思考は私には追い切れない部分が多かったが、映画化に際してのロバート・デ・ニーロの役作りの描写やひいては演劇論も大変興味深く、映画作品を見てみたい。
ただのノンフィクションではなく、医師という立場から患者との関わりを通して世界の本質に迫ろうとする、意欲的な作品だった。

0
2024年04月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

そういうわけで読んでみた。
映画のおかげでタイトルは「レナードの朝」だけれど、原題は「Awakenings(目覚め)」。
本を売るには知名度の高いこのタイトルの方が良いんだろうけど、
中身はやはり「目覚め」だよな、と思う。
出版社も慈善事業じゃないのでしょうがないけど、
ちょっと陳腐化されたようで残念。

これは執筆当時(少し前)に「奇跡の薬」と呼ばれた
L-DOPAという薬の投薬記録以外の何物でもない。
はっきりとメカニズムがわかっていなかったが故にどうしても実験的な色彩を帯びてしまい、
読者はオリヴァー・サックスの判断に
疑問を感じることになるのは避けられないのではないだろうか。
『火星の人類学者』の後書きで紹介されていたアメリカでのレビューにあった
「覗き見趣味」というのはこういうところにも起因するのかな、と思わなくもない。
そういった疑問は読んでいくうちに氷解し、
当時はそれこそ奇跡に頼るくらいしか選択肢がなかったのだとわかる。
寧ろ、そういった批判も当然予想されるのにも関わらず
発表したその事実に誠実さを感じることに。
そして読んでいる最中読者が考えるであろうL-Dopaの働きは
その後のオリヴァー・サックスのL分析で裏付けされる。

先に書いたようにこれはあくまで記録なので、
ストーリー性や結論のようなものはない(L-Dopaへの分析以外で)。
なので映画のような話を期待して読み始めた人にはさぞかし退屈だろうと思う。
ここには涙腺を刺激するような話はないからだ。
臨床記録は淡々と語られ、
その前後は状況説明と映画化の舞台裏の話、
そして少々多いと感じる様々な人の後書き(作者、訳者、脳科学者…等々)。

世の中奇跡は滅多には起きない。

この間近所で、顎を体にくっつけるように折り曲げ、
すり足のように歩いていく人を見かけた。
その時、以前にもこういう人を見かけたことを思い出した。
そして気づいた。
ああ、あれはパーキンソン病なのかもしれない。
パーキンソン病患者は以外と多いらしい。
後書きに、オリヴァー・サックスは
一般の人にこういった病気があること
(『目覚め』で取り上げられている病気はパーキンソン病ではないけれど)を
知ってもらい理解してもらいたいのだと読める文章がある
(舞台化の依頼の行だ)。
そうか、こういうことなのかもしれないな、とちょっと腑に落ちた瞬間だった。

0
2015年07月26日

「ノンフィクション」ランキング